Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💛 💜 🌜 🍶
    POIPOI 61

    モクチェズワンライ0424「マッサージ」で参加です。お風呂上がりにモさんから肩もみされるチェの話。身も心もほぐしちゃお。

    #モクチェズ
    moctez

    「ささ、チェズレイさん。こちらへどうぞおかけなすって」
    スイートルームの一人がけチェアを引いてモクマがチェズレイを手招く。
    「ふ、では宜しくお願いしますね」
    チェズレイはバスローブの紐を結びながら、椅子に深く腰掛けた。目の前にある鏡越しにモクマと目を合わせる。磨かれた鏡面は曇りひとつなく、施術者の動きを全て映し出す。これならば下手なことはできまい。

    ――風呂から上がったら肩もみをさせちゃくれんか。寝間着着たままで構わんよ

    入浴前に脈略なく出された提案をチェズレイは承諾した。
    快諾した理由はみっつある。ひとつに、疲労を労る相棒の優しさに絆された。ふたつに、かつて整体師として仕事をしていた男の腕前に好奇心が疼いた。そして、自身の潔癖へのリハビリを兼ねてだ。
    チェズレイは鏡の前で背筋を伸ばした。
    モクマの熱い視線が背中に真っ直ぐ刺さっているのを感じ取る。柔らかなタオル地に包まれた上半身を見分する琥珀色の瞳に不快感は覚えなかった。
    それもそうだ。彼は自分を蹂躙しようとか汚してやろうとか考えていない。風呂上がりで髪をシニヨンに結っているチェズレイの姿を見て鼻の下を伸ばしている下衆ではあるが、下劣ではない。その違いをチェズレイの心は分別している。
    生涯の相棒に定めた男へ心を許せている。人を信じられている。そのことに少しホッとする自分がいる。
    「…………」
    細く吐き出された吐息をモクマは緊張していると受け取ったようだった。背中をつぶさに見つめていた瞳を持ち上げ、声をかける。
    「お客さん、背筋が真っ直ぐ伸びてて素敵だねえ。しゃんと前を向いて歩いてきた男の背中だ。背骨の歪みも見られないし、惚れ惚れするよ」
    「おや、リップサービスがお上手ですねェ」
    「本心だよ」
    しっとり甘いテノールを耳に注がれ、チェズレイは背筋を震わせた。
    「肩、触るね」
    「……どうぞ」
    モクマの手が両肩に置かれる。風呂上がりで火照ったチェズレイの体温よりも更に熱く湿った男の広い手が肩の輪郭を軽く撫でる。そのまま下へ移動し、二の腕を柔く揉まれた。
    「無駄な肉が無くて引き締まってる。おじさんの見てないところで鍛えてたりする?」
    「さァ、どうでしょう」
    「秘密なのね。そんじゃ、次は肩甲骨触るよ」
    次に手のひらが向かったのは肩甲骨のあたり。親指の腹で骨の形を撫でるように擦られる。
    「んっ……」
    一瞬漏れた声を耳聡く拾い上げたモクマが手を止めた。鏡の向こうにあるチェズレイの顔を伺う。
    「痛い? 気持ち悪い?」
    「いえ、少々くすぐったいだけです。続けて」
    「はいよ。ちょっと強く押すよ」
    モクマの指がゆっくりと首の後ろに沈められていく。指圧され解されていく筋肉から脳髄へ駆け上がるパルスを感じた。
    「……ッ、ァ、……は、ぁ」
    ひとりでに喉が震える。
    「……今どんな感じ?」
    「フ、……じんわりと鈍い痛みを感じます。ですが、嫌悪感や不快感はない、ですねェ」
    チェズレイの感想にモクマがにっこり笑みを浮かべる。
    「そいつは、いたきもちいってヤツだね。良かった良かった」
    「んっ、……さすが、伝説の整体師になりかけた男の手は一品ですね」
    「ゲゲッ、お前さん、どこでそんな話を……て今更だわな。ミカグラ島でチームを組む段階でおじさんのこと調べ上げてるだろうし」
    「顔も本名も変えていない男でしたので、そこまで労せず調査できて助かりましたよ、モクマ・エンドウさん」
    「はは、どうもね。しかし、お前さんの肩、凝ってるねえ」
    モクマの手が左右交互に肩の筋肉を揉みほぐす。何かを確かめるような意図した動きだった。
    「どうぞ続けて」
    促すと、モクマは神妙な顔をする。
    「うーん、左右のバランスがちと違うね。お前さん、左側からの動きに特に弱いだろう。それを右側でカバーするからかな。左よりも右に筋肉が偏ってついてるし、凝ってる」
    自覚している左右差について言い当てられ、チェズレイは口元を緩めた。隠していたわけではないが開示もしていなかった。モクマから指摘されたのも今日が初めてだ。
    「……気づきましたか。左の視力が弱いために左側が死角になりやすいと」
    「腐っても元忍びなんでね。敵の息の根を素早く確実に止めるために観察眼は鍛えさせられた。最初にオフィス・ナデシコでお前の剣を抜いて突きつけたあの夜に大体確信してたよ」
    チェズレイの皮膚が粟立つ。出会ってわずか数日で弱点を見抜かれていたというのか。
    首筋に置かれているモクマの手の熱さに心がざわつく。彼に殺意があればすぐにチェズレイの息の根を止めることが出来るだろう。殺気を気取られる前に暗殺を完了できる忍びの手腕ならば。チェズレイとて弱点の左側から手刀を打ち込まれたらひとたまりもない。
    肩に置かれた癒やすための手が男の意思ひとつで凶器に代わることを夢想した。守り手である男がそうする理由はないが、やろうと思えば不可能ではない。
    チェズレイは身震いした。
    「……な、なして昂ぶっとるのお前さん。今の会話に興奮するツボあった?」
    歯茎を剥き出しにし、舌を飛び出させるチェズレイの顔を見てモクマが頬を引きつらせた。
    「フフフ、本当にあなたという人は私のツボを的確に押さえるものですから。クセになりそうですよ」
    「そ、そうかい。じゃあ、これからは道具に頼らず、ばんばん俺の手を頼っちゃくれんか。体験したとおり、マッサージには自信がある。今日はそれを教えたくて声をかけたんだ」
    得意げなモクマの台詞にチェズレイはきょとんと目を瞬いた。
    「道具……?」
    いったいなんの話だろうと首を傾げると、モクマも同じ向きに首を傾げてみせた。
    「あれ? お前さん、酷い肩こりだから毎日肩たたき機でマッサージしてるんじゃなかったのかい?」
    「肩たたき機?」
    肩を叩くための道具を持ち物として所持した記憶はない。認識に齟齬があるので、チェズレイはモクマの言う肩たたき機がどんな形の物か尋問した。
    モクマは瞳を左上に持ち上げて顎をさすった。
    「たしかYの字になってて、分かれた2つのさきっぽに小さなイボイボの丸いボールがくっついてるヤツだよ」
    「…………は?」
    地を這う低い声がチェズレイの喉から飛び出た。
    「へっ?」
    目を丸くするモクマをよそに、チェズレイは椅子から立ち上がり洗面所へ向かう。取り出してきた物を見て、モクマが「そうそう、それ!」と声を上げた。
    なるほど。彼は勘違いしている。
    「これはハンディマッサージャーではありません。美容ローラーというものです」
    顔や脚のむくみを取るための道具だと解説すれば、モクマは雷を打たれた顔をして固まっていた。その面が酷く間抜けであったので、チェズレイは肩を震わせ、口角を引き上げて笑いを堪えるのに必死だった。頬の筋肉が持ち上がるのを止められない。腹筋が痙攣する。
    「ふっ、ふふふふふへへへ……」
    「わらわんといてえ〜」
    「ははははは、はぁ〜……」
    ああ、一人では知り得なかった。
    モクマとの日常が何よりのリラクゼーションになるなんて。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺👍👍☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    ぱんつ二次元

