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    noi_bye2kin

    @noi_bye2kin
    夢ばかり書いてます。DCの大人たちが好き。他のジャンルも軽く書く。

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    noi_bye2kin

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    4話。
    一郎と池袋をぶらぶらする話。家に行ったりする。

    プリンは三個、コーラは一本「はぁ〜めっちゃ興奮する」
    一郎は彼女を連れて池袋を案内していた。案内と言っても普通の観光案内ではなく作品の舞台となった場所を巡る、所謂聖地巡礼だった。
    「いつもみんなが遊んでるとこやん。アニメと現実がシンクロする感じたまらんわ」
    「ここであのキャラが、とか思うとドキドキしますよね」
    じゃあ次の場所に行きましょうと一郎が歩き出そうとすると近くを歩いていた男性が声をかけてきた。
    「あ、一郎君。こないだはありがとね」
    「あぁ、佐藤さん。またいつでも連絡ください」
    頼りにしてるよと言って去っていった男性を見送ると一郎は彼女に先程の男性が萬屋の客であることを説明した。
    「イケブクロの何でも屋さんやもんね。あ、今日も依頼あったんちゃうん?大丈夫?」
    彼女の言葉を聞いた一郎の頭に寂雷の声が浮かぶ。
    「今日は聖地巡礼の為に空けてたんで大丈夫っすよ」
    なんとなく、寂雷からの依頼を隠して、一郎は彼女に笑顔を向けた。


    朝からイケブクロを歩き回った二人は休憩を兼ねてお昼ご飯を食べ、一息つくことにした。
    「今日はめっちゃ楽しいわぁ。一人やったら道に迷ってたやろうしほんま助かった。ありがとう」
    「ブクロは庭なんでお安い御用ですよ。喜んでくれて嬉しいっす」
    太陽のように笑う一郎に彼女もつられて笑顔になる。
    「この後どうしますか?他に行きたいところあれば案内しますけど」
    「せや、住宅街の方にある公園に行きたい。こないだ勧めてくれたアニメで転生前に主人公がおるとこってイケブクロの公園がモデルなんやんね?」
    彼女の言葉に一郎は目を輝かせた。
    「そうっすよ。勧めたやつ見てくれたんですね」
    「まだ三話までしか見てへんから言うてなかったけど、オモロいね」
    「そうなんすよ!結構原作を忠実に再現しているんですけどやっぱり多少エピソード削ってるんで、もし気に入ったら原作も読んでください。マジで」
    「オッケー!とりあえず最後まで見てみるね。ほなそろそろ行こっか」
    二人の間にある伝票をサッと手に取り席を立つ準備をしだした彼女に一郎は声をかける。
    「あ、俺出しますよ」
    「え?いやええよ。案内して貰ってるし」
    「それを言うなら、アンタはオオサカからわざわざ来てくれたじゃないっすか。交通費かかってるんだし俺が払うんで浮いたお金でさっきの原作買ってください。じゃ、払ってくるんで」
    戸惑う彼女の手から伝票を取り上げると一郎はスタスタとレジに向かった。その姿を見て彼女は大人しく席を立つと店の外に出て一郎を待つことにした。
    「お待たせしました」
    支払いを終えた一郎が外に出ると彼女は軽く頭を下げた。
    「ありがとう。ごめんな、案内してもらってる上にご馳走になってしもて」
    「気にしないでください。じゃあ、公園の方行きましょうか。少し歩くけど良いですよね?」
    「もちろん!」
    彼女がそう返事をすると一郎はこっちですと歩き始めた。しばらく歩くと街中の喧騒が薄れ景色が住宅街へと変わっていく。二人がラノベの話で盛り上がっていると近くの家から小さな男の子が飛び出してきた。
    「あ!イチロー!」
    男の子はタックルをする勢いで一郎に駆け寄る。
    「お、どうした?」
    「机作って!」
    「机?」
    一郎がきょとんとしていると男の子が飛び出してきた家から母親が出てきた。
    「あ、一郎君。ごめんなさい、この子ったら。でもちょうど良かったわ。依頼したいことがあるの」
    母親からの依頼は組み立て式の机を作って欲しいというものだった。最初は自分達で作ろうとしたが思うように進まず、萬屋ヤマダへ依頼することになったようだ。
    「依頼内容はわかりました。けど今すぐは対応できないので明日とかでも構いませんか?」
    一郎の提案に母親は頷いたものの男の子が駄々をこねる。
    「えー!今作ってよ!今日パパに写真送りたいの!」
    「こら!我儘言わないの」
    母親は男の子をぴしゃりと叱ると一郎に申し訳なさそうな顔を向けた。
    「夫は今単身赴任しているのだけど、この子が今日写真を送るって約束していたみたいで」
    「あぁ、じゃあ弟達に手が空いてないか聞いてみます。組み立てなら弟達でも問題ないでしょうし」
    そう言ってスマホを取り出す一郎に彼女がストップをかける。
    「待って。せっかくやからやっていこうや」
    「へ?今アンタの案内してるじゃないですか」
    「それはそやけど、公園は逃げへんやん。一郎君が良ければ私も手伝うし」
    彼女の提案に一郎が返事をする前に男の子が喜びの声をあげる。
    「やったー!お姉ちゃんありがとう!」
    「どういたしまして。完成したらパパさんに写真送ろな」
    彼女と男の子がにこにこと話をしている横で一郎は呆れながら母親に今から引き受ける旨を伝えた。


