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    dressedhoney

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    dressedhoney

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    Dロジェ
    二人旅をしているころのある一夜。
    付き合ってはいないけれどお互い心を開いているくらい。
    甘くて短い。

    #Dロジェ
    dRoger

    笑う、策士 月明かりの強い夜のことだった。
    「ねぇ、D」
     遺棄された教会を見つけた二人が野営の準備を終え、後は眠るだけといった頃合。ロジェールは、少し離れたところで横になっているDへ声を掛けた。
    「……スー…」
     淡い寝息が返されるが、ロジェールは気にせず続ける。
    「私、なんだか眠れなくて。少しだけ、一緒に暇を潰してくださいませんか?」
     もちろん返事はない。それでもロジェールは淡々としていた。
    「貴方と私の仲ですよ? 狸寝入りくらいお見通しなんですから」
    「……お前とどのような仲なのか、皆目見当がつかないのだが」
     背を向け横になったままではあるが、Dからの反応にロジェールは声を弾ませる。
    「それは、もう! 一緒にゲームをするような仲です!」
     Dの体から力が抜けた。相手をするのも馬鹿らしいと、睡眠に戻る判断したからである。対照的にロジェールは身を起こし、Dとの時間を楽しむ気で満々だった。
    「題して、相手を笑わせた方が勝ちゲームです! 賞品も付けますから、ね? ねっ?」
     ロジェールがDの寝床へ近寄り、背けられた顔を覗き込みながら語り掛ける。良く笑うロジェールと、あまり笑うことのないD。どちらが有利か一目瞭然ではあるが、それでもDに参加するメリットは今のところなかった。旅の中で得た二人の荷物は基本的に共有財産であるし、ロジェールの私物である高価な輝石などは賞品足りえるかもしれないが、Dにとっては無価値である。
     Dは目を閉じたままロジェールが諦めるのを待ったが、この魔術剣士が妙に頑固な一面を持っているのはDの知るところでもあった。彼の予想通りロジェールはDの無言にめげず、言葉を続ける。
    「貴方が勝ったら私、明日の夜まで貴方の命令に従います。勝手に気になった野草を採取に行かないし、その道中でルーンベアを起こしたりもしません。貴方が戻れと言ったら崖下のスクロールだって諦めます。後は無闇に宝箱を開けて転送罠を――」
    「分かった。もういい。付き合ってやる……というか、賞品にするな。普段からそうしていろ」
     Dの言葉にロジェールは、控えめに歯を見せて笑った。
    「ふふ、では私が先攻で!」

