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    tempesten10

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    tempesten10

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    キスの日モクチェズできました。
    ヴ愛の後のはじめてのキスです!

    #モクチェズ
    moctez

    あいをこめてあなたにキスを「チェズレイ、三日後にキスしていい?」
     モクマさんからの言葉は唐突だった。そのとき、私はどんな顔をしていたのだろう。次第に困ったような顔をし始めたモクマさんは私を傷つけまいと言葉を選んで話しているようだった。
    「……」
    「嫌なら嫌と言っていいし、その……事前にいった方がいいと思って」
    「嫌とは言っていませんよ」
     平静を装ってモクマさんに言葉を返す。だが手は言葉よりも雄弁で、己でもかたかたと震えていることに気付いた。その手をモクマさんに悟られてはいけない。彼は優しい下衆だから、きっと止めてしまうだろう。
    「うん、じゃあ三日後に」
     そう言ってモクマさんは病室から外へ出ていった。ヴィンウェイの事件からまだ一週間程しか経過していない。その間に息のかかったこの病院に押し込まれた。
    私の心の中では一層モクマさんが心に住み着いている。彼が望むならば……、そう思っていても心の奥底でもやつく感情が露呈される。その気持ちに蓋をして私も椅子からベッドへと戻った。

     通常病室のベッドというよりは高級寝具会社のベッドとあまり変わりの無いベッドに突っ伏す。
    (三日後……)
     モクマさんのことばばかりが心を駆け巡る。だが、嬉しい筈なのに脳は警告を放ち続けている。
     流れ出る映像は情報収集時にキスをした直後に押し倒し、我が物としようとした下衆の行為ばかりが流れていく。キスをするならまだいい。部屋に入った途端獣と化した下衆もいた。
    (モクマさんもキスをしたらあの獣のように……)
     飢えた獣のように襲い制止も効かないのだろうか。頭を横に振る。
    (いや、モクマさんは違う、違う。あの人は――)
     強く優しいひとだから。そう願いたい。でもやはり、己の身に危害は及ばなくとも、眼前で見せ付けるかのように豹変する者ばかりが脳裏をちらつく。
     危険、危険だ、彼は獣だと脳は叫ぶ。
     それと同時に心はモクマさんが好き。好きだと叫んでいる。
     モクマさんとキスしたら――と思えど、どうしてキスが怖いんだろう。
     恐怖の原因を探るため大きく深呼吸し、目を閉じる。
     だが脳内でキスのシミュレーションは行えなかった。モクマさんが私にどんなキスをするかもわからない。
    「あなたは、どちらなのですか……」
     ゆっくりと目を閉じる。このときばかりは入院してよかったと、心の底から思えたのだった。

     三日後は退院日だった。銃創からくる感染症の熱も思うよりひどくなかったらしい。
     モクマさんの運転でリゾートホテルに到着する。明日は遂に御母堂様と顔を突き合わせるらしい。
    「チェズレイ、座って」
    「どうしてですか?」
     仄昏い部屋で籐の椅子を勧めるモクマさんが可愛らしい。
    「身長足りないからロマンチックに欠けるかもしれないけどさ」
     椅子に座る。これまでに何度もお互い向かい合った筈なのにこんなに恥ずかしいのは何故だろう。
    「チェズレイ」
     返事をしようとした途端、少し屈んだモクマさんが私の唇に己のそれを触れあわせた。
    ちゅ。
     リップ音が耳に残る。
     がさがさとした唇だった。
    (ここからきっと下衆の本性が――)
     身体が強張って動けない。瞳さえもモクマさんのことを見られない。私は強く目を閉じた。
    「怖くないよ」
     再びリップ音のするような啄むキス。
    (あなたはきっと――)
    「俺のことみて欲しいな。キスをしてるのは俺だよ。他の誰でもない」
     唇同士を押さえつけるようなキスがきた。恐る恐る目を開くと三日前の困ったようなモクマさんの顔が見えた。
    「やっぱり世界で一番好きだよ」
    (嘘だ。そんなの誰にでも――)
     否定をするようなキスが唇に落とされる。
    「言わないよ。もう、チェズレイにだけ」
     リップ音のするキスがまた降りかかる。もう、何回目だろう。私の心さえ読まれてしまう。
     ふと、気になったことをモクマさんに伝えた。
    「お酒の香りがしませんね」
    「だって、チェズレイとのキスの思い出を酒の香りにしたくないからさ」
     照れながら話すモクマさんは私にそっとキスをした。かさついているけど暖かい、冷たい私と正反対の暖かいキスだ。
    「柔らかくて、艶やかだ」
     モクマさんが柔和な笑みを私に向けてくる。その笑顔が好きでたまらない。その笑顔を私に向けて欲しい。誰よりも、何よりも一番私に向けて笑って欲しい。
    「がさついて、手入れも禄にされてない……最低だ。でも私にとって、最高です」
     もう、言葉を紡いだ途端視界が滲んでしまった。モクマさんの笑顔も見えない。ぼけた視界でなんとか彼に抱き付くのが精一杯だった。
    「モクマさん……」
    「苦しい思いをさせて、ごめん……」
     モクマさんの大きい節張った手が私の背中に回った。その手が私をずっと守ってくださる、その言葉が私の心を癒やしてくれる。その身体が……きっと私の身体を愛してくれる。
     やっと実感が沸いた。この愛しい人を離すものかと。
    「あなたがいたからです。モクマさん、愛してます」
     私からモクマさんへ。
     精一杯のキスをこめて。
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