狐に嫁入り 四翔真と駆け落ちするかのように実家を出るつもりの雨彦だったが、こんな事態になったとて、彼は葛之葉家の大事な嫡子である。まさか路頭に迷わせるわけにはいかないので、父と叔母は、住居なら在る、と、場所を提案してきた。
ひとつは、今井町。
雨彦は、良い顔はしなかった。桜井から西にあり、さほど離れてもいない。ちょくちょく様子を見に来られるのは、嫌だった。
江戸初期に建てられた町屋が建ち並ぶ様は美しく、翔真は喜ぶかもしれないが、其処に住む豪商が古くから自治権を握るような一帯なので、新参者の事をあれやこれや詮索されると面倒だ。
もうひとつは、ぐっと離れて、奈良市。しかも、二月堂裏参道に面しているという。
これには、雨彦は、おっ、と思った。
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