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    ghikamu

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    ghikamu

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    堂々と遅刻したヒュンポプお題「メロンソーダ」

    ※記憶持ち転生現代風パロという特殊な世界観です。

    #ヒュンポプ
    hyunpop

    メロンソーダは美味しく頂かれました「あ、あの~ヒュンケル、さん?これは一体どういう……」

     商店街にある落ち着いた雰囲気の喫茶店。目の前の特徴のあるハネっ毛の学生服の少年がオレの顔を伺いながら、目の前にあるアイスとさくらんぼの乗ったメロンソーダをつつく。不安げにこちらとメロンソーダを交互に見る様子を見てヒュンケルは懐かしい光景に思いを馳せていた。

     ヒュンケルには、生まれた時から今の世界と違った世界での記憶がある。文明の発達の仕方が現代とはまるで違う、世界地図さえ異なる剣と魔法の世界の記憶だ。その世界で戦士として、一時は魔王軍に身を堕としながらも勇者一行と共に戦った。これは決して妄想などではなく、事実であり、幼い頃からヒュンケルはその記憶と現在の精神とのギャップに悩まされてきた。何せこの鮮明な記憶を共有できる人間が周りに誰一人いない。ヒュンケルにとっては剣と魔法に縁のない見知らぬ世界にたった一人取り残された気分だった。このことはヒュンケル自身物心がついた頃から誰にも話さず心にしまい込んでいた。

     誰にも語られることのない思い出を胸の内に隠したまま、とうとう記憶の中のヒュンケルが魔王軍を抜けた頃の年齢に追いつこうとしていた。かつて戦いに身を投じることでしか自分の存在価値を見出すことができなかったが、周りにどれほど恵まれていたかを今になって痛感している。今の実の親や家族には不満はないが、かつての自分の周りに居た仲間たちが無性に恋しくなる。時が経ち記憶は薄れるどころかどんどん鮮明になっていき、現実とのギャップに苛まれた。

     そんなヒュンケルの世界が一変したのが、ついさっきの出来事だった。
    この喫茶店に入る少し前、柄の悪いチンピラに取るに足らない因縁をつけられ路地裏に連れ込まれそうになっていたところを『おまわりさーーん!!こっちでーす!』と大声で警察を呼ぶ声が聞こえ事なきを得た。路地裏から出てその声の主を見て、ヒュンケルは目を見開いておどろいた。

    『ポッ……プ……?』

     かつてのトレードマークの黄色いバンダナこそしていないが、あまりにも記憶にある大魔道士その人の姿かたちをした中学生がそこにいた。この世界に生を受けてから初めて出会う見知った顔を見て、反射的にヒュンケルの足は少年の元へと駆けていた。



     そういえば初対面で『うさんくさい男』と言われたのは、後にも先にも彼にパプニカの廃墟で出会った時が初めてだったように思う。あの時は魔王軍として実際に罠に嵌めるために近づいたのだし、後々考えると彼の勘の良さに感心するばかりだったのだが、この世界でも大学生が学校帰りの中学生の少年をつかまえて喫茶店に連れ込んでいるというのは、これまたうさんくさいとしか言いようがない光景なのかもしれない。

    「先程の礼だ、遠慮なく食べるといい」

     努めて冷静に、感情を顔に出さないように気をつけながらポップを促す。これまでの反応を見ても、どうやらポップの方にはオレと同じような記憶はないように思える。その事に少し落胆しながらも、この出会いにヒュンケルは感謝した。


    「礼っつったって、大したことはしてねえよ」

     照れくさそうに目線を逸して、メロンソーダの上のアイスをスプーンで少しすくって食べる姿は、至って普通の中学生だ。

     あの時そそくさと帰ろうとした少年の手を掴んで、お礼がしたい、と申し出たのは自分としてもかなり思い切った行動だった。だが、チンピラに対してどうなるべく血を流させない程度に場を収めるかという考えしかなかった自分の耳に届いた声。目が合ってバツが悪そうにその場を去ろうとしてヒュンケルに腕を掴まれた時の慌てた顔。そして戸惑いながらもこちらの顔を伺うその瞳。全てが記憶通りの『大魔道士ポップ』に通ずるもので、ここで逃したら次はないかもしれないと思うと体と口が勝手に動いていた。