    「こっち押さえてるんでそっちお願いします」
    「一郎君ネジ取って」
    「せーので持ち上げましょう」
    二人で声をかけながらテキパキと作業を進めると一時間も経たずに机が完成した。
    「すごーい!イチロー、お姉ちゃん、ありがとう」
    「二人共、ありがとうございました」
    男の子はお礼を言うと机に駆け寄り、母親は一郎に封筒と紙袋を渡した。
    「こっちは田舎から送られてきたからお裾分け」
    「えっみかんっすか?ありがとうございます!弟達といただきます」
    「いえいえ、いつもありがとう。助かったわ」
    男の子の家を出ると二人は当初の目的である公園へと歩き出した。
    「さっきは手伝ってもらってすみません」
    「謝らんといて。あの親子困ってはったし、お手伝い楽しかったで」
    「そう言ってもらえると助かります。あ、もう着きますよ」
    公園に着くと一郎は彼女に解説をしながら案内をした。傾き出した太陽が二人の影を長く落とす頃、二人はベンチに腰掛けた。
    「もう夕暮れやね。今日は一日中付き合ってくれてありがとう」
    「こちらこそ。改めてブクロを巡ったんでなんか新鮮でした」
    「住んでるといつでも行けるって思うから逆に行かへんかったりするよね。ふふっ、一郎君みたいな弟がおったら毎日楽しいやろな。こうやって聖地巡りできるしオタク話できるし」
    その言葉に思わず家に彼女がいる光景が頭によぎる。一郎は想像した光景に押されてか言葉が口を衝いた。
    「晩飯、ウチで食べません?」
    「え?」
    目をぱちぱちと瞬きしながら戸惑う彼女を見て慌てて言葉を続けた。
    「あ、誰かと約束してたりします?」
    「してへんけど、お邪魔して大丈夫?」
    「弟達がいるんで騒がしいですけど、ウチなら気兼ねなく話できますし、帰りはホテルまでちゃんと送ります」
    「ほな、お邪魔しよかな。せっかくやし」
    彼女の返答に慌てた心が落ち着きを取り戻す。自分でもどうして家に誘ったのかわからないまま、一郎は彼女を家に連れて帰った。


    家に着くと二郎と三郎が我先にと一郎を出迎えた。
    「兄ちゃん、おかえり」
    「おかえりなさい、一兄」
    「ただいま。今日はお客さん連れてきた。一緒に夕飯食べるから、準備するぞ」
    玄関で彼女を紹介すると二郎と三郎は品定めをするようにジロジロと彼女を見た。
    「兄ちゃんはみんなに優しいんだから勘違いするなよ」
    「珍しく二郎と同意見だ。一兄に家に誘われたからって自惚れるなよ」
    二人があからさまに敵意を含んだ言葉を放つと一郎が声を上げる。
    「お前らなぁ」
    「二人共めっちゃお兄ちゃんのこと好きなんやね!ちなみに一郎君の良いところってどこなん?教えて?」
    二人を注意しようとした一郎の声は彼女の声にかき消された。
    「は?全部に決まってるだろ?兄ちゃんは誰よりもかっこいいんだ!」
    「僕達の面倒を見てくれて仕事もこなして、一兄は世界で一番素晴らしい人間ですよ」
    自慢気に答える二人に彼女はふむふむと相槌を打ったりなるほどと感心している。
    「もっと教えてほしいなぁ。晩ご飯食べながらでも聞かせてくれへん?」
    「しょうがねぇな。聞かせてやるよ」
    「一兄の素晴らしさを叩き込んであげますね」
    「わーい。お邪魔しまーす」
    いつのまにか一郎より先に彼女は山田家に足を踏み入れ、その様子を黙って見ていた一郎はやれやれと言った様子で靴を脱いだ。


    一郎と三郎が夕飯のカレーを用意している間、二郎は彼女の相手をしていた。最初は警戒していた二郎だったが彼女もアニメが好きだと知るとどんどん警戒が解け、食事中は一郎も加わって三人で盛り上がった。そんな中、三郎は一人つまらなさそうに黙々とカレーを口に運んでおり、その姿を目にした彼女は三郎に話しかけることにした。
    「三郎君はボードゲームが好きなんやよね?」
    「そうだけど、それが何?」
    「アリーヌってボードゲーム、やったことある?」
    ゲームの名前を聞いた三郎は少し不機嫌そうに返す。
    「僕のこと馬鹿にしてるの?あんな有名なゲーム、やったことない人の方が稀だろ」
    「ごめんね、馬鹿にしてるわけやないねん。私、好きなんやけどなかなか勝てへんから、コツとかあったら教えてほしくて」
    慌てて訂正する彼女に三郎は淡々と答えた。
    「あのゲームは資材集めと開拓をバランスよくやりつつ攻めるときは攻めるしかないよ」
    「それが難しいんよねぇ」
    「まぁ最初は牧場にいる牛や鶏を育てて資材集めに集中した方が良いね。特に鶏は金の卵を産むことがあるし」
    なるほどと彼女が返す横から、一郎が口を挟んだ。
    「なぁ三郎、そのゲームってウチにあったよな?飯食ったらみんなでやろうか」
    「良いんですか?一兄」
    一郎の提案に三郎は一気に顔を明るくさせる。
    「最近付き合えてなかったからな。アンタも良いか?」
    「もちろんえぇよ。人数おらんとできひんし」
    「よし、じゃあ食い終わったら俺と二郎で片付けするから、二人はゲームの準備をしてくれ。二郎も良いよな?」
    「うん!」


