Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    seeds_season

    @seeds_season

    ただいまmhyk小説(メインはミス晶♂・全年齢)がしがし書いてます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 👌 💜 📚 🌕
    POIPOI 21

    seeds_season

    ☆quiet follow

    日常SS。「旋毛」のその後のお話。なんとか全員出せた。

    ※第二部冒頭のネタバレあり。二度目の視察に際しての裏話捏造
    ※ドラモンドさんの年齢&家族構成に関する捏造あり

    おかしなティーパーティー 二度目となる視察の日。
     子供の姿で勢揃いした魔法使い達だけでも大問題なのに、俺まで子供の姿にされてしまい、その状態で視察団を迎えることになるという大惨事に発展した結果――。

    「……」
     案の定、見下ろしてくる青い瞳は、死の湖もかくやの冷ややかさだった。
     無理もない。俺だってヴィンセントさんの立場だったら、きっと絶句してしまうだろう。
    「……失礼する」
     ありとあらゆる感情を無理矢理飲み下した表情で、その一言を絞り出したヴィンセントさんは、本当に大人だな、と感動すら覚えた。
    「本当に! 本当にすみません!」
    「ああああ、お待ちください、ヴィンセント様! ヴィンセント様ー!」
     慌てるドラモンドさんとクックロビンさんを振り返ることもせず、護衛の兵士達を引き連れて去って行くヴィンセントさん。
     その、静かな怒りを湛えた背中を見送って、俺はがくり、と肩を落とした。
    「ほんっとうに……すいません……」
    「あの、賢者様。今度は一体何があったんです?」
     恐る恐る尋ねてきたクックロビンさんに、経緯を掻い摘まんで説明する。まあ――ほとんど前回と同じようなものなのだけれど、今回は俺まで変身しているので、状況はますます悪化している。
    「その……彼らも悪気があってやっているわけではないと思うんです。来客を楽しませようという気持ちが暴走してしまったというか……」
    「気遣いの方向性がおかしいのですよ、あやつらは! まったく困ったものです!」
     ぷりぷりと怒ってみせるドラモンドさんだけど、出会った頃のように一方的な罵倒をするのではなく、俺と一緒に困ってくれているのが、何だか嬉しい。
    「しかも、賢者様まで巻き込むとは! お体は大丈夫なのですか? どこか痛いところや調子の悪いところなどは?」
    「あ、いえ。ただ小さくなっているだけで、特に問題はありません。ちょっと扉が重くて開けにくかったり、移動に時間がかかったりするのが難点ですけど」
     元々、この魔法舎自体が長身の人間向けに作られている感があって、小柄な俺には持て余す部分が多いのに、こんな頭身になってしまうと、まさに『巨人の城に紛れ込んでしまった子供』のようだ。
    「それはいけませんな。どれ、私がお手伝いいたしましょう」
     そう言うが早いか、ひょいと抱き上げられてしまい、思わず「わあっ」と声を上げてしまったら、ぽんぽんと優しく背中を叩かれた。
     その手慣れた様子に驚いていると、すすすと近寄ってきたクックロビンさんが「ドラモンド様にはお孫さんがいらっしゃるんですよ」と耳打ちしてくれた。
    「賢者様のかわいらしいお姿を見て浮かれているんだと思います。おじいちゃん孝行だと思って、ちょっと付き合って差し上げてください」
    「は、はあ……俺は構わないんですけど」
    「ほれ、クックロビン! さっさと扉を開けないか!」
    「はっ、はいい!」
     慌てて玄関扉に飛びつくクックロビンさん。
     そうして、彼が開けてくれた扉の向こうでは、待ち構えていた二十一人のちびっ子魔法使い達が、満面の笑顔で「いらっしゃいませー!」と出迎え――。
    「何をしとるんじゃ、お前達ー!!」
     流石に堪忍袋の緒が切れたらしいドラモンドさんの怒声が、広間に響き渡ったのだった。

