触手に襲われる💊(🔞ではない)まだ昼間だというのに薄暗い森の中。近道になるかと思い、小さな森に入ったつもりが、目測を完全に見誤ったドクターマリオ。どこまで行っても森の端にたどり着けない。
突然背後から大きな物音が聞こえ、振り返る。一瞬、巨大な木が目の前に現れたのかと思った。違う。あんな色をした木があるものか。薄暗くてよく見えないが、何本もの太い蔓のようなものが、それぞれ絡み合って地面を這い、こちらに近づいているのがわかった。
なんだあれは!?ドクターは酷く驚きつつ、目の前の生物に大声で問いかけた。
「何だ、お前は!私に用があるのか!」
数本の蔓が絡み合ったような生物は、口がないのか答えない。
生物というより植物か。いや、自力で歩く植物なんて見たことがない。
生物はどんどん近づいてくる。ドクターはじりじりと後ずさりをする。
こいつは私に危害を加えようとしているのか否か、判断しかねる。生物の動きを注意深く見ていたその時、生物の蔓のうち1本がにょきにょきと真上に伸びた。すると、目にも止まらぬ速さで、その1本がドクター目掛けて伸びてきた。間一髪でかわすドクター。空を切った蔓は、奇妙な音を立ててまた生物の本体へと戻った。これで確信に変わった。こいつは敵だ。
ドクターは、殺生はしないと決めている。行動するならただ1つ。逃げるんだ!
生物に背を向け全速力で走り出す。出口もわからぬこの森をただひたすら逃げるしかない。ただ、それが容易ではないことは、あの伸縮自在の蔓を見たのでわかりきっている。
今度は3本の蔓がドクターの頭上を飛び越え、ぐるりと先端をこちらに向け、ドクター目掛けて高速で縮む。ドクターはジャンプでかわし、スピードを緩めることなく走った。
ドクターはちらりと背後を振り返る。蔓をゆらゆらと気味悪く動かしながら生物が接近している。足らしきものはないように見えるが、どうやって動いているのだろう。そしてその蔓。生物にとって腕の役割をしているのだろうか。ドクターは先程受けた攻撃で、蔓の詳細を視認した。白っぽく濁った紫色をしており、その先端は丸く、指のようなものはなかった。動きは早いが、そこまで攻撃力はないように見える。
とにかく、奴が植物の仲間だとして、この森の「ヌシ」であるのなら、一刻も早くこの森を出なければ!
ああ、こんな時、マリオのファイアボールがあれば、奴に攻撃が届いたかもしれない。
再び蔓が迫る。今度はドクターの両脇に蔓が伸びてきたが、ドクターはぎょっとした。4本伸びてきた蔓の先端が、針のように尖っている!
時間差で刺突攻撃を繰り出され、避けきれなかった蔓が右足のふくらはぎを斜めに切り刻む。
バランスを崩し倒れるドクター。しまった。膝をついた身体を咄嗟に背後へ向ける。2本の蔓が迫ってきた!
「やめろっ!!」
尻もちをついたような姿勢で咄嗟に両手を突き出すと、ドクターの掌から青紫色の雷が出現し、それをまともに受けた2本の蔓は焦げるような音を出し本体へと引っ込んだ。
何がなんだかわからない。頭が混乱している。とにかく逃げないと。正直、自分だけでどうこうできる相手ではない!
立ち上がろうとしたが、筋肉が裂け、血が流れ出る右足に力が入らない。
また正面から蔓が伸びてきた。同じように雷撃で防ごうと両腕を上げた瞬間、さらに奥から2本の蔓がドクターの左に目掛けて飛んできた。
ドンッ、と身体全体が揺れる衝撃と、メキメキ、と骨の折れる音が同時だった。ドクターは真横に吹っ飛ばされ、背の低い木の枝をなぎ倒していった。湿った地面にうつ伏せに落ちた時、声も出ないような息が漏れた。左の脇腹が猛烈に痛い。痛みに耐えるように呻いていると、蔓がドクターの右足の足首を捕らえ、ドクターの身体がふわりと宙に浮いた。
「なっ……!!」
本体から長く伸びた蔓は、大きくしなり、ドクターをさらに遠くへと投げ飛ばした。巨木に右半身を叩きつけられたドクターは、為す術なくそのまま地面に落ちた。身体が小刻みに震えている。頭も打ちつけたため酷い目眩がする。目は開くが何を見ているのかわからない。右の眉に水が滴るような感覚。右足が痛い。左の肋が痛い。吐き気がする。気持ち悪い。立てない。動けない。
ぼやける視界に生物が映りこんだ。
殺される。
ドクターは、突然直面した死の恐怖に身体を震わせた。
奴は、「捕食者」だ。
弱肉強食、食物連鎖の頂点に立つ存在だ。
左腕に蔓が絡まり持ち上げられる。右腕も、右足も、左足も。ダメだ、身体が動かない。地面から一瞬離れたかと思うと、仰向けにさせられ、張り巡らされた大きな根に縫われるように、両手両足が蔓で固定された。
「や……めろ、離せ、この」
頭は回らなくとも口は回る。ドクターはついに至近距離で生物の姿を視認した。核のようなものはない。長さの違う数本の太い蔓のようなものが絡まり、その先端は今はすべて丸くなっている。
先程の針で殺されるのか、もしくは、別の姿に変身して、この身体を食いちぎられるのか。
ドクターは、未知の生物に捕食されるという自らの運命を呪い、目をぎゅっと閉じた。
すると、首にぬるりとした感覚が走り、ドクターはハッと目を開けた。蔓の1本がドクターの首に巻きついている。首を絞めるつもりか。……やはりこのまま死を受け入れる訳にはいかない。そう思い両手両足をジタバタさせると、首の蔓がきゅっとキツくなり、ドクターの息を詰まらせる。
そうこうしているうちに、2本の蔓が、ドクターの白衣を横に引きちぎろうとし、やがてボタンの糸がブチブチ切れた。
額帯鏡と聴診器は、先程投げ飛ばされた時にどこかに行ったようだ。ネクタイとワイシャツも同じように引きちぎられ、肌が露になった。
いよいよ食われる。両足両足の抵抗虚しく、ドクターは息を呑み、身体を強ばらせた。
しかし、生物はドクターの予想に反した動きを見せた。乱暴に服を引きちぎった2本の蔓は、そのひんやりとした丸い先端を、ドクターの胸元や腹の上でぬるぬると滑らせた。ドクターが混乱している間もなく、もう2本の蔓が、今度はズボンのベルトを砕こうと動き出した。
「な……っ!?」
ぼやけた視界が戻りかけ、ドクターは蔓の取る行動に驚愕した。ベルトは砕かれ、ズボンのボタンやらファスナーやらも破壊された。
そして蔓は、
「……っ!!や、やめろっ!!離せ、離せ!!」
怪しげな粘液を垂らしながら、ドクターの下半身を愛おしそうに撫で始めたのだ。
【強制終了】