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    穂山野

    @hoyamano015

    読んでくれてありがとう。
    幻覚を文字で書くタイプのオタク。とうの昔に成人済。

    スタンプ押してくださる方もありがとう。嬉しいです。

    置いてある作品のCP等
    金荒 / マッキャリ/ 新中/リョ三

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    穂山野

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    荒北が帰省する時に金城が一緒に荒北家に行く話。
    荒北、金城の家族像、住んでいる地理、過去など完全な妄想であり捏造です。

    初出:2014.12.15 Pixiv
    2015.5.21 本文をスパコミで出した新刊の内容に変更。
    2022.5.31 ポイピクに移動

    #金荒
    goldenDesert
    #BL

    帰省新横浜駅から程近い所に荒北家はあった。
    閑静な住宅街の中にもうすっかり風景として馴染んでいた。
    前の道路は通学路らしく、ランドセルを背負った小学生が賑やかに歩いていく。
    荒北の小学生時代のような男児を見かけて思わず口元が緩む。
    それに目敏く気付いた荒北が「ンだヨ、金城」と肘で脇腹を小突いた。

    大学で顔を会わせ、同じ自転車競技部に籍を置いた俺と、荒北、待宮の節約を主とした三人での夕飯は、春先から続いていてすでに日常化しつつある。
    持ち回りで家に行き、準備して、食べて、片付ける。
    その後はレポートを書いたり、春先から秋まではレースの中継を見ることもあるし、待宮は野球の中継を見たがって荒北と揉める。贔屓のチームが違うらしい。野球には疎いのでよくわからない。
    荒北は元々寮暮らしが長いので、少しザワザワしているくらいが丁度いいのか少しくらい話し声がしてもすうっと眠ってしまう。
    待宮は逆で、テレビの音や灯りも気になるらしく、深夜でも律儀に帰っていくことが多い。
    待宮に言わせれば「そりゃぁそれもあるが、別の理由を察っせぇ」だそうだが、布団が足りないからだとしたら、もう一組あったほうがいいだろうかと考えるが、この狭さではと二の足を踏んでいる。
    荒北が可笑しそうにそれを待宮に言った時「こんな鈍い男がなんでモテるんじゃ…」と真顔で言われた。

    今日の持ち回りである待宮の部屋で夕飯を食べ終わり、荒北がコタツのテーブルを拭きながら「俺、週末実家行ってくるわ」と言った。
    「なんじゃ、ホームシックか」と皿を下げながらからかう待宮に「ちげーよ、お前じゃあるまいしよォ」と言い返している。
    長い夏休みもお盆時期しか帰省しなかった荒北にしては珍しいな、と思った。
    明日は一限からだと言う待宮のこともあって、いつもより少し早く部屋を辞した。
    待宮の家からだらだらとした坂を下り、当たり前のように二人で荒北の家を通り過ぎる。
    駅に一番近いのは自分の部屋で、時間があれば荒北はうちにいるようになった。
    冬の空気が冷たく澄んでいて、ぐるぐると首元にマフラーを巻いた荒北が寒いのかなんとなく肩を寄せる。
    なんで、と口を開けば「そんなに薄着なんだァ?」と荒北が俺の真似で続けるくらいにはしつこく言ったつもりだったが、特に改善されることもなく、相変わらず薄着の荒北は、タートルネックは苦しい感じがするとか、セーターは静電気が厭だとか、いろいろと文句を言っては薄手のTシャツに厚手のコートだけで過ごす。見ているほうが寒い。風が吹いたりするとスッと人の後ろに入って風を避けたりするので最近はちょっと面白くなってきた。
    ただすぐ風邪をひくので、早朝、一緒に家を出た初冬の頃、俺が巻いていたマフラーをぐるぐると首元に巻くと、金城のニオイすんね、と言われた。
    これも駄目かと思って振り向くと少し照れたように笑っていた。暖かいヨ、そう言って、あれからこれだけはちゃんと巻くようになった。

