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    リゲル

    愛に苛まれる

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    リゲル

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    2021年1月16日に書いたブラネロ小説に加筆修正したものです。
    盗賊団時代の話。みんなで銃を撃ちまくってた、とある日の出来事。

    #ブラネロ
    branello

    軽く汗ばんだブラッドリーの髪を手でゆっくりと梳いて、欠けた耳元を端っこを撫でつけた。ブラッドリーはネロの膝を枕にし、静かに目を閉じていた。明かりの消えた部屋の中、暗闇、窓の間から漏れ出す月光が風に靡いて、ほんの一瞬だけ、ネロはその横顔を覗けたのだ。



    ……みんなで銃を持ってったことがあっただろ。斧でも鈍器でもない銃の気分だとか、ふざけたこと言いながら、各々選んだ銃を手に持ってさ。俺も短いやつをひとつ持ってたな。あんたが貸してくれるってのをわざわざ断ってその小さくて重たいのを両手で包んでた。

    弾は全部で6発全込めてあった。今更言えたことじゃないけど、俺は銃撃戦には自信がねえ、だって一度撃った弾丸は戻ってきてくれないじゃんか。

    とにかく、気前よくドアを蹴飛ばして見たあの風景。ありゃ酷かったな。ゴミ屋敷、大ハズレだった。それでもすぐさま飛び出てきたやつらに向けて、撃ったよ。それが1発目。

    それからショボいアジトなりに何か使えそうなものがないか見回してたら、真ん中に置いてあったテーブルの後ろに座り込んで、何かしら狙い撃とうとしてるあんたが見えたんだ。それがその瞬間どうしてもおかしくって、少し笑い出してしまって、笑って、その後すぐに2発目を撃った。

    残り4つな。な? ブラッド。

    ブラッドリーの赤く染まった鼻を人差し指で摘まんでやった。びくっ、と動く瞼や眉毛を眺めながら、ネロは掠れたような声で静かに笑った。

    3発目は、特一番邪魔だった奴に向けて撃った。それは薬莢の代わりにマナ石が降ってきて壮観だったね、輩どもが歓声を上げるくらいにはな。

    しかし4発目はハズレだった。天井にぶっ刺さってたわ。

    そんで5発目、あんたが手伝ってくれたやつ。

    急に手首を掴まれて、直後に俺の肩を銃の支えにしたろ。周りの窓ガラスが全部割れて、破片が雨のように降り注ぐ中でさ、俺は万が一のためにテーブルナイフを取り出した。窓の割れ目から吹雪が入り込んで息がだんだん白くなって、銃口からもふわっと煙が零れてて……で、見上げた途端に、あんた、笑ってたよな。
    俺はずっとずっと、その瞬間の全てが忘れられなかった。

    あの時の煙と、銃と、煙の匂いと、冷たいカトラリーと、あんたの……。

    そしてまあ、6発目はあんたの方が知ってるだろ。俺の銃搔っ攫っていったんだから。

    ネロはそう言って、腕を伸ばしブラッドリーの右手をゆっくりと撫で下ろした。指にはめられた派手な指輪の間にあるたこまでを丁寧に温めた。

    それだけじゃないし。
    急に俺を引き寄せてさ……、本当にどうしたんもんかと思った。あんたの肩の向こう側に、人影がひとつ仰け反って、ぶっ倒れるのが見えて、最中、手で俺の耳をずっと塞いでくれていて、あんたの掌の脈の音ばかり聞かされてた。



    ネロは手持ちの6発が全部無くなってから、しばらくブラッドリーの腕の中に囲まれていた。長銃を片手に軽々と、気持ち良いほど乱れ撃てるであろうこの男が、どうしてわざわざ自分の持っていたなんの変哲もないピストルを奪っていったのかについて考えつつも、アドレナリンのせいで早まった心臓の音を聞いていた。

    されど何百年たっても覚えていることになるとは流石に思いもしなかっただろう。しかし、何故か、ぼんやりと、今日の記憶は延々と刻まれ残るかも知れない、と。
    そう思ったのだ。