     ◇  ◇  ◇  ◇

     二人は、祝福の光を挟んで向かい合うように座っていた。
    「……D、強敵すぎます。まさか眉一つ動かさないなんて……」
     ネフェリ殿は声を上げて笑ってくださったんですよ、とロジェールは項垂れる。ロジェールは口が良く回る男だ。話の緩急が上手いだけでなく、聞き取りやすい声色と流れるような口調の合わさったそれは、思わず聞き入って同調してしまう魅力を備えている。
     それでもDは陥落しなかった。彼はロジェール渾身の漫談を無表情で受け止めるばかり。この作戦では勝ち目がないと悟ったロジェールは、一旦引くことにした。彼はめげず、次に向けて鞄を漁り始める。
    「残念だったな。で……風切り羽はしまえ。こういうのはターン制だろう」
    「バレましたか。ふふ、正直なところ貴方の出方には大変興味があります。負けるつもりはありませんが、どうぞ全力で!」
     ロジェールが目を細め、右手を口元に当てたままニヤっと笑った。ここから更なる笑みを引き出すのがDの勝利条件である。
     一体どのように仕掛けてくるのか。ロジェールが期待の眼差しでDを見つめていれば、彼はゆっくりと立ち上がる。そしてロジェールの隣へ移動し、腰を下ろした。Dは真っ直ぐにロジェールの顔を見つめ、下から覗き込むように、首を軽く傾げながら言う。
    「……お前のその笑い方、好きだ」
    「…………へっ?」
     予想外の方向から殴られた感覚。
    「お前は、よく笑うが。殆どが作り笑いだろう。だが今見せたそれは、違う」
     ロジェールは感じたことのないざわめきに、本能から逃げようとした。どうしてか体は凍ったように動かないので瞳だけでも逃がそうとしたが、どれだけ泳がせても、Dがじわじわと距離を詰めてくるため、薄氷の刃からは逃れられない。
    「俺はお前が思っている以上にお前のことを見ている。俺によく向けられるあの笑い方が、好きだ」
    「でぃ、D……」
     ロジェールの絞り出した声は、上擦り、掠れてしまっていた。止めとばかりにDが低い音色でロジェール、と囁けば、終いである。
    「ふ……あは、は…」
    「俺の勝ちだな」
     それは、照れ笑いだった。平生の愛想を尽くした笑みとは程遠く、締まりのない、自分のための笑い。ロジェールにとってそれは、遠い昔に置いてきてしまったはずの忘れ物。
    「いや、まさか……」
     普段は飄々として乱れることのないロジェールが、目に見えて狼狽えている。Dはいつだって一枚上手なロジェールの鼻を明かした高揚に、すこぶる気分が良かった。
    「それで、どうなんだ? これで満足か?」
     ロジェールはとうとう両手で顔面を覆い、いつまでも解放されない視線の抱擁から逃げるように顔を明後日の方向へ背ける。
    「はい……ちょっと恥ずかし過ぎるので、今すぐ眠ってしまいたいです。そ、そのですね……」
     指の隙間から漏れる声は、ロジェールの口から発されているとは思えないくらいにくぐもって聞こえづらい。だからDが聞き逃さないために耳を彼の口元に寄せるのは、仕方のないことであった。
    「お約束通り、明日は私……貴方の命令、いくらでも聞きますので……お、おやすみなさいませ……」
     ロジェールは一刻も早く寝床へ戻ろうとしたが、足が上手く動かない。正確には動かしかけた足にDの右手が制するように軽く触れただけで、彼の足が凍ってしまったのだ。
    「ロジェール。約束は、明日の夜まで、だったな?」
    「ええ、まあ、そのように言いましたが……」
     Dが立ち上がり、小走りで彼の寝床へ戻っていく。そして簡素な寝床を解体したかと思えば、藁と毛布を持ってロジェールの寝床へ移動し、その場に新たな寝床を増設し始めた。ロジェールの聡明な頭脳は、畳みかかる混乱を前に無力である。
    「あの、何を」
    「たまにはいいだろう。身を寄せ合って眠っても」
     魔術師の思考回路が、完全に焼き切れた瞬間であった。幾重にも巻かれた皮が今、Dの手によって剥かれ。ロジェールは誰にも晒したことのないような間抜け面を、隠すことも忘れて相棒に許している。
     Dはそんな相棒の顔を好んだ。見たことのない一面。優しい嘘で塗り固められた魔術師の輝石を砕いてやった事実に、Dもまた興奮していた。
    「望むなら、幼いころ弟にしていたのと同じようにしてやってもいい」
     Dはロジェールの足をトントンと叩いてから、増設した寝床へ向かう。
    「D、ええと……」
     ロジェールはDに、弟にしていたのとは一体どのような内容なのか聞こうとして、止めた。聞いたが最後、どうにもいかなくなるからである。彼は深呼吸をしてから、小走りでDの後ろを追いかけた。
     Dは寝床に腰を下ろし、ロジェールの返答を待っている。これは珍しい、Dの意地悪だ。彼はロジェールがしどろもどろになる姿を見られたら、それで充分である。わざわざ幼いころ、という言葉を付けたので、おおよそ大人のやる寝姿でないことくらいは伝わっているはずだ。
     だからロジェールはきっと、照れながら否定するはずである。Dはそう思いながら、ロジェールの薄ら赤い顔を見つめた。
    「……あの。ぜひ、お願いしたく」
    「…………」
     想定外の答えに、今度はDが絶句する。
    「ちょっ……と! 貴方が提案したんでしょう! その……少しでも、知りたいんです。貴方と、弟さんのこと」
     Dはこれまでの生涯で、そのような言葉を掛けられたことがなかった。狭間の外で双児は呪いの象徴であったし、律に仕えてからも、弟の存在は隠すようにしている。二人旅の中でロジェールには打ち明けたが、彼は様子をうかがってか、積極的な話題にはしなかった。
     だから、知りたいなどと。そのように言われるのは、Dにとって初めての事態である。彼にとってそれは……好ましい、と。そう思えることだった。
    「……分かった。横になって、こちらを向いてくれ」
    「は、はい」
     妙な緊張感を孕んだ面持ちで、ロジェールがDと向かい合う形で毛布に潜り込む。Dもまた緊張に指をわずかに震わせながら、ロジェールの額へと右手を伸ばした。剣を握るのとは対極の、壊れやすいものを扱うかのような、繊細な手つきでロジェールの前髪を掻き分ける。そしてぐっと身を伸ばし、触れるだけの静かな口付けを落とした。
    「おやすみ、ロジェール」
     額を撫でていた右手をロジェールの後頭部へ移し、優しい力で胸に抱き込む。彼の着込む鎧の、似姿であった。
     知りたいと言ったのは、ロジェールである。しかしこれは、あまりにも。ロジェールは、まるで自分がDの大切な家族になったのだと錯覚した。招き入れたのは彼だが、立ち入ってはならない不可侵の領域に身を沈めたような背徳がある。
     あのように柔らかなDの笑顔を、ロジェールは見たことがなかった。思い出しただけで、気を失ってしまうそうなほどの眩暈が起こる。心臓が早鐘を打って、頭が沸騰しそうだ。早いところ朝に逃げてしまうのが最善だったが、このまばゆい熱情の中、どうやって夜に泥めばいい。
    「ッ……」
     ロジェールのパニックを知ってか知らずか、既に眠りに落ちたDがロジェールの頭を抱えなおす。ぎゅ、と先ほどより強い力で抱きしめられれば、ロジェールの視界は暗み、Dの心音が良く聞こえた。
     一定のリズムを刻む、温かで力強い鼓動。いつまでも聞いていられる音色に、ロジェールの眠気が徐々に首をもたげる。
    「……おやすみなさい、ダリアン…」
     ロジェールの寝顔は、穏やかな微笑みに染まっているのだった。
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    Replies from the creator

