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    しんべえ

    腐/CP厨
    自カプのみ

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    しんべえ

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    鬼翔真とリメショ雨彦の鬼ショタ雨華小説。
    四話目。
    新婚生活が始まりました。既におしどり夫婦。

    #SideM
    #エムマス
    m-mass
    #華村翔真
    shou-jinHamura
    #葛之葉雨彦
    amihikoKatsunoha
    #雨華
    yuHua
    #おねショタ
    maleVirgin
    #二次創作
    secondaryCreation
    #腐向け
    Rot

    狐に嫁入り 四翔真と駆け落ちするかのように実家を出るつもりの雨彦だったが、こんな事態になったとて、彼は葛之葉家の大事な嫡子である。まさか路頭に迷わせるわけにはいかないので、父と叔母は、住居なら在る、と、場所を提案してきた。
    ひとつは、今井町。
    雨彦は、良い顔はしなかった。桜井から西にあり、さほど離れてもいない。ちょくちょく様子を見に来られるのは、嫌だった。
    江戸初期に建てられた町屋が建ち並ぶ様は美しく、翔真は喜ぶかもしれないが、其処に住む豪商が古くから自治権を握るような一帯なので、新参者の事をあれやこれや詮索されると面倒だ。
    もうひとつは、ぐっと離れて、奈良市。しかも、二月堂裏参道に面しているという。
    これには、雨彦は、おっ、と思った。
    位置的に生活には少し不便かもしれないが、空気が綺麗で、穏やかな雰囲気の場所である。裏参道は人通りが少なく静かで落ち着いており、古めかしい石畳の道はなかなか風情がある。
    参拝者、寺院関係者の行き来はあるだろうが、民家は極めて少なかったように思う。干渉される心配はなさそうだ。
    夫、雨彦が「良いところだよ」と言うので、
    夫、いや、嫁、翔真は「おキツネちゃんのお墨付きなら」と喜んだ。




    弥生に入った。まだ寒さはあるが、日中は日増しに温かく、穏やかな陽射しが心地よい昼。
    庭先で、二人並んで洗濯物を干しながら、雨彦は右隣の翔真を盗み見ていた。
    嫁の美しさには、ことある毎に見惚てしまう。雨彦がこの鬼に今以上に熱を上げないよう、父と叔母は「美人は三日で飽きる」と釘を刺していたが、飽きる気配など皆無だ。
    柔らかな陽の光に照らされた翔真の頬は、桃の実のように艶やかで、健康的な白さで輝いている。自分も色白のほうだが、病的とまでは言わないが、嫁とはまた類の違う白さに見える。
    物干しに掛けた襦袢の横に、翔真は手拭いを掛けて伸ばした。その指先。長かった爪は、雨彦と暮らすにあたり誤って彼を傷つけないよう、一般的な長さに切り揃えられている。
    流石に角は落とせないが、これに関しては、雨彦はまったく気にならない。艶やかな紫色の角は翔真の明るい肌と髪によく合っているし、外出するときは、初めて会ったときのように妖術で隠す事もできる。
    「......」
    隣の翔真を、やや見上げる。この角度が好きである。
    「?どうしたの?」
    視線に気付きこちらを向いて、少しだけ目線を下ろしてくれる、この角度が好きである。
    「ちょっと、物干しが高いなと思って」
    これは咄嗟についた嘘ではなく、事実である。翔真の身長に合わせて(翔真自ら廃材で)作った物なのだ。二人の身長差は、三寸程度である。嫁は、ふふ、と笑って。
    「おキツネちゃんも、そのうち背が伸びるわよ。育ち盛りだもの」
    優しく頭を撫でられた雨彦は嬉しくて、キツネであれば、耳も尻尾もぱたぱたと振っているだろう。言わずもがな、表情にあまり変化はないが。
    「そうかな」
    雨彦は自分の体型や身長には概ね満足しているし、あまり背が高くなるのは嫌だな、と思った。
    翔真の背を追い抜いてしまったりしたら、甘えられないし、可愛いとも言ってもらえなくなる。