    「それにしても、なんでメロンソーダなわけ?」

    「なんとなくだ。オレの財布の中身と相談した結果と思ってくれていい」

     本当は、ドリンクメニューを見て真っ先に飛び込んできた透き通った緑の飲み物に、目の前の少年を重ねてしまったからに他ならない。少しだけ、ほんの些細なきっかけでも、もしかしてヒュンケルと同じような記憶を思い出すのではないかという淡い期待も込めて。

    「まあ苦労してそうではあるよな、ヒュンケルさん」
     
    「ヒュンケルでいい」

     かつてはお互いいい印象とは言えないスタートだった。その後も何かとポップの方から好意的な目で見られることは少なかったが、ヒュンケルにとってはかけがえのない、どんなときも一生懸命に成すべきことをなし、魔法を自在に使いこなす自慢の弟弟子だった。強力な魔法力を身に宿し、魔法使いでありながら最前線に身を投じる姿はヒュンケルが引き継いでいる記憶の中でも特に鮮明に残っている。輝かしい功績もさることながら、あまり種族や生まれに関わらず一度懐に入れれば寛容な態度で、時にレオナのような王族でも気安く接することのできるポップを好ましいと思っていた。そんな彼の生き写しに、他人行儀で接されるのはなんだか居心地が悪かった。

    「え、そう?じゃあ……ヒュンケルは、大学生?」

    「そうだな」

    「……なんであんな怖そうな連中に絡まれてたんだ?」

    「どうも相手の彼女をオレが誑かしただのと……全く身に覚えがないのだが」

    「ぶはッ。顔がいいのも考えものだな~!モテ男ってのは辛いね色々と」

    「まったく、いい迷惑だ。お前が止めていなければオレが警察の世話になっていたかもしれん」

    「なんだよその自信~!てっきり困ってるかと思って助けたのに!くっそ~!黙って見ときゃおもしれーもんが見れたかな……!」

     しれっと言い放ったヒュンケルの言葉に、ポップは腹を抱えて爆笑した。よくダイと一緒に笑い合っていた姿を思い出して、つられてヒュンケルも顔が綻んだ。そんなヒュンケルの顔を見てポップの方も安心したのか、自然と会話は弾み、気づけば注文したドリンクがすっかり無くなったあとも話し込んでいた。今までこんなに赤の他人と話が続いた試しがなかったヒュンケルにとって、ストンとあるべきところに収まったような、不思議な感覚。この高揚感に似た気持ちが、初めて『あの世界』の記憶と結びつく人物に出会えたからなのか、それとも『ポップ』と出会えたからなのか、ヒュンケルには判断ができなかった。

    「でさ、おれのクラスメートの話で……ってうわ、もうこんな時間か!悪いヒュンケル、おれ夕飯までに帰んねえと……」

    「そうか、お前と話していて時間を忘れてしまった。すまないことをしたな」

     すっかり中の氷まで無くなったメロンソーダのグラスと店内の柱にかかっている時計とを交互に見やって、ヒュンケルもポップも苦笑する。まだ日は落ちきってはいないが、相手は中学生だ。いつまでも喫茶店に長居させるわけにはいかない。

    「いや、おれもこんなに知らね―やつと話せたの自分でもびっくりしてらぁ」

     すっかり敬語もなくなったポップはますますあの世界のポップそのままだ。このまま別れてしまっては、もう二度と会えなくなってしまうかもしれない。離れたくない。そんな想いがヒュンケルの心の中で湧き上がってくる。

    「……ポップ、またオレはお前にメロンソーダを奢ってもいいだろうか」

     店を出るポップの背中を見て思わず口をついて出てしまった一言に、ポップは振り向いてやれやれ、といった風な顔をヒュンケルに向けた。

    「おいおい、こんないたいけな中学生捕まえて何言ってんだこの色男は……そういうのは大学の美人のお姉さん方……と……って……あぁッ!!!」

     ヒュンケルに対するツッコミを言い終わらない内に、ポップは顔を引きつらせて自分の言葉を反芻するかのようにブツブツと繰り返すと、頭を抱えるようにしてへたり込んでしまった。

