「クラシックへの出走を、取りやめるそうだな」
「ルドルフ。……いやね、噂が広まるのはホントに早いんだから」
「否定しないということは、事実なのか」
「……まあね」
「あたしは走るのが楽しいだけ。目標とか、夢なんてないから……なんて、大層な夢を持つあなたに話したら、笑われちゃうかもだけど」
「……私の夢は、全てのウマ娘が幸せになれる世界を創造することだ」
「ええ、知ってるわ」
「その夢には、勿論君も含まれている。……私は、君が寂しそうに走る姿は、見たくない」
「……全く、あなたもまだまだ未熟ね?ダメよ、そんな私情を挟んじゃ」
「あたしが出なければ、他の誰かが夢を見れるんだもの。……言ったでしょ?あたしは走れればそれでいい。舞台なんて気にしない」
「……だから、君が我慢すればいいと?」
返事はない。困ったように彼女は笑う。……つまり、その通りだということだ。
「あなただって、経験あるでしょう?自分の存在が、誰かの不幸になること」
「……」
「……もう。そんな顔しないで、ルドルフ。あなたは、もっと素直にあたしの考えを受け入れてくれると思ってたのに」
「……ああ、そうするつもりだ。君の考えを否定するつもりなど――」
「うん、されても変えないから」
「ふっ、その顔を見るに、シービーは随分と駄々をこねたようだな」
「うーん、そうね」
「でも、ありがとう。あたしは大丈夫よ。心配かけちゃってごめんね!」
「マルゼンスキー」
「私は、君に約束しよう」
「……ふふっ、どうしたの突然」
「君が本気で走りたくなるレースを、私が作る」
「私は君の言う通り、まだ未熟だ。現に、君の心を晴らす方法を、私は知らない」
「だが、約束する。君がまた心から楽しめるレースを……私がライバルとして、叶えよう」
「そこまで言ってもらえるなんて、あたし、とってもあなたに大切にされちゃってるのね」
「……何を。これはただ、自分の望みだ。……本気の君と戦ってこそ、私の力は証明される。それまでに、走るのをやめてもらっては困るからな」
「そう。……じゃあ、待ってるわね。未来の三冠ウマ娘さん」