    +++

    「はーい、みなさーん。おやつの時間ですよー」
     カナリアさんが朗らかな声を上げれば、食堂のあちこちからかわいらしい歓声が上がる。
    「お手々を洗って、椅子に座ってくださいねー。あらあら、走ったらいけませんよ。ゆっくり歩いて。おやつは逃げませんからね」
     この異常事態に一ミリも動揺していないどころか、嬉々として子供達の世話を焼いているカナリアさん。元々肝の据わった人だと思っていたけど、おかしなことばかりが起こる魔法舎での生活に、すっかり慣れてしまった感もある。
    「ごめんな、全部任せちまって」
    「とんでもない! 皆さんに食べて頂けるんですもの、腕の振るい甲斐があるってものです! 旦那も手伝ってくれましたし」
     調理台に背が届かなくなったネロの代わりに大奮闘してくれたカナリアさんとクックロビンさんのおかげで、テーブルには豪華なお菓子がずらりと並んでいる。更にはルチル指導の下、食堂のあちこちにはかわいらしい紙の飾り付けまでされて、なんだか幼稚園の誕生日会のようだ。
    「まさかドラモンド様にまで召し上がって頂けるとは思いませんでしたけど。お口に合うかしら」
    「君の作るものはみんな美味しいから、きっと喜んでもらえるよ」
     配膳を手伝っていたクックロビンさんが、すかさず断言する。
    「熱いのう~」
    「アツアツじゃのう~」
     スノウとホワイトに冷やかされて、照れたように笑うクックロビンさん。その横では、室内だからと帽子を取らされたファウストが、なにやらぶつぶつと文句を言っている。
    「一体、いつまでこの茶番に付き合わなければいけないんだ? 視察が中止になったのなら、この姿でいる必要もないだろうに」
    「まあまあ、先生。折角だし、おやつくらいみんなで食おうぜ」
    「そうだぞ、ファウスト。それとも、ヒースが入れた茶を飲めないっていうのか?」
    「シノ! 先生になんてこと言うんだ」
    「そんなことは言っていない!」
     変身魔法の得手不得手があるせいか、それとも好みの問題なのか、魔法使い達が変化した外見にはかなりのばらつきがあった。東の魔法使い達は揃って十代前半の姿になっているものだから、なんだか小学生男子が会話しているみたいで、ちょっと面白い。
     一方、元の姿からほんの少しだけ小さくなっているリケとミチルは、自分たちより小さくなった魔法使い達の世話を焼いたり、悪戯を窘めたりと大忙しだ。
    「ブラッドリー、つまみ食いはいけませんよ」
    「ムルさん! そんなところに登っちゃダメです! 降りてくださーい!」
    「今日はミチル達の方がお兄さんみたいですね」
    「ふふ、なんて微笑ましい光景でしょう」
     楽しそうに笑うルチルとシャイロックは、ミチル達よりも幼い姿になっているから、なんだかあべこべだ。
    「さあ、皆さん、お席に着きましたかー?」
     カナリアさんの声に、まだ座る席を決めていなかった俺は慌てて辺りを見回した。
    「あれ、椅子が足りませんね。俺、持ってきます」
     急いでセッティングしたので、どうやら数が足りなかったようだ。走り出そうとした俺に、ドラモンドさんが「お待ちください」と制止をかける。
    「賢者様、私の膝へどうぞ」
    「ええっ!? そんな、悪いですよ」
    「いえいえ、むしろお邪魔しているのは我々ですからな」
     恐縮する俺をひょいと抱き上げて、膝の上に座らせてくれたドラモンドさんは、これまた手慣れた手つきでナプキンを首に巻いてくれた。
    (慣れている……これがおじいちゃんパワー……)
    「それでは皆さん、どうぞ召し上がれ!」
    「いただきまーす!」
     元気な声が重なり、和やかに始まったティーパーティー。
    「ちょっとブラッドリー。僕のクッキーを取るなんてどういう了見なの。殺されたいの?」
    「お前一人のもんじゃねえだろうが。独り占めするなよ」
    「ちまちましたのだけじゃ腹が膨れないんですけど。肉はないんですか」
     姿が変わっているだけで言っていることは普段と同じはずなのに、妙に微笑ましい光景になっているのが、何だか不思議だ。
    「こんな美味しいお菓子を作れるなんて、あなたは僕の花嫁に違いない」
    「違いますよ! 彼女は僕の奥さんで――ぎゃー!!」
    「ラスティカ! クックロビンさんを閉じ込めちゃダメだよ!」
    「おっと。これは失礼」
     よくある光景、で済ませてはいけないやり取りを横目に、いつもより甘めに淹れたミルクティーを飲み、かわいらしいアイシングの施されたクッキーを囓る。
    「いやはや、賑やかですなあ」
     俺の世話を何くれと焼いてくれながら、ドラモンドさんがぽつりと呟いた。
    「騒がしくてすみません。でも、今日はみんな、いつもよりはしゃいでる気がします」
     子供の姿だからというのもあるだろうけど、なんだか普段より素直で、無邪気で、感情豊かに見える。かくいう俺だって、元の姿だったらドラモンドさんの膝を借りるなんて大それた真似、絶対に出来なかったのだから、きっと幼児化したことで、心が体に引っ張られているんだろう。
