虫の知らせ / 狂聡数年後、大阪に戻って普通に会社員になって過ごしていた聡ミ。キッパリ諦めたはずなのに結局狂児の事は忘れたくても忘れられずに過ごしていたある日、蒲田の家で使ってた寿司の湯呑みを落として割ってしまった。狂児が一度だけ家に来てお茶を出した時の湯呑み。数少なかった形ある狂児との思い出の品がとうとう壊れてしまったと破片をかたしながら、ふと嫌な予感が過って衝動のまま家を飛び出した聡ミ。
記憶を頼りに『スナック カツ子』のある区域に辿り着いて更に胸騒ぎが治らず、でも事務所がどこにあるかもわからないのにどうしようってウロウロしてたらキティちゃん恐怖症の兄貴に声掛けられて拾われる。(全員の顔を覚えてたわけじゃなかったから名乗られてもわからなくて刺青見て気付いた)
事情を説明すると悲しそうな顔で「聡ミ先生凄いな。やっぱ狂児とは切っても切れん縁なんやな。ちょっとショックかも知れんけど最後になるかもやから顔見てってや」って言って連れて行かれたのは病院で、抗争で重症を負って昏睡状態が数日続いた狂児が眠っていた。
痛々しい狂児の姿を見て聡ミはボロボロ泣いて、色んな感情が込み上げてしまって「僕のこと置いて死なんて言うたやん!狂児のドアホ!!」て体に縋り付いてわんわん泣いてたら、指先が動いて聡ミの頭撫でて意識取り戻した狂児。
キティちゃん恐怖症ニキも狂児が目を覚ましてえらいこっちゃってナースコールに組への連絡に奔走して、ぞろぞろ組員が見舞いに来るなか「聡ミ先生が狂児のことこっちに引き戻してくれた」て触れ回って、昔の聡ミの紅熱唱した時にいた組員にも「大きなったなぁ」って懐かしがられたりして。組長にまで頭下げてお礼言われて「僕本当何もしてないです💦」てなった頃にやっと狂児とも話せるようになる。
狂児曰く「三途の河渡りかけてたんやで、向こう岸に死んだ組のモンとかぎょうさんおってな、ああ俺死ぬんかと思いながらさ、腕見たら聡実くんの名前があってちょっとだけ後悔してん。でもどうしてもやっぱりこうやって俺が置いてってしまう方やん? 死に目に顔見たいなんて贅沢なこと言えんと思って、名前残させてくれたんやからって腹括ったらさ、向こう岸にジジイがおってん。うん。名付けの。流石に爺さんの顔やったけど改めて見たら俺とそっくりでびっくりしたわ。そしたらな、それ誰やって俺の後ろを指差して言うんよ。振り向いたら最後に会った時の聡ミくんがおって。めっちゃキレ散らかしてたんやで聡ミくん。昔キレた時みたいにフリーザモードやった。おー、怖ってなって。
でもまた泣かしてもうたて思ってさ、どうしよ思ってヘラヘラ笑っとったらな“名前だけ連れてって満足すんな!!“って叫ばれてな。そんで気付いたら本当に横で聡ミくんが泣いてて、まだ死なれへんと思って」
「うん。もうええって狂児さん。寝とき」
「じゃあ聡ミくん子守り唄うたってよ」
「えぇ、子守り唄なんて知らんけど…」
「紅でええよ」
手握って嬉しそうに見つめてくる狂児に向かってゆっくり紅を口遊む。暫く歌ってなくて掠れて上手く歌えなくて、歌詞も曖昧だったけど、安心した様に狂児はすぐに目を閉じて眠ってしまった。
コケて顔色の悪い狂児の頬を撫でて
「元気なったらまたご飯連れてってな」
って言ったら眠った狂児が少しだけ笑った気がした。
見張りで外に控えてた組員は二人のやり取り聞いて号泣してた。
狂児快復後何度か食事デートしてやっぱり離れられないってなった二人はやっとお付き合いするようになったとさ。
終