    というような本心は、到底、嫁には言えない。
    二人で暮らしはじめ半月ほどになるが、翔真の美しさと色気には、一向に慣れない。
    あれから、翔真は鬼としての衝動......人と交わり精を喰らう事......を、よく我慢している。が、言っても「我慢」である。
    夕食の後片付けが済めば
    「おキツネちゃん、一緒にお風呂入ろうよ」
    と誘ってくるし、寝支度が終われば
    「おキツネちゃん、一緒に寝ようよ」
    と身を寄せてくる。これには、思春期の少年は困ってしまう。
    翔真は、雨彦がどこまでなら許してくれるのか、日々試しているのだ。しかしやはり、身持ちが堅い。

    この日の夜も、
    外の焚口で薪を燃やし風呂釜を温め、土間へ戻ってきた雨彦に
    「おキツネちゃん、一緒に入ろうよ」
    と、誘ってきた。
    「華村さん、先に入りなよ」
    雨彦がいつもの調子でいなすと、翔真は、むぅ、と可愛く頬を膨らませる。今日は簡単には諦めないようだ。突掛草履を脱いで板の間へ上がった雨彦に、擦り寄ってくる。
    「私たち、夫婦らしいこと何もしてないじゃないか」
    翔真の言う「夫婦らしいこと」とは、要は"触れ合い"である。雨彦の腕を取り、着物越しに、温かな男の胸を押し当ててきた。
    「新婚なんだし、もっと仲良くしなくちゃ。せめて、背中ぐらい流させて」
    新婚夫婦というのは、自分達が勝手に決めた設定ではあるが、声に出して言われると、妙に興奮した。
    おねだり顔で見つめられて、雨彦は返事に困る。彼だって、翔真と湯浴みしたい。というより、単に、翔真の体が見たい。
    (まいったな)
    元来、優しい性格の少年である。この半月、よく堪えている嫁への「ご褒美」として、一緒に風呂に入る"だけ"なら良いだろうか、と考える。
    いや、努めて客観的に想像してみれば、逆に、そんな事が可能だろうかと疑わしい。
    翔真を警戒するというよりも、問題は自分だ。一糸纏わぬ翔真を見て、反応しないわけがない。そして、翔真が注目しないわけがない。
    「いや、いい」
    素っ気なく返事してしまうと、翔真は寂しそうな顔をして、そっと、夫と組んでいた腕を放した。
    夫が優しいので、嫁はつい、自分達の関係が人と鬼である事を忘れてしまいそうになる。怖がらせるような事は、したくない。
    「うん......。無理は言わないよ。アンタを困らせたくないもの」
    翔真の表情を見て、雨彦は後悔した。そして、触れていてほしかった。離れていった嫁の手を、さっと繋ぎ止めて。
    「華村さんは悪くない。俺が恥ずかしいだけ」
    この少年は言葉足らずなところがあるので、相手を誤解させてしまうような事が、今後も、大人になっても、ままある。
    流石に、いけない、と思ったのか。この時は直ぐ、素直に告白した。
    翔真は途端に蕩けるような笑顔になって。
    「まぁ、おキツネちゃん、なんて可愛いの」
    すがるように繋いできた雨彦の手を、きゅう、と握り返した。
    「私に気遣いなんか無用だよ。優しいね」


    二人の住まいについて話す。
    二月堂裏参道に面した二人の住居は、飾り気のない平屋建で、それなりに古く、築半世紀以上は経っているそうだ。
    前の住人が引っ越してどれほど経ったかは不明だが、中は荒れていなかったし、雨彦にとって掃除は苦ではないので、三、四日あれば心地好く住める状態に復活した。
    土塀の間の、こじんまりした住宅門から敷地へ入れば、洗濯にうってつけの南向きの庭が広がる。
    入居時、一本の梅の木がまだなんとか花を咲かせていたので、翔真は喜んだ。疎らに、椿、水仙も咲いていた。
    実はこの庭にはこのほか、牡丹、木蓮、紫陽花、クチナシ、朝顔、金木犀なども植えられており、二人はこの先何年も、季節の花々を楽しむことができる。
    庭と縁側を右手に望み、建物西側の玄関から入る。
    入ると土間で、流しと釜戸三つが並ぶ。そこから視線を上げた壁には一枚板の棚が出っ張っている。
    食器や、鍋などの調理道具は無かったので、後から町で買い揃えた。今は、色違いの湯呑みや汁椀、夫婦茶碗が、その棚に並べられている。
    玄関から土間を突っ切り外へ出ると、風呂の焚口がある。薪もこのあたりに保管する事にした。
    土間の流しと釜戸に背を向け南を向くと、六畳ほどの板の間があり、中央には囲炉裏。食事は此処で摂る。
    その向こうの障子を開ければ、六畳と八畳の和室が二間、東へ向かい並んでいる。東の八畳の部屋には押し入れと床の間もあり、二人は其処で寝ている。
    和室二間の南と東は縁側が続いており、開放的である。縁側からは先の庭が一望でき、板の間の障子から全て開け放てば、土間から庭まで風が通せる。
    縁側を辿っていくと、住居全体の北東に、風呂、厠が並んでいる。
    二人で暮らすには、十分な広さと備えの家であった。夫婦は、この家を心から気に入った。
    それに、雨彦曰く「綺麗」である。これまでの住人達に素敵な思い出があるのなら、なかなか幸先のよい新生活ではないか。