    丈夫にそびえ立つ生気溢れるあの全身に、魂ごと抱かれていた。やがて空のピストルが床に投げ捨てられる。

    銃声はその後も数発続いて、その反動が返ってくる度にブラッドリーとネロは共に揺れていた。

    「今日は帰ろうぜ」

    肋骨に沿って鳴り響いたその言葉を聞いた時、どれだけ嬉しかったことか。
    つい力が入ってしまうくらい嬉しかったんだ。ブラッドリーのコートのすそをぐっと引き寄せると、ブラッドリーは少し驚いたようにネロを見下ろした。

    浮かれた子供らしく頬っぺたを赤らめては微笑むネロを見て、ブラッドリーは何度か目を大きく開けてパチパチしてから、朗らかに笑った。いつの間にかネロだって笑っていた。ブラッドリーもまた、嬉しそうに微笑むばかりだった。その顔がひたすらに嬉しくて、ネロもまたまた微笑んだのだった。



    ネロは月の光から守るかのように、被さって包み込むように、ブラッドリーを抱きしめた。
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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了!ブラネロ妄想込み感想!最高でした。スカーフのエピソードからの今回の…クロエの大きな一歩、そしてクロエを見守り、そっと支えるラスティカの気配。優しくて繊細なヒースと、元気で前向きなルチルがクロエに寄り添うような、素敵なお話でした。

    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523

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    44_mhyk

    MEMOネの裏切りと、フィが彼に与えた『制裁』と魔法舎に来てからの『赦し』それによる苦しみについて(妄想走り書き、ブラネロ仕様)「ありがとう、君の手引きのおかげでようやく彼をとらえられそうだよ」
     フィガロがうっそりと笑う。柔和な微笑みの、目の奥が笑っていない。無表情でにらみつけられるよりよほど怖い。
     ネロは震えた。震えは、眼前の男への恐怖でもあり、また、己のしでかしたことへの恐怖でもあった。
     限界だった、もう死の気配に震えながら彼を見つめるのは。
     それから逃げることを許されないのは。
     だから手を取った。簡単な話だ。もう限界を超えていたネロの意識は、彼が……ブラッドリーが、生きてさえいればいい、という極論をはじき出した。
     たとえそれが彼の生きがいと言ってもいい、自由と暴力を奪おうとも。
     ただ、生きてさえいてくれればと。
     それは、ただの自己満足で、自己防衛だった。そのことに、ここまできてしまってから気が付いてしまった。
     ああ、もう、だめだ。
     これで楽になれる、自由になれるとかろうじて割れずに保たれていた何かが、パキンと音をたてた。
    「何か、お礼がしたいなあ。何か希望はない?」
    「希望……、ははっ! 罠にかけなきゃあいつ一人捕らえられないようなあんたに、何を望むって?」
     怖い。
     唇がカタカタと 1668

    salmon_0724

    MAIKING2023.3.5 日陰者の太陽へ2 展示作品ですがパソコンが水没したので途中までです。本当にすみません……。データサルベージして書き終えたら別途アフタータグなどで投稿します。
    ※盗賊団についての独自設定、オリキャラ有
    ※数百年後にブラネロになるブラッドリーと子ネロの話
    死にかけの子ネロをまだ若いブラッドリーが拾う話 雪に足をとられてつんのめるように転んだネロには、もう立ち上がる気力さえ残っていなかった。
     突き刺すような吹雪でぼろぼろになり、白く覆われた地面に叩きつけられたはずの体は、寒さで麻痺して痛みさえ感じない。
     ぴくりとも動かす気力のおきない自分の指先に、雪が降り積もっていく。
     その様子をぼんやり見つめながら、このまま死ぬんだろうな、と思った。
     他の感想は特にない。
     すっかり疲れ果てていたので、もう全部がどうでもよかった。
     誰が家族なのかもよくわからないまま出て行った生家にも、殴られたり逃げたりしながら掏りや窃盗で食いつないだ日々にも、大した感慨はない。
     最後にはとっ捕まって場末の食堂で働かされていたが、足りない材料を地下室に取りに行かされている間に食堂どころか村ごと燃やし尽くされていた。
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