セーフハウスにふたりきりのしずかな夜更け。
だだっ広いリビングのソファに腰掛けて、お気に入りの濁り酒を口に含む。あまく喉を焼くアルコールが、身体を巡ってゆるやかに頭を溶かしていく。
そこに、罪悪感も忘れたい想いも存在しないなんて。
まさかこんな気持ちで酒が飲める日が来るとは想像もしていなかった。
(それもこれも、全て――)
「モクマさん、どうですか?」
ちょうど思い描いていた声に呼ばれて振り向くと、長い髪をひっかけてむきだしになった薄い耳たぶの上で、ちいさな赤い石が嵌まったカフスは、まるでそこにいるのが当たり前のような顔をしていた。
「おお~……」
お猪口を置いてきちんと向き直る。次回の潜入向けに開発された超小型の発信機は、見た目だけではまったくそうとは見えないし……、
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