    とはいえ、
    二人が内縁の夫婦として暮らすにあたり、雨彦は、父と叔母から幾つか掟を決められていた。
    一つ、翔真の正体を誰にも知られないこと。
    一つ、相談と断り無く翔真を解放しないこと。
    一つ、金銭は自分達で稼ぐこと。(※米は定期的に実家から送る)
    一つ、雨彦は修練の際には家を空けること。
    一つ、雨彦が嫁を娶る際には、この同居は解消とすること。

    この決め事の中には、「関係を持つな」といったものは無い。ある意味、無言の圧力のように感じられる。
    何より、最後の一つが、現実を突きつけられるようで雨彦は辛かった。翔真は本当の嫁ではない。いつかは引き離されてしまう時が来るのだ。
    引っ越す前に実家でこの話があった際、雨彦は珍しく、年相応の子供らしく落ち込んでいた。
    翔真は夫を元気づけたかったが、言葉に困り、気の利いたことは言えなかった。
    「おキツネちゃん、そんな顔しないで。今は、あまり先の事は考えないでいようよ」
    わざと楽天的に言いつつ、その実、翔真ももう長いこと生きているので、いつか来る"その時"については、現実的に捉えていた。
    雨彦が落ち込んでいるのは今だけで、大人になれば、鬼でなく人間の、男でなく女の嫁が欲しくなるだろう、と。
    親の思いに気付き、いつかはお家のために、その血を遺す事を優先するだろう、と。
    そんな思いは、これからもずっと彼の中に潜み続け、今は良くとも、近い将来、翔真に切ない思いを抱かせる事になる。
    何にせよ嫁はこの時、夫と過ごす限られた時間を大事にしなくては、と、強く思ったのだった。
    (おキツネちゃんは、私のコト、護るとまで言ってくれた。一緒に居られる間は、私もおキツネちゃんをしっかり見守って、育てなくちゃ)



    掟のとおり、二人は引っ越して数日のうちに職を得ていた。
    翔真の仕事場は、二人の住まいから歩いてすぐ、二月堂を斜めに見上げるような位置にある、食事処兼茶店である。
    本人は日差しの中を長時間歩かなくてよいのが嬉しいし、夫も、近場なので安心に思った。気立てが良く働き者の翔真は、店主の老夫婦にも可愛がられ、楽しく働いているようである。
    翔真の美しさと人懐っこさに客が惚れてしまうこともしばしばで、しつこく言い寄る輩も何人か居たようだが、翔真が「年下で男前の旦那さんが居る」と言うと、皆泣く泣く諦めたという。これを聞いた雨彦は、なかなか気分が良かった。
    雨彦のほうは本人の知らぬうちに、父の口利きで「春日さん」で手伝いをする事になっていた。
    掃除、授与所での奉仕、祈祷やお祓いの受付手伝い、事務ほか力仕事などなど。若さを理由に何かと頼られるが、嫌な気はしない。(雨彦が、何でもそつなくこなしてしまうのも一因である。)
    また、翔真が日々お弁当をこさえてくれるので、夫は、昼にその包みを開けるのが楽しみである。




