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    66rrrrkk

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    幽霊のドと暮らす本誌軸救済後のマのほのぼの話のかきかけその2

    続・救済論への解答その1(仮) 実家から徒歩15分。商店街のはずれにある木造の小さな店が、オレの仕事場だ。
     ケンチンは渋谷の方に行くらしく、途中で別れてきた。正道さんの様子でも見に行くんだろう。正道さんとは年に一度会うか、会わないかの仲だけど、歳を食ってずいぶん貫禄が出たように思う。
     そんな正道さんより遥かに歳を食った男がひとり、たい焼きのイラストが描かれた看板を出している。オレの雇い主のおっちゃん。すぐにオレに気がついて、万次郎、と呼んでくれる。

    「おはよ」
    「おう、万次郎。早く着替えてこい」
    「うん」

     早くと言われつつ、のんびりと裏に回る。それに怒ることもなく、おっちゃんもおっちゃんでマイペースに開店準備を進めている。ここはそういう店なのだ。
     佐野万次郎と名前が書かれたロッカーに財布と鍵しか入ってないカバンを突っ込み、三角巾と腰エプロンを巻く。老舗の割にエプロンと三角巾さえしていれば文句のないゆるさもオレは気に入っている。顔の周りに未だに色が戻らない白髪をしまいこんで表に戻れば、おっちゃんは腰を摩りながら掃き掃除をしていたのでその箒を奪って適当に軒先の葉っぱを払っていく。

    「そういや今日はケンは一緒じゃねえのか?」
    「ウン。今日は東京じゅう散歩すんだって」
    「そうか、土産話が楽しみだな」

     前からオレの妄言にも似た事実を否定しない人だなぁと思ってたけど、まさかここまでとは思わなくて目を丸くする。土産話なぁ、確かにオレの世界は家の近所とこの店ぐらいだから、ケンチンが東京じゅうをふわふわと旅してるようなもんか。
     おっちゃんがこういう人だからオレはここにいれるんだけど、まぁ、オレをカタギの道へ戻してくれた恩人たちは幻覚だとか幻聴だとか妄想だとか、そういうもので片付けてこようとするので余計に驚くところはあった。
     というか、オレはそもそもおっちゃんに頭が上がらない。出所して行く宛のなかったオレを拾ってくれて、最初の方なんて1週間のうち1日も出勤できない時の方が多かったのに、おっちゃんは辛抱強くオレの回復を待ち続けてくれた。

     「馬鹿、今更ガキのひとりやふたりの面倒見るぐらいなんともねぇよ」

     欠勤の連絡すらできないぐらいに落ちてた時なんかは店を閉めた後に必ずオレの様子を見に来てくれた。そんな人に迷惑をかけるぐらいなら辞めたいとグズグズとしていても、カラッと笑って気にしてないと笑い飛ばしてくれる。

    「だってよ、マイキー。ちょっと甘えてみたらいいじゃねえか」

     おっちゃんの様子を見ていたケンチンにも背中を押されて、オレはどうにかニートになることなく、こうして働くことができている。
     おっちゃんの懐の深さが人を呼ぶのか、小さな店が赤字になることは少ない。顔が割れてるから、裏でたい焼きの仕込みをしたりすることが多いオレでもわかるぐらい、この店は珍しく繁盛している。
     昼休みに甘いものを買いにくるOL、学校終わりのこどもたち、疲れたサラリーマン、憩いを求めるお年寄りたち、居場所のない少年少女たち。
     裏でひたすら仕込みを続けるオレに、電子タバコ片手におっちゃんは口癖のように言う。

    「甘いもの食ってるとな、ちょーっとだけラクになんだよ。万次郎なら分かるだろ?」
    「…うん」
    「オマエもオレも、多分あんま変わんねえよ。みんなを幸せにしたくて、ただ、取った手段が違っただけだ。そうだろ?なぁ、ケン」

     急に話しかけられたケンチンが挙動不審になったのがおもしろくて笑っちゃったけど、そうなのかもしれない。オレの舌はなかなか餡子の甘さを思い出さなかったけど、そういやこっちに帰ってきてはじめて食べたのはこの店のたい焼きだった。
     人を殺せるようなオレに怯えず、一緒に暮らすケンチンをバカにせず、オレのあるがままを受け入れてくれる大事な場所。
     食ってばっかだったけど、焼き上がりまでをじっと見ているのも好きだったから、仕事の覚えも良かったと思う。基本は裏で仕込みをしたり、難しくない事務仕事をしたり、仕入れをしたり。たまに表に出てたい焼きを焼いて一日を終える。
     ケンチンはオレがマトモに仕事をしてるのが珍しいらしく、よく一緒に着いてきてくれた。オレのことを知ってるチンピラに適当なことを言われて絡まれてる時はイタズラして笑わせてくれたり、お金の計算が間違ってたら教えてくれたり、ちょっとした特権かもしんない。
     朝から働いて、休憩を挟んで、夕方になって。訪れる人々が子どもたちになってくると、疲れてるおっちゃんの代わりに表に立つことが多い。子どもならオレの顔もあんま覚えてないだろうから、って。

