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    乙麻呂

    @otomaro777

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    乙麻呂

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    俳優パロの風信慕情が撮影で『シガーキス』をするだけの話です。俳優パロ見たいと言って頂きありがとうございました🙏🙏

    シュガーキス「お二人に、雑誌のオファーが来ました」
    近頃は、マネージャーである霊文の言葉を聞くだけで、碌な仕事じゃ無いと察する事が出来るようになってきた。


    通称“天プロ”の事務所で、風信と慕情は顔を見合わせる事も無く、むしろ互いに顔を背けながらも、互いにそっくり同じような“嫌な表情”を浮かべているのを自覚していた。
    霊文は口では『オファー』と言いながらも、その表情は『決定事項』だと言っていた。
    慕情が胡乱な目で霊文を見た。
    「今度は変な仕事じゃないでしょうね」
    「事務所側できちんと精査し、NGと判断した物は断ってます。ご安心を。先日の女装ロケとカジキ漁は断ったでしょう?」
    「……………」
    風信と慕情は顔を見合わせた。
    “ご安心”して良いのだろうか。と言うか、それはバラエティ芸人にでも振るべき仕事なのでは?
    霊文は淡々と続ける。
    「ドラマ出演も、お二人の意向を汲んでなるべく身体的絡みの無い物を選んでいます」
    「………………」
    もう一度言う。“ご安心”して良いんだろうか。
    少なくとも『刑事ドラマで熱く抱擁を交わす』のは“身体的絡み”にはカウントされないようなのだが、どこまでならセーフだと思っているのだろうか。
    それでも事務所を移ろうと思わないのは、何だかんだ居心地が良いからだ。
    ようやく謝憐と三人でこの事務所で共に俳優としてやっていけるのだ。ここで自分達が移籍しては意味が無い。
    それに、本気で嫌なら断れば良い。本気で無理強いはしないだろうと言う程度には、霊文の事をこれでも一応は信用している。


    無言で顔を顰める風信と慕情の反応など意にも介さず、霊文は詳細を語り始めた。
    霊文の口から出たのは、業界のタレントならば誰もが憧れるだろう、有名でファッショナブルな雑誌の名前だった。
    その表紙を飾り、更に10ページにも及ぶ特集を組まれると言うのは間違い無く名誉であり、断る理由などある筈も無い。
    乗り気とまではいかなくとも、やっても良いかという気分にはなった風信と慕情に向けて、霊文は更に詳細を語る。
    「撮影のイメージとしては『若社長と秘書』、『隠秘な関係性』で…」
    やっぱり碌な仕事じゃ無かった。
    「シチュエーションとして、『シガーキス』を入れたいとの事です」
    「………………」
    風信は渋面になりながらも、罵倒は何とか堪えた。
    キス………と言う単語は激しく気に食わないが、シガーキスならばまだ出来そうではある。
    少なくとも、以前やらされたポッキーゲームよりはずっとマシだ。
    「まぁ…………その位なら………」
    ハァと溜息を吐いて早々に腹を決めた風信の隣で、慕情が戦慄いた。
    「お前………正気か?シュガーキスだぞ?」
    「本当にキスをしろって言われるよりはマシだろ………………ン?」
    棒読みで諭しかけ、風信はふと違和感を覚える。
    今、何かが違ったような………
    隣を見やると、慕情が頬を赤く染めておぞましげに喚いた。
    「シュガーキスって何だ?お前、今度は俺に何をするつもりだ!?」
    「………………」
    風信は思わず、何か濃厚で甘ったるいキスを慕情と交わす情景を思い描きそうになった。
    慕情の唇の柔らかさが蘇りそうになるのを、頭を激しく振って阻止する。
    俺が、慕情と、甘いキス!?
    甘いキスって何だ!?
    うっかり頭の中に浮かんだのは、天プロきっての好色俳優裴茗が演じるキスシーンだ。
    正に砂糖菓子でも舐めているかのような、執拗でチュッチュと音がするタイプの……………

    ここに台本があったなら、引き裂いて床に叩き付けていただろう。
    いや、今回は雑誌の撮影なのだから雑誌か。

    風信は裴茗なんぞを連想した自分を呪った。
    挙動不審な風信を、慕情が変質者でも見るような目で睨む。
    その顔はほんのり赤らんでおり、風信に無体を働かれたと言わんばかりである。
    霊文はやれやれとでも言いたげに二人を見ていた。見てないでコイツのおぞましい誤解を解いてやれと言いたい。

