あなたが欲しいもの「っ、は……はっ、ぁ」
オレの下で、白い肌を真っ赤にさせて肩で息をしている村雨を見下ろす。細く綺麗な指はシーツをしっかりと握っているが、力は入っていないらしく小さく震えていた。その手に自分の手を重ねると、随分と緩慢な動きで手がひっくり返され、弱々しく指を絡められたから、できた隙間を埋めるようにしっかりと握りこむ。そうすると顔だけ横を向いた村雨が、その手を顔のすぐ横まで持ってきてすり、と擦り寄った。甘えるような仕草に、入れっぱなしのブツが反応しそうになる。
オレはたった今、村雨を抱いたところだった。
恋人という関係になって一ヶ月。普通の恋人がどれほどのペースでセックスをするのかなんて相場は知らないが、オレからすれば十分待った、と、思う。
恋人になる前から村雨はオレの家に入り浸っていて、関係が変わってもそれは変わらず、むしろ頻繁にオレの家に泊まるようになっていた。この男は気を許した相手に対しては案外距離が近く、関係が変わってからというもの、ぴったりと身を寄せたり、手を繋いだり、唇を重ねたり……恋人としてのスキンシップと言うものが多くなった。
恋人と二人きりの時にそんなスキンシップをしていれば自ずとそういう雰囲気にもなるし、オレだって健全な成人男性だ。ガキの時のような激しく燃えたぎるような興奮ではないが、小さくともしっかりと燃えた火が絶えずオレの身を炙り続けているような、そんな色欲が付きまとっていた。
そして今日。きっかけは、珍しい、村雨からのキスだった。
ししがみ。
舌ったらずに名前を呼んだと同時に重なった唇は、いつもより熱く熱を帯びていた。
こちらを離さずに見つめる瞳にもまた一目で分かるほど熱が籠っていて、ぱちりと目が合った瞬間、その熱がオレを侵食した。
気が付けばオレは村雨を押し倒していたし、村雨の手はオレの首に巻き付いて離れなかった。いつもはお行儀よく重ねられる唇が互いのそれを覆い、吸って、舐めて、食んで。痛いくらい静かな部屋に響いたのは短く乱れた熱い息と、舌を絡ませる度に音を立てる唾液の音だけ。
そんな音が耳に届いて、重なった唇から伝わる熱が体温を上げて――そこから先は夢中だった。
いっそ不健康なほど白い肌に吸い付いて、真っ赤な飾りを舐める度に跳ねる身体は徐々に赤く色付いた。元が白いから、どこに熱が溜まっているのかは一目瞭然で、それを隠そうともしない甘い声と身体の反応にまたオレは興奮して村雨を求めた。
普段、何を考えているのか分からないお医者様が沸き上がる興奮とオレへの愛情をそのままぶつけてくるから、オレもまたそれに応えるには同じようにただただぶつけることしかできなかった。頭のどこかで村雨を気遣うオレが加減をしろと囁いた気がしたが、そんなことができるほど余裕は残っていなかった。
オレにできたのは、溢れんばかりの村雨への想いをひたすらにぶつけるだけ。ただ、それだけ。
全くもってスマートとは言えない、獣のようなセックスだったかもしれない。
そしてその余韻は未だ引かず、ほんの少しの刺激で息を吹き返してしまうのが容易に想像できた。
「村雨、一旦抜くぞ」
「し、し、がみ」
ナカで再び元気を取り戻す前に、と声をかけると、まるで制止するように声をかけられた。握られた手を弱々しく握りこまれ、それに赤い唇が寄せられた。
「もう、いいのか……? あなた、は、もう満足、か?」
わたしは、まだほしい。
小さく、声にならない声で呟かれた言葉に息が止まる。
オレだってもっとほしい。村雨を愛して、オレのものに、オレだけのものだと刻み付けるように何回だって。
けれど、本当にいいのだろうか。オレが、もっと求めてもいいのだろうか。恋人ならば、恋人のことを考えて止めるべきではないだろうか。それが普通の恋人なのではないか。
そんな疑念がぐるぐると頭を支配して、身動きが取れなくなる。
「なにを、躊躇、してる」
全てを見透かす目が、オレを見た。
「わたし、が、あなたをほしいと、言っている……あなたは、どうだ」
そう問いかける言葉はオレを問い詰めているようで、しかしオレを見つめる眼差しはあまりに優しくて、甘くて。胸の奥がとくんと鳴った。
オレも、オレだって。
「オレも、ほしい。村雨が、もっとほしい」
「――最初から、そう言え」
このマヌケ。
続けられた罵声は砂糖水のように甘くて、なぜだかオレは泣きそうになった。