    「たい焼き1個」
    「うん、100円ね。あちーからゆっくり持てよ」
    「はぁい」

     銀色の硬貨1枚と袋に入ったたい焼きを交換する。満足げにたい焼きを受け取ったその子どもはすぐにたい焼きを真っ二つに割って、近くにいた友達に分け与えていた。
     やさしいね。オレはそんなこと滅多にしなかったなぁ。いつもたい焼きやらどら焼きやら食べているオレにケンチンは一口ちょうだい、とは言わなかった。
     ケンチン、いま何してるのかな。正道さんのところに行って、何を見てるんだろう。三ツ谷とも仲良かったしそっちにも顔だしてるのかな。タケミっちたちはそろそろ結婚するらしいし、オレもちゃんと、ちゃんと生きなきゃなぁ。

    「万次郎、どうした」
    「え?」
    「焦げてんぞ」
    「あっ、あぁー…ごめん」
    「構わねぇけどよ、しんどいなら休憩するか?」
    「んー……」

     焦げたたい焼きたちをぼんやり見つめる。古いブラウン管から聞こえるたい焼きの歌。海に逃げて、楽しく過ごしていたのに結局食べられちゃう、そんな寂しい歌。
     すいすい、海に逃げ込むことを許さずにたい焼きを食べ続けた自分の罪の重さにも、逃げたかった自分の心にも未だに慣れない。けど、今は仕事中だ。
     息を吸って、吐いて。数回きちんと息をするだけで随分と沈んでいた気持ちが上がった気がする。

    「このまま続けんね。休んでたら余計に沈みそう」
    「そうか。まあほどほどにな」
    「うん」
    「明日は休みだから焼きすぎんなよ」

     それだけ言っておっちゃんは裏に引っ込んでいったけど、オレはひたすらにたい焼きを焼いて、やっぱり焼きすぎたから最後の方は買いに来る客におまけだと言って売れ残りそうなたい焼きを捌いていく。

    「なんだ、大盤振る舞いだな」
    「あ、ケンチン」
    「迎えに来たぜ。帰ろ」

     ケンチンが店に着いたのはちょうど看板を仕舞う頃で、おっちゃんは見えてもいないケンチンによおケン、と挨拶をして、後はやっとくから帰っていいとのお達しを受けて、ふたりで夕暮れの道を歩く。
     もちろん影はひとつしかないけど、オレは寂しくなかった。ケンチンはのんびりと今日見てきたことを教えてくれる。その声が聞こえている限り、永遠に寂しくなんてならない。
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    fukuske5050

    MOURNINGワンライに参加したくて書いていたものです…
    243話の感想みたいなつもりで書きました 
    本誌更新前にUPが目標だったのでいろいろ荒目です
    ドラマイ/マイドラ
    お題「早朝」
    あさ  見上げた夜はもう自分の知るそれとは異なって見えた。見知ったはずの風景も、ほんの少し足が遠のいた間にここはもうお前の街ではないのだと様変わりする。確かにもうこの街には用はない。アイツがこの街から消えたと同時にこの場所の意味は、もう消え去った。

     深夜であればこの街の空には上へ上へと向かう細長いビルが蛍光色のネオンを競う。赤、ピンク、橙、青、緑、紫、白。並ぶネオンの中でひとつだけ、なんどもなんども足を運び、過ごした日々が頭の隅でもやりと霞む。追いやるように目を細めれば、最後の抵抗なのだと瞼のなかまで残像が追いかけてくる。

     空が暗夜から薄あかりへと変わり始めるころにはあれほどに競いあったネオンもひとつふたつと灯りを消して、あたりは飾り気のない姿を現していく。ひとの気配が薄れるこの時間になると男の店も賑やかさが一掃されて静かなものだ。そのタイミングに合わせて男は決まってビルの裏階段から外に出る。目覚まし代わりの一服と朝食代わりの缶コーヒーを買うためだ。咥えタバコで非常階段にもたれるその姿に、その習慣は相変わらずなのだと、男が今も変わらず暮らしているのだと、思う。男が変わらずにいることに、消えることのないアイツのくぐもりが和らげばいい。
    5000

    fukuske5050

    REHABILIエマちゃんとマがいちごを煮てるだけ
    途中からなにを書いているのか…🤔自分でできない料理ネタはもう二度と手を出さないと決めました…

    ちょこっとドラマイドラ
    いちご リズミカルな鼻歌が台所から聞こえてくる。最近エマがよく聞いている曲だ。歌詞のここが好きだとか声がいいだとか。それは何度も何度も聞かされた。気にいった同じ部分を繰り返し耳にしているうちにいつの間にか覚えてしまっていたけれど、万次郎が知っているのはエマによって切り取られたその部分だけ。そういえばそれが誰のなんという曲なのかさえ知らないことに気がついた。
     鼻をくすぐる甘い匂いに誘われて万次郎は台所を覗き込む。流し台に立つエマの後ろ姿は変わらず同じフレーズを繰り返す。リズムに合わせて手慣れた手つきで調理するエマは様子を伺う万次郎に気づかない。
     食卓には大ぶりなボウルを真ん中に幾つか皿が置かれている。1番大きいものには砂糖をまぶした大量の苺。万次郎も昨晩ヘタを取るのを手伝わされた。潰さないで、傷つけないで、とうるさく言われながら手伝って、ぽいと口にほおりこんだたったひとつにこっぴどく叱られた。水にさらしただけの苺をサクリと噛めば口の中は初夏の味がする。
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