【旭郁】ハロウィン 部屋でソファに座っていると、後ろから突然郁弥が抱きついてきた。
「お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!」
「……って、もうしてるじゃねーか!」
笑いながら振り向き、視線を重ねてもう一度笑い合う。
「ちょっとやってみたかっただけ」
「まあ、外すっげー盛り上がってたもんな。みんな仮装してさ」
「可愛い女の子、いっぱいいたもんね」
「そうか?」
「すっごい見てたくせに」
含みのある言い方だ。
もしかして郁弥は、旭が仮装女子達にデレデレしていたと。勘違いしているのだろうか。
閃くと同時に驚いた。郁弥以外にときめくという概念が、自分の中に一切なかったものだから。
「気合い入ってんなーって思ってただけだっつうの」
「ふーん……」
視線の先にあるのは可愛いむくれ顔。でも、不安にさせたいわけじゃない。
――やっぱ言わなきゃ分かんねえよな。
旭は一つ決心し、至近距離で見つめる瞳に情熱を込める。郁弥しか映らない、映りようがないのだ。と、訴えるみたいに。
そして郁弥の両肩を強く掴んで引き寄せた。
「つーか俺が可愛いと思うの、郁弥だけだから!」
それは自分にとっては当たり前の事実。でも郁弥にとっては、当たり前じゃなかったであろう事実。
だから大きめの声で、はっきりと言葉にした。すると郁弥は顔を真っ赤にして驚きの声を上げた後――絶句した。
「え……!?」
「何驚いてんだよ。こんなの今更じゃね?」
――こいつマジで自覚なかったのか。
心の中で溜息をつき、でもそんなところも可愛いと思う。
旭は目の前でまだ動揺している郁弥を抱き締め、宥めるように頭を撫でる。
「ちょっと……いきなり何?」
「いやー、だって郁弥全然自覚ねぇし? 俺の愛情表現足んなかったかなーって思ってよ。結構、態度に出してるつもりだったんだけどな」
「……バカにしてる?」
「してねえって」
言いながら頭をポン、と数回さわったら、耳元で不満げな息の音が聞こえた。でも振り払われない。それどころか、しがみつかれている。お互いの好きがずれることなく重なっているような感覚に満たされて、けれど同時に、何食ったらこんな風になれるんだと思うほどの可愛さに心乱される。
お返しだとばかりにもっと強く抱き締めてやれば、「馬鹿力」と反論されたけど構いやしない。
こっちの気も知らず四六時中いたずらしてんじゃねえよ、ハロウィンの小悪魔め。