小双璧 藍願は困惑していた。
藍忘機に兎の群れの中に置き去りにされてしまったのだ。別に藍忘機が悪いわけではない。餌やりに連れて来てもらって早々に、藍忘機が門弟に呼ばれたのだ。
白くてふわふわした生き物達は別に怖くないが、足の踏み場もないほどに集まっているので、少し動けば蹴ってしまいそうで動けなくなっていた。藍忘機は毎度これほどに囲まれて、どうやって抜け出しているのだろう。
「哥哥……」
「おーい、そこで何やってるんだ?」
藍忘機が戻ってきてくれないかと座り込んでいるところに背後から声をかけられて、藍願はびくりと身を竦めた。
怖々と振り返ると、藍願と同じ歳くらいの少年がうさぎの群れの外側に立っていた。
「いつもよりうさぎが密集してると思ったら、お前を囲んでたんだな。何してるんだ?」
問いかけられて、藍願はおずおずと答える。
「えっと、餌をあげてたんだけど……」
「餌を? こいつらは含光君のうさぎだぞ。含光君は知ってるんだろうなっ?」
焦った声を上げる少年に「含光君?」と聞き返しかけて、藍忘機を呼びに来た門弟が彼にそう呼びかけていたことを思い出す。その辺りの使い分けは、藍願にはまだ少し難しい。
「うん。哥……含光君も知ってるよ」
「ならいいけど。餌はやり終わったんなら出て来たらどうだ?」
ちょっと遠くて話し難いと言われて、藍願は周りを見回す。相変わらず真っ白で足の踏み場はない。
「その、動けなくて……」
「えっ、具合でも悪いのか?」
「ううん……。いっぱいいて蹴っちゃいそうだから……」
「アハハッ、なんだそれ! うさぎはそんな間抜けじゃないから大丈夫だって!」
なおも困った顔をする藍願を見かねて、少年は「しょうがないな」と白玉の群れをかき分けて来る。藍願は慌てたが、少年の言う通り、うさぎ達は少年の足を危なげなく避けていくので胸を撫で下ろす。
そのまま少年は藍願の所まで歩いて来て笑った。
「ほら、大丈夫だろ?」
「うん」
「あんた、初めて見るけど名前は?」