    部屋に着くと誰にでもなく「ただいま」と言う荒北の習慣は寮生活でついたものなのかな、といつも思っていた。
    自分の部屋なのに、あたり前のように先に入る荒北の後ろから「はい、おかえり」と言いながら入っていく。
    いつの間にか妙な習慣ができて、先日待宮が後ろにいることを忘れていて「ワシはな、こがぁなんばっかり目撃しとぉないんよ…」と言われた。
    待宮にはいろいろすまないと思っている。

    寒い寒いとエアコンを入れてホットカーペットをつける。
    先週だったか「金城んちの電気代半分払う」と言い出した。
    自分もそちらに行くのだからそこまでしなくても、と言ったが回数が違うと荒北は引き下がらず、今月の電気代をメールするというなんとも所帯じみたことになってしまった。そこに奇しくも食費を立て替えていた待宮が連絡してきて『なんかさあ、もう一緒に住んじゃったほうが簡単かもなァ』と荒北から返信があった。
    面倒だ、の代わりに言ったのであれ、その言葉はしばらく心を乱した。

    「実家に行くのか?」とコーヒーを淹れながら聞くと、エアコンの下で丸くなっていた荒北が「あー、週末ね」
    「珍しいな」
    「ちょっと荷物取りに行かないといけなくてさァ」
    マグカップを渡すとおーあんがと、と言いながら両手でカップを包んだ。
    「横浜だったか?」
    「そう。金城あの辺行ったことある?」
    あの辺、がどの辺りかはよくわからなかったが、自分の住んでいた所からでは交通の便が悪いので特別用事のある時くらいしか行ったことがない。
    「あまり行ったことがないな、神奈川には」
    ふーん、としばらく考えていた荒北が「一緒に行く?」と言ったのでちょっとびっくりして「えっ?」と聞き返すと「どうせ正月に誘うつもりだったから」と言った。
    「お土産は何がいいだろうか」と真剣に聞いたのが可笑しかったのか「そんなモンなんだっていいよ」と笑った。

    金曜日の午後に静岡を出て、新幹線で一時間弱。
    日曜日には静岡に戻る予定で午後一番の新幹線に乗った。
    最初は「一緒に乗んの、インターハイ以来だなァ」とかいろいろ話していた荒北は、少しずつ口数が減っていき、今は黙って外の風景を眺めていた。
    その姿に自分を重ねる。
    帰りたい理由も帰りたくない理由もあるのが生まれ育った場所だ。
    ワゴン販売を呼び止めてコーヒーを買う。
    横から荒北が俺も、と小銭を出す。
    買ったものの、新横浜で降りるまで荒北はコーヒーに口をつけなかった。

    新幹線を降りて、実家に「駅に着いた」と連絡を入れる。
    大学の友達連れて行くからって言ったもんだから母さんは妙に張り切っていたし、いつもは出かけているはずの妹たちも家にいるようだったので、駅ビルで甘い物を買っていくことにした。
    金城は土産を何にするか三日くらい考えていたようで、一周して結局、緑茶とうなぎパイになったようだった。
    昨夜くらいからなんだか少し様子がおかしい。もしかしてこいつ緊張してんのか、と気が付いた。
    「金城はさァ、巻島んちとか田所んちとか行ったことないの?」と聞くと「ある」と言う。
    「その時もそんな緊張すんの?」
    「いや、それはないが。今回はなんとなく」と言ってハハッと笑った。
    その理由を問うのもなんだか気恥ずかしくなり、ガシガシと頭を掻いた。
    その様子を見ていた金城が不思議そうな顔をした。
    待宮の「なんでこんな鈍い奴がモテるんじゃ…」という言葉が脳内を掠めていく。
    しょうがねぇじゃん、いつも隙がないくらいパリっとしてるのに、こういうことには鈍いってのも可愛らしいって思ったらしょうがねぇじゃん。

