🧸vsリチャード この国では、子供だけでなく、大人がテディベアと寝ていることも珍しくはない。生まれて初めてのプレゼントであり、生まれて初めての友だちだからだ。ずっと共に過ごしてきた彼、彼女たちをないがしろにする国民は少ない。
と言うと大袈裟かもしれないが、リチャードの二人の兄も自室にそれぞれのテディベアがいたし、リチャードにも白薔薇の花弁のような白いテディベアがいた。
だから、古くからの知人であり、つい最近少しばかり親しい関係へと発展した男にぬいぐるみの友人がいても、何ら不思議ではない。
ではないのだが、まさか、こんな形で対面するとは思ってもいなかった。
初めて招かれた寝室の枕元。ベッドの主であるかのようにたたずむテディベアは、リチャードの彼(彼女)とは真逆くの黒い毛色だった。つぶらな瞳が、部屋の明かりを集めてきらりと光る。
くたびれて見えるのは、彼(彼女)が男と過ごしてきた歳月のせいだろう。目立った汚れはなく、大事にされてきたのだとひとめで分かる。愛らしい顔立ちだが、どこか挑戦的な雰囲気を感じる。まるで、ここは自分と男の愛の巣だとでも言いたげな……。
「リチャード? どうかしたか?」
「いいや、何もない」
部屋に足を踏み入れぬリチャードの名を呼び、怪訝そうに……というよりも、どことなく不安げに眉を寄せる男に笑みを返し、リチャードはテディベアへと見せつけるように彼の腰を抱いた。