TDDのミーティングのため寂雷の家を訪れた左馬刻は、そろそろ見慣れてきたリビングに繋がる木製のドアを開いた。鍵を開けてくれた衢は、一郎と乱数はまだ来ていないと言っていた。自身も所用でしばらく自室にいるとも。
当然、リビングには寂雷一人のはずで、落ち着いた低音がいつものように「いらっしゃい」と声をかけてくると予想していた左馬刻は、ドアを開けても何も聞こえないことに違和感を覚えリビングを見渡した。半開きの襖の向こうの部屋で、椅子に座って目を閉じている寂雷を見つける。
小さな悪戯心で足音を立てぬよう近寄り端末を取り出し、カメラを起動し一つタップした。画面が瞬き、撮った写真を保存するか、と聞かれる。
(…何やってんだ、俺)
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