    家の前まで来ると昔と変わらず、前の道路は通学路で賑やかな小学生の群れが帰宅する時間帯だった。金城はその子どもたちを見ながら笑っている。
    何を考えているのかは大体わかる。肘で小突くと「いや、あんな感じだったのかなと思ったから」と、冬だというのに半ズボンにTシャツ一枚の子どもを指差した。

    「玄関から入ってきてよ」と念を押されていたので、玄関のドアを開けながらただいまァと言うと奥から騒がしい声がした。
    珍しく妹二人も一緒に出てきて、三人で「おかえり」と言った。
    金城はちょっとびっくりしていたが、いつもどおり穏やかな声で「お邪魔します」と言った。その瞬間から三人とも俺のことはどうでもよくなったようだった。
    納得がいかねぇ。新開の時もここまであからさまじゃなかった。
    「アキチャンは?」と聞くと「ヤスは毎回最初がそれね」と母さんが言った。それを聞いた金城が下を向いて笑った。

    高校で寮に入ってからずっと空いている俺の部屋を妹のどちらかに譲って欲しいんだっていう電話があった。どっちだったかは忘れたけど、片方が客間を自室のように使っていて困る、という。
    家を出る時は「ここはずっとあなたの部屋だからいつでも帰って来なさい」とか言っていたような気がするんだけどネ。
    まあ、一年に何回も帰って来ない部屋の主よりも二人で一部屋を使っている妹たちがそれぞれ部屋を持ちたいと言い出せばしかたがない。
    必要な荷物は静岡に行く時に大体持ち出したし、箱根から送り返した物もそんなにない。
    あとは全部捨ててもいい、と言った時、しばらく電話口で黙った母さんが「一度帰ってきてちゃんと見なさい」と言った。
    理由はなんとなくわかっていた。それが今回帰って来た理由だった。

    案の定、金城は母さんにも妹たちにも人気だった。
    特に母さんなんかはちょっと浮かれているように見える。
    挨拶した時に「金城真護です」と言ったものだから、妹たちは「真護君」と呼ぶ。母さんも途中までは「金城君」とか言っていたのに一時間くらいしたら「真護君」になっていた。
    金城はいつもどおりの感じで「荒北君にはいつもお世話になっていて」とお茶を飲みながら話している。いつもなら胡座をかく妹が正座している。
    一番びっくりしたのはアキチャンが俺の脇じゃなくて俺と金城の間に座っていること。
    金城の話に三人が同じ笑顔で頷く。
    女ってこれだからヤダ。
    大体、俺もまだ金城って呼ぶのになんで全員「真護君」なんだよ。
    アキチャンもひどい。俺にとってはアキチャンが一番ショックだ。


    荒北は賑やかな妹二人に二階へ引っ張られていった。
    買った棚を組み立ててくれ、とかドアが変だとかまあ、いろいろ言われていた。
    荒北の溺愛するアキチャンとしばらく居間で遊んでいたが、お母さんが夕飯の支度を始めた。
    キッチンは居間と対面式で、昔はさぞかし賑やかな絵が台所から見えただろうと思った。
    「手伝います」と言うとお母さんはびっくりしたように「真護君、料理するの?」と聞いた。
    「簡単なものですけど」と答えると少し意外そうな顔をした。
    男子大学生はほとんど外食で済ますものだと思っていたようだった。
    待宮の話をしたりしながら食費の節約と、ひとりで食事をするとあまり箸が進まない話などして、三人でよく一緒に作って食べますよ、と言うと「初めて聞いた」と笑って鍋を取り出した。
    「靖友は帰ってきてもあまりそういう話はしないから」
    少し意外な気がした。でもよく考えて見れば自分もそんな話は聞かれなければしない。
    「お母さん羨ましいわね」とにこやかに言う。
    「うちは…」
    男子厨房に入らずなんです、とつい口が滑る。
    その答えにお母さんは「そうなのね」と変わらない調子で答え、詮索するわけでもなく、それがいいとも悪いとも言わなかった。そして自然に話題を変える。
    その様子が、荒北とよく似ているような気がした。
    「なんかもっと特別な物にしようと思ったんだけど、三人ともカレーがいいって言うから」と二階を見て言った。
    野菜の皮を剥くのを手伝っていると、それを見ていて「上手ねえ」と言う。
    「靖友にもよく手伝わせたんだけどね」
    「だからですかね、荒北はもっと上手いですよ」と答えると、ちょっと間が合って「本当によく一緒にいるのね」と言われ思わず包丁を使う手が止まる。お母さんがレタスを千切りながらふふっと笑った。
    いや、そういう意味じゃないだろうと自分の中に収めていると「ありがとう」と穏やかな声で言われた。
    「なんだか安心した」
    嬉しいような、申し訳ないような、少し息苦しい感じがして返事ができなかった。

