一つの接点翌日彼女はとあるイベント会場にいた。並んだブースをキョロキョロと眺めては口元が緩む。
「はぁかわいい。おっともうすぐミニライブの時間やな」
今日は出版社が主催するアニメイベントの日であった。彼女のお目当ては声優ユニットによるミニライブである。
「当たって良かったなぁ。楽しみ〜」
心躍らせながら集合場所に到着するとスタッフがメールに記載の番号通り整列するよう、呼びかけをしていた。他の参加者と協力しながら自分の番号の場所に並ぶと後ろから声をかけられた。
「すみません、28番ですか?」
そうですと伝えるために振り返ると赤いジャンパーにオッドアイの男性がいた。
「あ!寂雷さんの」
「え?昨日の……山田さん?なんでこんなとこに?」
「俺、このユニット好きで応募したら抽選当たっちゃって!あ、お姉さん番号28っすか?」
「うん、28番やよ」
知った顔と見て口調が砕けた一郎につられて彼女もついつい砕けた口調になる。
「俺29番なんで隣っすね!お姉さんもこのユニット好きなんですか?」
「うん。アニメから入ったんやけど曲も聞いてたら好きになったんよ。山田さんはアニメも見てる?」
「見てますよ!弟と一緒に見てるんですけど、弟は抽選から外れちゃったんです」
「弟さんいてはるんや。私一人っ子やから羨ましい。何歳離れてるん?」
「弟は二人いて、っと」
一郎が弟達の話をし始めたところでスタッフが移動の指示を出した。二人は反射的に会話をやめてスタッフの指示に従い抽選エリアに入る。司会が現れると改めて全体へ諸注意を説明していよいよミニライブが始まった。
「めっちゃ可愛かったね!」
「俺、生歌聞けて感動しました」
「わかる。生で聞くと迫力がちゃうよね」
「そうなんすよ!熱くなれちゃうんですよね」
ミニライブが終わると二人はひたすらに感想を言い合っていた。同じものが好きだとわかった二人はミニライブの感想から声優の話、アニメの話、漫画の話とどんどん展開していき、話が落ち着く頃にはすっかり打ち解けていた。
「いやー、同志と話すのやっぱおもろいわ。付き合ってくれてありがとう」
「俺も楽しかったですよ。一人でも楽しいけど誰かとだともっと楽しいですよね!」
「せやね……あ!」
会場の時計を見て声を上げた彼女を一郎は不思議そうな顔で見つめた。
「どうかしました?」
「山田さん、私そろそろ帰る時間やわ。また現場で会えたら声かけてな」
そう言って帰ろうとする彼女を一郎は慌てて止める。
「俺ももう帰るんで一緒に帰りましょ。あと山田さんじゃなくて一郎って呼んでください」
「ホンマ?道がよくわからんから助かるわ。ありがとう、一郎君」
「じゃあ帰りましょっか。どこまで帰るんですか?」
「オオサカまで。とりあえず電車に乗れたら大丈夫やから駅まで頼むね」
二人は歩き出すとまた趣味の話に花を咲かせた。その結果、一郎は彼女を新幹線の改札まで送ることとなった。
「今日はありがとう。一郎君がいてくれてめっちゃ助かったわ」
「俺も話できて楽しかったです。あの、よかったら連絡先交換しませんか?オタク話もしたいし、遠征の時また会って喋りたいです」
「しよしよー。オタク仲間増えるの嬉しい」
改札前で連絡先を交換しながら笑い合う二人はその後もギリギリまで話し続け、彼女は危うく新幹線を逃しかけた。