    食事を終え、四人で盤面を囲むと三郎が彼女に声をかけた。
    「とりあえず、最初は普段通りやってみて」
    「ありがとう。助かるわぁ」
    三郎の言葉通りにゲームを始め、彼女は負けた。四人中四位である。三郎はそんな彼女に呆れたように言葉をかけた。
    「ねぇ、何で序盤から鉄を集めてるの?」
    「後々必要やから、取れる時に取っとこうと思って」
    「それはそうだけど早すぎでしょ。先に食料とか木とか集めなよ。後資材を満遍なく集めすぎ。必要な個数はそれぞれ違うんだし、例えば綿とかの開拓ついでに拾えるものは大事に集めなくて良いんじゃない?なんていうか、タイミングが悪い」
    三郎に言われたことに気をつけながらゲームを進めると、彼女が勝てることも増えてきた。といっても四位が三位になるくらいであった。何回目かのゲームを終える頃、そろそろお開きにしようかと一郎が口にした。
    「じゃあ俺この人送ってくるから、二人は先に風呂入っててくれ」
    帰り支度を済ませた彼女は一郎と共に玄関へ向かった。その後ろには二人を見送るべく二郎と三郎が続く。靴を履いて二郎と三郎に軽く会釈をしながら彼女は挨拶をした。
    「二郎君、三郎君、今日はありがとう。めっちゃ楽しかったわ」
    「またアニメの話しよーぜ」
    「ボードゲームの相手ならまたしてあげても良いよ」
    またねと言って山田家の家を出ると外はすっかり暗くなっていた。一郎にホテルの場所を伝えると駅前のとこっすねとすぐにピンときたようだった。
    「今日はすんません、こんな遅くまで」
    歩き出してすぐ一郎が口を開いた。
    「こちらこそ、遅くまでごめんな。楽しかったからついつい長居してしまったわ」
    歩みを止めることなく彼女が返すと一郎はホッとしたような表情を浮かべた。
    「俺も楽しかったです。二郎と三郎も楽しそうにしてたし」
    「二人共めっちゃ一郎君のこと好きやね。今朝街の人に話しかけられたり親子に依頼されたりしたときも思ったけど、一郎君って面倒見良くて、お兄ちゃんって感じすごくする。二郎君と三郎君が自慢するのもわかるわ」
    にこにこと話す彼女の横で一郎は少し照れくさそうに笑った。どんどんと近づく喧騒が、駅前が近いことを示す。もう少しこの時間を味わっていたいと思いながらも足を止めることなく彼女が泊まるホテルに着いた。
    「じゃあ、おやすみなさい」
    帰ろうとする一郎に彼女が待ってと声をかけた。
    「ちょっとコンビニ寄るから、ここで待ってて」
    そう言って彼女はホテルの横にあるコンビニに姿を消した。言われた通りに待っているとコンビニのビニール袋を下げた彼女がお待たせと戻ってきた。彼女はガサゴソと袋からペットボトルを取り出すと袋をはい!と一郎に渡す。
    「これ、三個あるからみんなでひとつずつ食べてな」
    一郎が袋を受け取って確認するとプリンが三個入っていた。お礼を言おうと一郎が顔を上げると、彼女は先程袋から取り出したペットボトルを差し出していた。
    「そんで、これは二人には内緒ね。いつも頑張ってる一郎お兄さんにささやかなプレゼントやで」
    イタズラっぽく言う彼女から受け取ったのはコーラだった。
    「すげー嬉しいっす」
    素直にそう伝えると彼女は満足そうな顔をしてほなまたねとホテルに入って行った。一郎は受け取ったコーラをしばらく見つめて袋にしまうと帰路につくなり電話をかけた。

    『はい』
    「寂雷さん、すみません。今日の依頼、失敗しました。依頼料は全額返金します」
    『失敗だなんて君らしくないね。何かトラブルでもあったのかい?』
    「俺、寂雷さんとは良い関係でいたいんですよ。でもバトルは別です」
    『おや、そうかい。じゃあ私も頑張らないといけないね』

    電話を切って家に帰ると一郎は彼女にもらったプリンを冷蔵庫に入れ、二郎と三郎にプリンをもらったことを伝えた。無邪気に喜ぶ二人がなんだか眩しく見える。一郎はもらったコーラを開け、シュワシュワと弾ける炭酸を自身のざわつく気持ちと一緒に飲み込んだ。
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