    dressedhoney

    DOODLEツンケンデヴィンがロジェールに絆されるまでの話。
    Pixivに投稿済みのものと同一です。
    前半がデヴィロジェで後半がダリロジェ。
    多分Dロジェの道が違えずゆくゆくはロジェールが双子を同時に覚醒させる方法を解き明かす世界です。
    加えてDとロジェールが正反対に描写されているのならロジェールは仲の良くない兄がいたのかもな~という設定の下書かれています。
    つまり好き勝手書いています。大丈夫な方のみどうぞ。
    瞼裏の憧憬 Dが物言わぬ姿となり、二日が経った。色素の薄い柔らかな髪が、閉じたままの白い目元に掛かっている。傍に腰を下ろすロジェールは、グローブを外した手の甲でそっと血の気の引いた頬を撫でた。
     ――死んだわけではない。円卓のベッドに横たわる体は小さく上下していたし、触れれば僅かに温かかった。眠っている。彼は丸二日、昏々と、深い眠りに沈んでいる。細く長い溜息と共に、尖り帽に垂れる輝石が揺れた。
     切っ掛けは二日前の地下墓での出来事だった。狭い通路でインプとやりあっていたあの日。罠を挟んで牽制しあっていたが、悪鬼の投げたガラス片が近くの石像を倒し、カチリと嫌な音を鳴らした。予想外に発射された数多の槍は敵を殲滅し、残った数本がロジェールに迫る。それをDが咄嗟にかばったのだ。矢程度なら鎧で防げたが、生憎と地下墓の守りは甘くない。
    13151

    dressedhoney

    DOODLEPixivへ既に投稿済みのもの。一応こちらにも。
    円卓の露台で深い眠りに落ちるロジェールを、Dが叩き起こす話。
    Dロジェ。2人は付き合っていないけど、甘くて、暗くて、短い。

    ロジェールは【冷静】の魔術を息するように己にかけていたと思っているのですが、それでも抗えない眠気とあらば、さぞ恐ろしかったでしょうね。
    銀の禅譲、金の簒奪 生きている。
     生きているということは、起きているということだ。
    「……D、おはよう、ございます」
     私が円卓の露台へ根を生やしてから、それなりに経った。まさか比喩表現でもなく、本当に木の根を自分が生やす日が来るなんて、狭間の地を訪れた頃の私は夢にも思わないだろう。
     今は一体、いつだろうか。寝ぼけまなこでDを見つめれば、彼はサッとフェイスプレートを下ろし、感情を読ませない鎧の中へと引っ込んでしまった。
    「あの、D」
     そのまま体も帰ってしまう。すぐ近くの大祝福にとどまっているようだが、私に追いかける術はなかった。
     ――熱い、唇が。私の体の中で確かな燻りを感じるのは、今やそこだけである。
     半屍と称される肉体。下半身は、とうに眠ってしまっていた。上半身もいつ冷めるかといったところで、雪濃い森の冷気に晒されたような古い殻は、常に強い眠気を運んでくる。
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