ねむり姫をとりかえせ ① 真っ暗闇のコーヒーの湖面にスプーンのオールを突き立てて、くるくる漕ぎながらミルクを細く注ぐと、渦巻く白がしだいに融け合ってやわらかなベージュに変わっていく。
「……よし」
そうしてできあがったチェズレイの言うところの『濁った』カフェオレのたっぷり入ったマグの取っ手を両手に引っ掛けて、キッチンに立つモクマはちいさく気合いを入れた。
「できたよ」
「……あぁ、ありがとうございます」
「まだ調査続けてるの? もう潜入に必要な情報は出揃ったと思うけど」
「私は心配性なのですよ。ボスよりも更にね。まだパーティまで時間はある、ベストを尽くさないで失敗したら後悔しても仕切れない」
リビングに戻ってローテーブルにカップを置くと、姿勢よくソファに座るチェズレイはタブレットを弄る目を上げることなくただ細い腰だけを横にずらした。おとなしく空いた場所に座りながらちょっと非難めいた声を出すけれど、隣の人の返事は穏やかに流暢につれない。
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