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    ヒューベルトがベルナデッタに向けて「手に負えませんな」っていっぱい言う話が読みたぁい。ヒュベルのワンシーン。

    手に負えない話(仮題) ベルナデッタはたいへんに目が良かった。
     彼方を見通すだけではなく、夜目も効く。目の端で動くものだって、誰よりも早く見つけた。どうやら彼女はその才能を活用し、深夜に針仕事と散歩を同時にやってのけているらしかった。
     明月の晩には幽霊がうろつき人をさらう……、とまことしやかに語られる怪談の正体がベルナデッタだと判明したとき、エーデルガルトはヒューベルトもかくやという大きなため息をついた。ただでさえ修道院内に紛れ込んだ闇に蠢くものの痕跡を拭うのに腐心しているというのに、さらに自学級の生徒が警戒を深めるような振る舞いをしていたのだ。どうしたものかしら、と呟くエーデルガルトに、私からよぉく言い聞かせておきましょう、怯えて少しは素行を改めるやもしれませんからな、と、そう申し出たのはヒューベルトであったのだが、どうやら判断をしくじったようだった。
     恐怖のあまりにか、立ったまま意識を手放したベルナデッタを前に、さすがのヒューベルトも途方にくれていた。
    「あの、ベルナデッタ殿」
     気を失われてしまっては、言い聞かせるどころではない。目を覚ましてくれまいか、と、いっそ懇願するような心地で気を失った少女の肩にかるく触れる。その拍子に彼女はバランスを崩してくたりと倒れ込み、ヒューベルトは慌ててそれを抱き止めた。こんな所で頭でも打って戦力外になられたらたまったものではない。
    「ベルナデッタ殿、ベルナデッタ殿……。起きませんか。はぁ、仕方ありません。部屋までお連れします」
     聞こえていないであろう少女に律儀に断りを入れて、ヒューベルトはベルナデッタの膝裏に手を回して抱え上げた。小柄とはいえ、ぐにゃりと力の抜けた四肢はそれなりに重い。初めてベルナデッタを見た時はとても武器など持てそうにないと思ったものだが、こうして触れてみれば、未成熟ながらもやはり弓を持ち戦場を駆けるしなやかな肉体を持っていると、ヒューベルトは感心した。警戒心の強さといい、すばしこさといい、それから突然気を失うところまで、まるで野兎のようだ、と考えてから、いや兎は戦場になど出はしないか、と思い直した。それに、ベルナデッタは臆病だが、追い詰められれば容赦なく牙を剥く。そうだ、例えるならば、同じ兎でもそれこそ怪談の類いにその名を馳せる、——首斬り兎ヴォーパルバニーだ。
     そう考えた瞬間、少女の体がずしりと重さを増したようだった。反射的に放り出しそうになったのをなんとか堪えて、ヒューベルトはずり落ちかけたベルナデッタを抱え直した。背中に、嫌な汗が滲む。
     ヒューベルトは苦々しく腕の中のベルナデッタを見やった。もしも。もしも、いま彼女がヒューベルトの首を掻き切ろうとすれば、間違いなく彼は死んでいた。もちろん、そんな事はあり得ないだろう。しかしそれでも、抱き上げようとしたあの瞬間、彼女が腰裏の短剣を引き抜いていたら?
     つね日ごろ、ヒューベルトは刃が届く範囲に易々と他人を近づけない。どうしてもその必要がある時には、万全の用心をしていた。だが、いま、ベルナデッタは間違いなく必殺の間合いに居た。彼女は無意識にせよ、ヒューベルトの警戒をいとも易々と掻い潜り、その腕の中に収まっていた。この少女は戦場にあっても殺意など微塵も感じさせぬまま、敵のすぐ横を駆け抜けて、そしてすれ違いざま鮮やかに射殺してゆく事すらあった。それを間近で見た経験があってなお、ヒューベルトはこの間合いに彼女を招くまでベルナデッタから危険を嗅ぎ取る事ができなかった。、そうとしか思えなかった。
     なんと、なんと手に負えない小娘か。湧き上がる不機嫌を舌打ちひとつで散らし、腕の中の少女を睨めつける。ベルナデッタが目を覚ます気配はない。ヒューベルトはこの厄介ごとをはやく済ませてしまおうと、急ぎ足でベルナデッタの部屋に向かった。
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