    五人の夕飯は賑やかだった。二つ違いの上の妹と五つ離れた下の妹と一緒にいる時の荒北は絵に描いたようなただの『お兄ちゃん』で、他愛ないことですぐ言い争いになる。
    上の妹は荒北にも負けないくらいに口が立つので二人で言い争っている間は呆然と見ているしかなかった。
    お母さんと下の妹は慣れているらしく、まったく別の話をしている。
    途中でお母さんが「いい加減にしなさい、あなたたちいくつなの」と言うまで言い争いは続いた。
    自分には姉妹がいないので異空間に迷い込んだみたいな気持ちになった。
    大体、うちはこんなに和やかな感じじゃない。そんなことを思い出していると、目の前で二人がむくれてカレーを口に運ぶ。それを見ていたら笑いがこみ上げてきて、下の妹が「いつもこんな感じです」と笑いながら教えてくれた。
    荒北のお父さんは忙しい人らしく、今日は深夜にならないと帰宅しないそうだ。明日は挨拶できるといい。
    荒北はどちらにどう似ているのだろう。

    賑やかな夕飯が終わり、荒北はアキチャンとゴロゴロしている。
    見たことがないような至福の表情だ。
    アキチャンはたぶんボーダーコリーという犬種で、フワフワしている。荒北の隣に座って一緒にテレビを見ている姿はなんだか貫禄がある。
    「昔からあんな感じよ」と洗濯物を抱えたお母さんが通り過ぎる。
    忙しそうだな、と思いながら見ていると、台所に山積みにあった食器に気がついた。洗い物を片付けることにした。
    いざ始めると、居間から荒北が「そんなのいいよォ!」と振り返る。
    「ごちそうになったから」と言うと下の妹がやってきて「手伝います」と言うので一緒に片付ける。
    中学二年生だというので学校の話など聞きながら二人で皿を洗っていると急に「真護君は付き合ってる人とかいるんですか」と聞かれた。
    「何言ってんだ、お前は」と荒北が振り返って怒鳴る。
    下の妹は「大丈夫、お兄ちゃんには聞いてない」と落ち着いて言い返す。
    「うん、いるよ」と答えると荒北が舌打ちをしてテレビのほうに向き直る。
    「やっぱりなあ」と中学生らしい照れたような笑い方をした。
    居間にいる荒北は居心地が悪そうだ。どんな顔をしているのだろうと思いながらその背中を見ていた。


    「客間を使ってもらうのが一番いいんだけど」と母さんが申し訳なさそうに金城に言う。
    妹がそこを部屋として使っているから、今ここに二人しているわけで、俺の部屋で寝ることになった金城は、お手数かけてすみません、とか言っている。
    狭くなってごめんね、という母さんに「うちのほうが狭いですから」と律儀に答える。
    布団を抱えて話してる金城の姿は、とても懐かしい光景に思えた。
    最近は当たり前みたいに一緒にベッドに潜り込んで寝ている。
    男二人ではさすがに狭いが、それでも一緒のほうがいいんだから不思議なもんだヨ。