    二月堂の「お水取り」が過ぎれば、暖かくなるという。なので、まだ、寒い。
    火の元を消し少し経っただけで、夜間はすぐに室内が冷えた。
    同居するようになってこの方、家族の目が無いのをよい事に、二人の布団はぴたりとくっ付けて敷かれている。そうしたのは、意外にも雨彦のほうからである。
    翔真を警戒しているわけでない事を証明したかったし、ただ単に、並んで寝たかったのもある。
    さて、布団は敷かれているものの、寝支度が終わったわけではない。
    湯浴み後にすぐ肌の手入れができるよう、翔真は風呂の前から布団を敷くのである。それに倣い、雨彦も隣で自分の布団を敷くようになった。
    二人揃って今、何処に居るのかというと、風呂場。贅沢にもたっぷりと湯が張られたヒバ風呂の、手前。洗い場。
    金色に輝く長い髪を、三本の簪(かんざし)で楽にまとめ上げている翔真の、無防備な首筋と項(うなじ)が眩しい。嫁の艶めかしい背中を流しながら、雨彦は無意識に目が大きくなっていた。彼は腰に手拭いを巻いているが、翔真のほうは、文字どおり一糸まとわぬ姿である。
    この状況の理由について、夕刻のことを話す。
    今日は朝から良い日和であったが、夕方になると、サァサァと雨が降り始めた。帰り支度を終えた雨彦が、社務所の中で小雨になるのを暫く待っていると、窓の向こうに、傘を差し迎えに来る嫁が見えた。
    先に仕事が終わる翔真が、一旦家に戻り、傘を差して迎えに来てくれたのである。なんともいじらしかったし、窓越しに、傘の下から顔を覗かせた翔真と目が合ったときの笑みは、回想しても可愛らしい。
    「おキツネちゃん、迎えに来たよ。相合傘して帰ろ♪」
    寒いなか、雨を吸った砂利道でも、相合傘の下で二人寄り添って歩けば、何も苦ではなかった。身長的にも翔真が傘を差し掛けてくれていたのだが、このとき雨彦は初めて、
    (華村さんより背が高くなっても良いかも)
    などと思っていたのだった。
    お迎えの礼に、今日は雨彦から風呂に誘ってみたのだが、それを受けた翔真ときたら、散歩に行く前の犬のような喜びようだった。
    そして、今に至るのである。
    (華村さんの背中、、背中なのに、いやらしい、というか)
    雨彦はこれまで、人の「背中」で性的興奮する事など無いと思っていたが、それは間違いだと思い知らされた。
    翔真の艶やかな白い背中には、艶かしく陰影を描く背筋が浮かんでおり、大げさなものではないが、そのへんの青年よりもずっと良い体をしている。
    あの、構造がよく分からない腹掛けのような服を着ていた時も思ったが、嫁は、着物の上からは想像もつかぬほど、要所要所にほどよい筋肉とハリがあり、実にいやらしい体つきなのである。
    立派な男の体なのに、なぜこんなにも色っぽく映り、興奮してしまうのか、夫は不思議だった。
    どんなに美しい顔、可愛い表情をしていても、やはり翔真は男なのだ。だが、その事実は雨彦にとって残念なものでなく、そう感じるのも自分で不思議だった。
    そして、視線を下のほうへやれば、桃のような丸い尻が、風呂椅子の上に乗っかっている。安産型で、撫でても揉んでも気持ちよさそうだ。
    束の間見入っていたが、すぐに、男同士の場合ここで"する"事を思い出し、自身が反応した。
    雨彦はまだその具合こそ知る由も無いが、勝手に「その時」の快楽を想像する。そして、「その時」の翔真の反応も。あれだけ誘ってくるのだから、何がどうなってそうなるのかは解らないが、迎える側も気持ち良い筈である。
    (あかん)
    助平な妄想を止めた。翔真の持って入った手拭いで背中を洗ってやりながら、ずっと黙っているのも妙な気がして、話しかける。
    「華村さんって、これが、初婚?」
    そうであってくれと願いながら。過ぎたことはどうしようもないが、翔真の長い人生の中で、誠に愛した男が居たとしたら、切なかった。
    「あら、気になる?」
    「お嫁さんのことだから、気になる」
    「ふふ。おキツネちゃんとが、初めてだよ」
    「そう」
    雨彦はそっけない返事をしつつ、ホッとして、翔真から見えていないのを良いことに、口許が綻ぶ。
