過去は夏の笑い話 魏無羨と藍忘機は互いに険しい表情で対峙していた。彼らの周りには泥に塗れた修士達が座り込んでいる。
「魏嬰」
「……藍湛。俺に清心音は効かない。知ってるだろう?」
「魏嬰、陳情を下ろせ」
藍忘機のいつになく強い口調に、魏無羨は眉間のしわを深め、陳情を握り締めた手を突き出す。
「無駄なことを言ってないで、ほら、かかってこい!」
「魏嬰!」
藍忘機が迫る中、魏無羨は手早く陳情を構えた。
そして発せられたのは高く鋭い笛の音、ではなく。
「食らえ!」
快活な掛け声と、細く伸びる水飛沫だった。
「藍湛! 水も滴るいい男、っていうのはお前のためにある言葉だな!」
***
「……あつい」
静室の床に転がる魏無羨の口から零れたのはその一言だけだ。
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