    「やらかした……ッ」

     急なポップの落ち込みぶりにヒュンケルは小首を傾げる。一体何があったというのだろうか。そんなヒュンケルの様子にポップは再度ショックを受けたように固まった。

    「えっ……もしかして、おれ自分で墓穴掘ったの?今のはカマかけてたわけじゃなく?」

    「カマ……?」

     なおもピンと来ていない様子のヒュンケルに、ポップは「がぁああああ~~ッ!!!気をつけてたのにィ〜〜〜!!」と頭を掻き回した。

    「もうここまで来ちまったから言うけどさ、おれ、お前に一度も名前名乗ってないんだよ」



     ―――――――――――――――――――



     あの後のなにか尋ねたくてウズウズしている様子のヒュンケルを補導されかねないからと必死に中学生特権を駆使してのらりくらりと躱して、ポップはようやく自宅に辿り着き、夕飯もそこそこに自室のベッドに倒れ込んだ。

    「助けるんじゃなかったな……」

     路地裏に連れ込まれそうになっているヒュンケルを見かけたのは本当に偶然以外の何物でもなく。助けたのも気まぐれだった。本当はこの世界にヒュンケルが存在していることがわかって飛び上がりそうなほど嬉しかったけれど、そう素直に再会を喜べない深い事情がポップにはあった。

    「会ったらまた会いたくなるに決まってるじゃねえか」

     この世界で普通に暮らしているヒュンケルの邪魔をしてはいけない。ヒュンケルとの久しぶりの会話に花を咲かせながら、ポップはその決心を固めていた。

     あの頃のように『ポップ』と優しい声で呼ばれて一瞬だけ舞い上がってしまったことが悔やまれる。様子を見る限り、ヒュンケルは元の世界の記憶を持ってはいるが、それは完全なものではなく、ある一定の時期までの記憶しか持っていないようなのだ。

     あの世界での大魔王との決着がついた後、消えた勇者も戻ってきてしばらくしてからポップとヒュンケルは紆余曲折を経て恋仲になっていた。こちらの世界に生まれてからもその想いは今も変わらず引き継がれている。だが、話をしている内に、ヒュンケルのポップを見る目がちょっと生意気だけどほっとけないタイプの弟弟子だった頃のそれであることに気付かされた。

    「おれだけ覚えてるとか、神様もひでーよな」

     とっとと忘れよう。ヒュンケルの大学の名前は聞き出したので、その周辺になるべく近付かないようにすればもう出会うこともないだろう。枕にほんの少しついた涙のシミは見なかったことにして、ポップは布団に潜り込んだ。

     

     後日、放課後にポップの学校の校門前にとんでもない銀髪長身の美形が出待ちしているとちょっとした騒ぎになり、自身の決心が揺らぐ羽目になることを、この時のポップはまだ知らない。
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    ghikamu

    MEMO堂々と遅刻したヒュンポプお題「メロンソーダ」

    ※記憶持ち転生現代風パロという特殊な世界観です。
    メロンソーダは美味しく頂かれました「あ、あの~ヒュンケル、さん?これは一体どういう……」

     商店街にある落ち着いた雰囲気の喫茶店。目の前の特徴のあるハネっ毛の学生服の少年がオレの顔を伺いながら、目の前にあるアイスとさくらんぼの乗ったメロンソーダをつつく。不安げにこちらとメロンソーダを交互に見る様子を見てヒュンケルは懐かしい光景に思いを馳せていた。

     ヒュンケルには、生まれた時から今の世界と違った世界での記憶がある。文明の発達の仕方が現代とはまるで違う、世界地図さえ異なる剣と魔法の世界の記憶だ。その世界で戦士として、一時は魔王軍に身を堕としながらも勇者一行と共に戦った。これは決して妄想などではなく、事実であり、幼い頃からヒュンケルはその記憶と現在の精神とのギャップに悩まされてきた。何せこの鮮明な記憶を共有できる人間が周りに誰一人いない。ヒュンケルにとっては剣と魔法に縁のない見知らぬ世界にたった一人取り残された気分だった。このことはヒュンケル自身物心がついた頃から誰にも話さず心にしまい込んでいた。
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