    腰近くに触れるのはまだ気恥ずかしく、そこへ差し掛かりそうになると、それとなく、止めた。桶で浴槽の湯を掬い、流してやる。
    「はい、おしまい」
    「ありがとね♥」
    翔真がこちらを向こうとするので、
    「待って」
    雨彦は慌てて、顔ごと視線を逸らした。
    「恥ずかしいの?可愛い♥」
    「......華村さんが色っぽいから、目のやり場に困る」
    こんな少年が「色っぽい」と口にすることに、翔真は興奮してしまう。性的興奮ではあるが、精(力)を欲する鬼の力に翻弄されるというより、純粋に、「雨彦が好き」という感情から来る喜びである。
    「おキツネちゃんって、紳士よねぇ。私は、旦那さんにいっぱい見てほしいけど……」
    (見てほしいっ、て……)
    ドキドキとしながら、向かい合った嫁を、というより、嫁の肉体を、横目で見る。
    汗ばんだ胸元は、その部分を見るだけでも扇情的である。太腿や二の腕、尻と同じように、むちむちとしてハリのありそうな胸は、男の胸だというのに、すがって甘えたくなるような母性を放っている。桃色の艶やかな乳輪は男にしては広く、ぷっくりとした乳頭は思わず"食(は)み"たくなるような大きさだ。
    豊かな胸の下に続く、むっちりとした腹筋。さらに視線を下げると、金色の陰毛が猪目の形に整えられている。
    (なんか、めでたい形にしてるんだな……)
    此処を見る頃には、雨彦の顔は完全に前を向いていた。
    中心の大きさについては、下世話な言い方だが、雨彦は年頃の少年らしく「勝った」と思った。こんなに美しい顔の下に陰茎があるのは本当に不思議だが、腿の間に、ぷるんと鎮座している其れは、翔真らしい愛らしささえ感じる。
    「でも……そんなに熱心に見つめられたら、恥ずかしいわ……♥」
    はにかんだような笑みの翔真に、雨彦はいっそう胸が弾んだ。
    (……可愛い)
    互いに好意があるとわかるこの感覚は、なんだかムズムズとして、とても心地好い。雨彦の頭の片隅で、「こういうのを恋愛というのだろうな」などという考えがチラつくが、自分らしくない気がして、すぐに追い払った。
    「ごめん」
    そっと翔真の手拭いを相手の股に掛けて、謝る。
    「ううん。嬉しいよ♥」 
    この「嬉しい」は、見てくれて嬉しい、という意味と、性的に反応してくれて嬉しい、という意味を含む。嫁の甘い視線に、夫はそれとなく、自身の主張を手拭いの上から隠した。
    「おキツネちゃんの背中も流させて」
    雨彦は中心に注目されることを避けることが出来、助かった。今度は自分が反対側を向く。完全に背を向けてから手拭いを渡す徹底ぶりである。
    彼も長い髪を、翔真により簪一本でまとめられている。幼くはなく、かといって大人でもない背中は、これからの成長を期待させる。嫁は、そんな夫の背を洗ってやりながら、話す。
    「ねぇ、おキツネちゃん。どうして、私と暮らすって言ってくれたの?」
    「どうしてって、、そうしたかったから」
    今思えば、かなり衝動的だった。決断というよりも、我儘に近い。どうしても翔真と引き離されるのが嫌だった。
    背中のほうで、翔真が、ふふ、と笑う。
    「私のコト、忘れられなかったんでしょ」
    艶っぽいというより、悪戯っぽい言い方だった。雨彦は図星を言われて、一瞬、ジトリとした目で振り向く。
    「華村さんだって、俺のこと探してた」
    「私は、ほら、落とし物を届けたかったし」
    念珠の飾り房のことである。正直、見知らぬ土地で方方を訪ねてまで届けに来るほどのものでもない。
    「それは建前で、目的は俺自身でしょ」
    「当たり前じゃない」
    雨彦がさらりと言ったのが面白く、翔真は悪びれもせず明るく笑った。
    「もちろん、ソレもあるけど、、なんでかしら、私もアンタのコト、忘れられなかったのよね」
    翔真自身も、あのときの自分の情熱が不思議だった。雨彦をモノに出来ぬなら、すぐに手を出せる思春期の少年などそのへんに居るのに、なぜわざわざ探し訪ねたのか。
    「まぁ、そういう事もあるわな」
    嬉しいくせにいつもの調子で返す夫は、嫁から見て可愛いったらない。
