お別れと、ネクタイと、これからと。.
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普段は殺風景な講堂内は赤と白とで飾られて、厳かな空気に包まれていた。いつもはジャージの教師や、草臥れた白衣姿の教師が今日は皺ひとつないパリッとしたスーツを身に纏い、しゃんとしている。別人みたいだ。ぼんやり、赤葦は思う。それは、いつもは上靴のかかとを踏んでいたり、気崩していたりする制服をぴっちりと着こなしている同輩達にも言えることだけど。
ざわめきが消えて、代わりにピアノの音色が響き出すと、それぞれのクラスの担任が先導する形で卒業生が入って来た。一組の半分より少し後ろ、木兎が入場口を潜って現れると会場の視線の多くは彼に集まる。周囲よりも身長が高く、頭が飛び出た木兎が目立つのは当たり前ではあるけれど、彼よりも背の高い生徒はいる。それでも尚、木兎はいつだって一際人目を惹いた。
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