遮るものなく広がる一面の夜空は、壁を覆うために吊り下げられた大きな幕みたいだと、モクマは主役のいない舞台を見つめながら思った。
しかもただの布ではない。深い紫紺色をして、びろうどのようになめらかで重厚で、いかにも相棒の故郷にふさわしい、高級感のある夜の色だった。
星は見えなかった。雪を降らすための薄雲が、布地の上を覆っているから。
半透明の紗幕は上手から吹き付ける風に乗って舞い散る雪の小粒とあいまって、はかなげでうつくしい世界を作り上げていた。
ひゅおおおおう。ひゅおおおう。
か細い風音が、彼女の不在を嘆くように響き渡る。
ほんの数分前まで、ここにはとびきりきれいな空の上のお姫様がしゃんと背を伸ばして立っていた。
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