    DONEED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもし 6235

    💤💤💤

    INFO『シュガーコート・パラディーゾ』(文庫/152P/1,000円前後)
    9/19発行予定のモクチェズ小説新刊のサンプルです。
    同道後すぐに恋愛という意味で好きと意思表示してきたチェズレイに対して、返事を躊躇うモクマの話。サンプルはちょっと不穏なところで終わってますが、最後はハッピーエンドです。
    【本文サンプル】『シュガーコート・パラディーゾ』 昼夜を問わず渋滞になりやすい空港のロータリーを慣れたように颯爽と走り去っていく一台の車——小さくなっていくそれを見送る。
    (…………らしいなぁ)
    ごくシンプルだった別れの言葉を思い出してると、後ろから声がかかった。
    「良いのですか?」
    「うん? 何が」
    「いえ、随分とあっさりとした別れでしたので」
    チェズレイは言う。俺は肩を竦めて笑った。
    「酒も飲めたし言うことないよ。それに別にこれが最後ってわけじゃなし」
    御膳立てありがとね、と付け足すと、チェズレイは少し微笑んだ。自動扉をくぐって正面にある時計を見上げると、もうチェックインを済まさなきゃならん頃合いになっている。
     ナデシコちゃんとの別れも済ませた今、ここからは本格的にこいつと二人きりの行き道だ。あの事件を通してお互いにお互いの人生を縛りつける選択をしたものの、こっちとしてはこいつを離さないでいるために賭けに出ざるを得なかった部分もあったわけで、言ってみれば完全な見切り発車だ。これからの生活を想像し切れてるわけじゃなく、寧ろ何もかもが未知数——まぁそれでも、今までの生活に比べりゃ格段に前向きな話ではある。
    30575