    夏を過ぎた頃、お互いの感情が好意を越えていると意識した時からずいぶん経つような気がする。愛情や劣情や希望。そこに過去や現実もひっくるめて一緒にいることを選んだ。
    そこに至るまでも、そこからも、迷ったり揺れたりしながら一緒に過ごしてきた。一日ごとに明日も、明日になればその先も、と欲深く考えるようになる中で、金城のほうが多分に慎重だと思う。自分のことではなく俺のことで。
    「荒北は常識的な部分がとても大きいから、これでよかったのかといまだに「ときどき思うことがある」と言う。
    そういうことを考えている時、金城はわかりやすく困ったような悲しい顔をしている。
    もう決めたンだヨ、って言うと少しだけ安心した顔になる。
    俺はあの困ったような顔を本当はもう見たくない。

    妹たちは順番に宿題教えて、とか、他愛ない話をしにやってきては金城にまとわりついて、締めは母さんで「リンゴ剥く?」とか「ミカン食べる?」とか三人で出たり入ったりしていた。深夜になってようやくそれぞれが部屋に帰っていき、家の中が静かになった。
    「うちの家族がいろいろごめんねェ」と言うと「なんでだ?楽しかった」と笑っている。
    窓から月の光が入る。この寒々しい色が厭でしかたない頃があったなァと思い出していると、窓越しに外を見ていた金城が「月が綺麗に見えていいな」と言った。
    この色が好きじゃなかった頃の自分はもう心の奥のほうにいる。
    とにかくここから離れたかった頃の自分ももうそこにいる。
    この部屋を出て、出ていった外の世界で誰かと会って、自分の薄皮を剥ぐ。
    少しずつ新しい自分が固まって、そしたらまた剥いで、それを繰り返す。
    それははたぶん、命が潰えるまで続く。
    ここにずっと篭っていたら、厚い皮を纏ったまま身動きが取れなくなっていただろう。
    プライドとか憎しみとか、そういう皮は勝手に厚くなっていく。
    ロードを教えてくれたのは福ちゃんだ。
    持っていて重い邪魔なプライドも過去もすべて捨てろ、前を見ろと俺にビアンキを与えてくれたのも。
    チームとか仲間とか、共有する愛情を与えてくれたのは新開や東堂。
    どうやっても相容れない人間はたくさんいる。
    その中で手を差し伸べ合う人間に会えた。前に立ったり後ろに立ったりしながらそれぞれの役割を果たす。
    金城はそういうものに当てはまらない。
    あの頃知らなかった愛しい想いとか、自分の瑣末な感情や迷いなど一緒に噛み砕いてくれるだろうと思えるような奴が、前でも後ろでもなく横に立っている。自分も金城にとってそういう存在であったらいいと思う。
    薄皮を剥ぎながら、次に何を纏おうか、と話しかけることができる。聞かれることもある。
    まぁ、どちらも最後は自分で決めんだけど。
    でも同じ色を選んで着ることもできる。
    金城、と呼ぶと振り返った金城が隣に腰を下ろした。
    寒くないのか、と口癖のように言うのを聞きながら、その端正な顔立ちを見遣る。
    「ヤスって呼ばれてるのはなんか可愛らしいな」と指を伸ばし唇に触ろうとするからその指を食み、お互いが辛うじて繋いでいた理性の糸を切る。
    荒北の唇はいつも冷たい、金城はよくそう言う。
     今もそう思っているのかもしれない。
    「シンゴ君は付き合ってる人がいるんだなァ」そう言うと、あの時どんな顔してたんだ、と唇が唇に触れ、俺はいつもこの瞬間に「もうこのまま喰われてもいい」と思ってしまう。
    開いた襟元を引き寄せよると、さっき食んだ指が唇を押し開き、熱い舌が絡みついてきた。お前は逆だよ、全部が熱い。Tシャツを捲り上げて背に触れる手も頸筋を這う舌も。
    お互いの鼓動と抑えた息遣いしか聞こえない。
    鍵のない部屋。隣の部屋にはさっきまで一緒にはしゃいでいた家族が眠っているその妙な背徳感、そんなものに二人とも気取られていた。
    ドアの前に何か気配がする、と気が付いたのはしばらくしてからで、はっとして振り返るとドアを引っ掻く音がした。
    アキチャンだよ、と言うと金城にしては珍しく「びっくりした…」と安堵の息を吐いた。
    どちらが先に笑い出したのか思い出せないけど、二人してなんだか笑いが止まらなくなり「早く家に帰りたい」と思った。
    アキチャンを招き入れながら、この部屋はもう自分の場所ではないんだ、俺の場所は別のところにあるんだってわかった。こいつがいる狭くてうるさいあの部屋。
    アキチャンは、「びっくりしたよ」と真顔で正座して話しかける金城を不思議そうに見ている。
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    💕💕💕💖👏👏👏💖💖💖💖💖☺💖
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    Replies from the creator

