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    ゆりお

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    ゆりお

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    ほんのり神i東

    ##47

    神i奈i川と埼i玉/47 細くて長くて器用な指。それはまさしく彼という存在を表しているようだった。
     髪をすかれる心地よさに目を細める。指先がたまに耳に触れてこそばゆさを感じる。埼玉はゆっくりと瞬きをし、前を見た。少し眠そうな、ぼんやりとした印象を受ける青年が映っている。あまり鏡は見ないが見慣れた親しみを覚えるのは、双子の兄のせいだろう。
    「柔らかい髪だね」
    「そう?」
     神奈川は顔を伏せていたからいまいち表情は分からなかったけれど、小さく笑ったのが空気でわかった。響きの良い低音で、彼は答える。
    「うん、東京と同じだ」
     神奈川は埼玉の頭から手を離した。ワックスの蓋を開け、中のものを手のひらに広げる。
     鏡に映るその姿を仏頂面で睨みながら、埼玉は重々しく口を開いた。
    「……マウント? 港町のくせに」
    「そういうわけじゃ」
    「東京のことをよく知ってるって?」
    「ははっ」
     彼は爽やかに笑ったが、否定はしなかった。追求したかったが身支度を頼んでいる手前、強くは言えず、埼玉は黙る他ない。手持ち無沙汰に眼鏡をとって、汚れたレンズをティッシュで拭き始める。
     ワックスを纏った神奈川の手が再び髪に触れる。彼の手が撫ぜるだけで、あれだけ頑なにぺたりと寝ていた髪が綺麗に分かれ、兄によく似た顔立ちが露わになる。神奈川は髪先をねじるようにして動きをつけ、撮影時に崩れないようにスプレーで固める。その手際の良さは、まるで魔法のようだった。彼にセットをしてもらうのはいつものことだったが、毎回神通力でも使っているのかと疑う。
     神奈川は埼玉の肩に手を置いた。顔を寄せ、鏡の中を覗き込む。
    「うん、男前。もっと自分でも覚えなさい」
    「はーい……」
     眼鏡をかけ直しながら渋々と頷き——まだ神奈川がまじまじとこちらを見つめていることに、埼玉はたじろいだ。
    「何?」
    「んー、東京が大きくなったらこんな風になるのかなって」
    「はは、変な気起こすのやめてくれよ〜」
     それはもちろん冗談のつもりだったが。神奈川は笑みを崩したりはしなかった。
    「大丈夫。俺、小さい方が好きだから」
     ——沈黙。
     それは永遠に続くかと思われた。埼玉は蛇に睨まれた蛙のように固まり続けた。急に部屋の温度が上がったように感じ、背や腋に嫌な汗が滲み出るのが分かった。
     埼玉は要領よく、場の空気を読むことに長けていた。
    「……聞かなかったことにする」
     だから、自ら宣言した。満足したように、神奈川はその肩をぽんぽんと叩いて身体を離した。
    「埼玉はやっぱり賢いね」
     さすが東京の弟だ——その手つきに別のざわめきを感じながら。埼玉はこそりと胸を撫で下ろし、頭の中から嫌な想像を追い払った。
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