    「アーサー、口にクリームがついている」
    「ありがとうございます、オズ様!」
    「……懐かしいな。こうしてお前の口を拭いていたのは、ほんの少し前のことなのに」
    「オズ様、恥ずかしいです……」
     照れたように笑うアーサーと、僅かに笑みを浮かべるオズ。その姿を、目を細めて見ていたドラモンドさんは、小さく息を吐いた。
    「……賢者様。私はアーサー様の、あのような幼い姿を見るのは初めてなのです」
     俺にだけ聞こえるように囁かれた声。その独白のような言葉に、俺は思わず胸を押さえた。
    (そうか……あの年頃のアーサーを知っているのはオズや、ごく一部の魔法使いだけなんだ)
     四歳から十三歳までの約十年間、オズの元で育ったアーサーの姿を、城のみんなは知らない。
     好奇心旺盛で、怖い物知らずで、とにかく無鉄砲な銀髪の少年。オズを質問攻めにし、一緒にパンケーキを焼き、北の大地でのびのびと育ったアーサー。
     彼がもし放逐されずに城で育っていたら、幼い王子に振り回されていたのはきっとドラモンドさんを筆頭とする城の人々で。
     王族として厳しく育てられたアーサーと、世界最強の魔法使いオズは、出会うことすらなかったのだろう。
    「アーサー様は、ああやって幸せそうに笑っておられたのですな」
     それを知ることが出来ただけでも、今日ここに来て良かった。そう呟いて、ドラモンドさんはそっと目頭を押さえると、すぐに陽気な声を上げた。
    「ささ、賢者様。次は何をお召し上がりになりますか? この爺が取って差し上げましょう」
    (とうとう『爺』って言った……!)
     きっと照れ隠しの部分もあるのだろうけれど。ドラモンドさんが子供好きなのは、もうすっかり分かってしまったから。
    「あの、ドラモンドさん。俺を構ってくれてとても嬉しいんですけど、ドラモンドさんも食べてくださいね。ほら、このクッキーとっても美味しいですよ」
     はいどうぞ、と猫型クッキーを差し出せば、ドラモンドさんはそれはもう嬉しそうに、あーんと口を開けてくれた。
    「おお、これは美味い。カナリア、見事な腕前だな」
    「まあドラモンド様。もったいないお言葉ですわ。ネロさんに色々と教えて頂いて、随分上達したんです!」
    「いや、俺は何も……」
    「謙遜するなよネロ! あんたの作る飯は本当に最高なんだから」
     恐縮するネロの肩をがしっと抱いて笑うカインに、温和な笑顔で頷くレノックス。
    「魔法舎に来てから、毎日の食事が楽しみで仕方ない。いつも感謝している」
    「ほんと勘弁してくれよ……照れくさいだろ」
     困ったように頬を掻くネロの隣では、ミチルに世話を焼いてもらってご満悦のフィガロを、ムルが楽しそうに見つめている。
    「もう、手がベトベトじゃないですか! ちゃんと拭いてください、先生」
    「あはは、ありがとうミチル。すっかり、頼れるお兄ちゃんだね」
    「わあい、ミチル、次は俺を構って~! 俺も顔を拭かれて『にゃあん』って甘えたい!」
    「もう、ムルさんまで。仕方ないですね」
     最年少のミチルに年長者の魔法使い達がこぞって甘えている図、というのは、なかなかにシュールだけれど。本人達が楽しそうなので、ツッコむのも野暮というものだろう。
    「おっと、もうこんな時間ですかな。そろそろ我々はおいとましましょう」
     鐘の音が鳴り響いたのを合図に、ドラモンドさんはきりっと表情を引き締めると、俺をそっと床に下ろした。名残惜しそうに頭を撫でながら、片付けを手伝っているクックロビンさんを呼び止める。
    「クックロビン! 城に戻るぞ」
    「は、はいっ! ごめんカナリア、あとはお願いしていいかな」
    「ええ、たくさん手伝ってくれてありがとう。夕食も期待していてね」
    「楽しみにしてるよ」
     頬にキスを落として、それからようやく周囲の視線に気づいたらしいクックロビンさんが悲鳴を上げ、カナリアさんが楽しそうに笑い、ドラモンドさんがわざとらしく咳払いをする。
    「すすす、すみませんドラモンド様っ! すぐ参りますっ!」
    「残っても構わんぞ?」
    「い、いえ! ご一緒します」
     シャキッと背筋を伸ばすクックロビンさんの背中をばしっと叩き、そしてドラモンドさんは俺の頭から手を離すと、心配そうに見つめてくるアーサーに、にこりと笑ってみせた。
    「アーサー殿下。このたびは素晴らしいティーパーティーにお招き頂き、ありがとうございました」
    「ドラモンド……。ああ。楽しんでもらえたようで何よりだ」
    「次回は! 次回こそは! 頼みますぞ! ありのままの様子を見せてもらえれば、それでいいのですからな!」
     魔法使い達をぐるりと眺め回し、念を押すようにそう告げて。
     そして気苦労の絶えない大臣は、気弱だけれど心優しい部下を連れて、意気揚々と魔法舎をあとにした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works