    穂山野

    DONE【リョ三】Sign

    インターハイが終わり、新学期が始まったころの幻覚です。
    二人がゆっくり距離を詰めていったらいいな、という幻覚をずっと見ていたので。
    二人で幸せを作っていってくれ…
    相変わらず拙い文章ですが、似たような性癖の方に届いたら嬉しいなあと思います…
    Signもう殆ど人がいなくなったロッカールームの小さな机で部誌を書いているとどこからか「宮城ィ」ともうすっかり聞き慣れてしまったデカい声がする。
    「なんすか?!」とこちらもデカい声で応じると「おー、今日一緒帰らね?」と毎回こっちがびっくりするくらいの素直な誘い方をするのが三井寿だ。
    最初はその理由がよくわからなかった。自分が部長になったことでなにか言いたいことがあるとかそういうやつ?と若干の警戒心を持って精神的に距離を取りながら帰った。でも三井にはそんなものまったくなく、ただ部活終わりの帰り道をどうでもいいような話をしたり、それこそバスケットの話なんかをしたいだけだった。
    最初は本当にポツポツとした会話量だった。家に着いてドアを閉め「あの人なにが面白えんだ?」っていうくらいの。そのうち誘わなくなるだろう、と思っていた。しかし三井はまったく気にしていないようで当たり前のように隣を歩いた。
    9412

    穂山野

    REHABILI【リョ三】『ふたりにしかわからない』
    リョ三になる手前くらいのリョ+三。うっかり観に行ったザファで様子がおかしくなり2週間で4回観た結果すごく久しぶりに書きました。薄目で読んでください。誤字脱字あったらすいません。久しぶりに書いていてとても楽しかった。リョ三すごくいいCPだと思っています。大好き。
    木暮先輩誤字本当にごめんなさい。5.29修正しました
    ふたりにしかわからない9月半ばだというのに今日もまだ夏が居座っていて暑い。
    あの夏の日々と同じ匂いの空気が体育館に充ちている。その熱い空気を吸い込むとまだ少し胸苦しかった。いろいろなことがゆっくり変わっていく。
    自分は変わらずここにいるのに季節だけが勝手に進んでいくような変な焦りもある。でもその胸苦しさが今はただ嫌なものではなかった。

    木暮が久しぶりに部に顔を出した。
    後輩たちが先輩、先輩と声をかける。あの宮城ですら木暮に気付くと「あっ」って顔をして5分間の休憩になった。
    部の屋台骨だった人間が誰か皆知っている。誰よりも穏やかで優しくて厳しい木暮は人の話をよく聞いて真摯に答えてくれるヤツだ。
    後輩たちの挨拶がひと段落したあと宮城も木暮に話を聞いている。
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