    「もう。おキツネちゃんたら大人なのね。素直に喜びなさいな♪」
    夫の背に湯をかけ流してやると、翔真は、ピト、と背中にくっ付いてきた。ハリのある胸の感触が伝わり、雨彦は翔真に出会って今までで、一番ドキッとした。
    (胸、、)
    「アンタと一緒に暮らして、毎日楽しいよ♥」
    「……俺も」
    雨彦は、何か始まるかも、と少し期待した。そして期待どおり、翔真はすぐには離れなかった。後ろからそっと抱き留めるような姿勢のまま、夫の肩を、するりと撫でる。
    「私、おキツネちゃんと、もっと仲良くなりたいな」
    翔真は普段姉さん女房然としているが、時にこうして甘えてくるところも、堪らなかった。
    「俺も」
    繰り返す。嘘ではなく本心だ。純朴な返事のようで、誘ってもいるようで、ずるい応え方である。
    翔真も夫の身持ちが堅いことは十分わかっているが、最近は、日々の『我慢比べ』を楽しんでいる節がある。
    「よかった♥じゃあ、一人で出来なくて苦しいときは、遠慮せずに言っておくれよ♥」
    雨彦は、またもドキリとさせられた。何故ばれているのか。やはり年の功か、それとも、そんな素振りでも見せてしまったか。
    確かに、一緒に暮らすようになってから自慰には難儀している。
    「言えるわけないでしょ」
    「そーお?おキツネちゃんにせがまれたら、私、なんでもしてあげちゃうのに……」
    雨彦は、こんなときばかりは都合よく受け取った。嫁と目が合わない程度に、気持ち、振り向く。
    「なんでも?」
    珍しく夫が乗ってきたので、翔真は嬉しくなる。勿論、簡単にいくとは思っていない。
    「ええ。私にしてほしいコト、一緒にシたいコト、いっぱいあるでしょ♥」
    (そりゃあ……)
    何を想像しているのか翔真には解らないが、夫は今日いちばん顔が赤い。
    とはいえ、嫁からして、ここまで自制を保てる男など、初めてである。これまで皆、翔真に誘惑されるがまま手を出してきたが、雨彦はそうはならない。
    この頃には翔真は、雨彦が自分を好いてくれていると分かっていたし、身持ちが堅いのも、そういった事に嫌悪感があるからではないと分かっていた。本人がまだ恥ずかしくて踏ん切りがつかないのと、自分を大事に想ってくれているがゆえなのだ。
    雨彦からすれば、早々に翔真を抱いたり何かしら手を付けてしまっては、嫁と事をした、もとい精を奪われた、軽い輩共と同格になってしまう。もっと信頼関係を気付いたうえで、せめて数ヶ月は……、といった妙に真面目な気持ちがあるのだった。
    「華村さん、俺はまだ大人じゃないし、あれやこれやどうするのか……ぜんぶ知ってるわけじゃない」
    雨彦が赤い顔で言葉を選びながら話すのを、翔真は甘い笑みで頷き、見つめている。
    「……本当に困ったときは、言うし……、……する……時には、教えてほしい」
    なんとか言い終えた幼い夫は、ちら、と嫁を見る。
    雨彦が可愛くて仕方ないのだろう。翔真は口許をムズムズとさせ、今以上の破顔を堪えている。
    「うん、うん♥優しく教えてあげるよ♥」
    純朴に嬉しそうな嫁を見て、雨彦は変な緊張が解かれ、簡単に絆されてしまった。なんだかんだ、おしどり夫婦である。
    「おキツネちゃんとするの、とっても楽しみ♥」
    (華村さん、嬉しそう。可愛い……)
    こんな調子の翔真だが、自分が手拭いを渡して夫が其処を隠すまで動けない事を分かっているので、勿体ぶらずに「はい」と手渡してくれた。

    そのあと二人は湯船の中で、今日の出来事、明日は何を食べたいか、休みの日は何処かへ出掛けようかなど、ぽつりぽつりと、何てことない話をした。
    ちょくちょく、雨彦は湯から覗く翔真の胸に釘付けになっていたが、嫁はそれを可愛らしく思い、茶化すことは無かった。



    翔真は鬼としての肉欲(精力を喰らうので食欲ともいう)をよくよく我慢し、
    雨彦少年も思春期らしい焦燥感や性欲をなんとか堪えながら、さらに二ヶ月が過ぎた頃。
    少しばかり、不思議なことが起きた。


    続く
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