    風信の念が通じたのか、霊文が口を開いた。
    「以前から思っていたのですが」
    …………………風信に向けて。
    「思春期から共にいるのに、貴方達は色恋話の一つもしていないんですか?猥談………とまでは言いませんが、一般的な範疇の話くらいはした方が健全だと思いますが」
    風信は歯を食い縛りながら呻いた。
    「貴女は、俺と慕情が、プライベートで、エロ談義をする仲だと、思うんですか?」
    霊文は澄ました顔で風信を見返した。
    業界内で度々女優かと問われる美貌が薄い笑みを浮かべる。
    「貴方達がそんな話をしていたら、深刻な仕事疲れと精神的限界を疑います」
    人を多忙にさせ、かつ心身を試すような仕事を入れて置いて、いけしゃあしゃあとした物言いだ。
    「………………」
    霊文に食ってかかっても、あしらわれるだけだ。
    風信は迸りそうになった何かを堪えた。
    今は、霊文より慕情だ。
    風信がいかがわしい話をするんじゃないかと、疑念に満ちた目でこちらを見ている慕情に向き直る。
    慕情が“キスしたら噛み付いてやる”と言う目で睨んでくる。睨むだけならまだ良いが、目元が恥辱に赤らんでいる。
    まだ何もしていないし、今後も風信の意思としてはする気も無いと言うのに!!
    風信はあえて単調に、はっきりと言った。
    「シュガーキスじゃない。シガー。煙草だ」
    「たばこ?」
    慕情が怪訝そうに首を傾げる。
    風信はスマホで画像を検索し、慕情に見せた。
    「片方が咥えた煙草の先に煙草を押し付けて、火を点けるのをシガーキスって言うんだ」
    画面には、煙草を咥えた男二人が煙草の先を押し付けている姿が表示されていた。少なくとも、慕情が想像しただろう性的な雰囲気は無い。
    慕情は拍子抜けした。
    「煙草を咥えて火をつけるだけか?」
    「ああ」
    「フン、仕方ないな」
    慕情が納得した事で、このオファーはあっさりと承諾された。


    顔の近さとか雰囲気とか、そう言う部分の感覚はもはや麻痺している事に、二人は気付いていない。



    ◆◇◆◇



    シュガーキス…………いや、シガーキスに気を取られていたが。

    「何でコイツが社長で俺が秘書なんだ?」
    慕情から、開口一番文句が出た。
    慕情はグレーのスーツに身を包み、一本の乱れも無く髪を撫で付けてワックスで固めていた。
    切れ長の目は化粧で更に鋭利な印象となっていて、軽笑や胡乱な表情を浮かべなければ、風信から見ても格好良いと思えた。
    黙って立っていれば、かなり見映えしそうだ。
    モデルとしての仕事が多いのも納得だ。見映えだけは。

    何と言うか、コイツが秘書だと有能だが毎日20は小言を言われそうだな、と言う印象だ。いや、小言なら今も言っているか。

    「刑事役だってコイツが上司だろう?偶には俺が上になったって良いんじゃないか?」
    役とは言え、慕情が風信の部下になるのを気に食わないのは仕方ない。でも、最近その手の話題に晒されがちな風信としては……………上とか下とかそう言う事を論じるべきではないような気がしてしまう。
    案の定、周囲の撮影スタッフ………特に女性がやけにそわそわとし始めたり、不自然に顔を逸らしたりしている。
    霊文は至極当然のように答えた。
    「風信が秘書では、シチュエーションが破綻します」
    「それもそうか」
    「破綻って何だ?俺が秘書だと何がいけないんだ?」
    風信が思わず口を挟むが、慕情と霊文に呆れたような憐れむような目で見られただけだった。
    そう言う風信も、『若社長』と言うコンセプトに則り、普段は着ないようなハイブランドのスーツに身を包んでいる。
    刑事ドラマでいつもスーツは着ているが、着心地が雲泥の差である。だがキツイ。
    ゆとりの無いサイズな上に、胸から足首まで至る所をベルトでバチバチ止められ、スーツ越しだと言うのに体格が浮き出ている。
    静止画の撮影で良かった。コレで演技をしろと言われていたら、動く度に色んな箇所が裂けそうだ。
    「フン」
    とりあえず自分が秘書役である事に納得したらしい慕情は、風信を頭から爪先まで見て鼻を鳴らした。
    「まぁまぁだな」
    どうやら及第点の見た目らしい。
    メイクや衣装スタッフの目の前で、失礼過ぎる態度じゃないか?



    とは言え、慕情とて俳優である。撮影自体は順調に進んだ。
    並んで立ったり、慕情が風信の肩に手をかけたり、風信の座る高級そうなデスクに慕情が腰掛けたり。

    …………この秘書、何だか偉そうだな
    ??


    そして、今回の象徴的なアイテム。煙草を使用した撮影となった。
    見た目は煙草そっくりだが、撮影用の小道具なので、中身は無害な薬品と綿が詰まっている。
    「風信さんの煙草に火を点けますので、慕情さんは煙草を咥えたままその火を貰って下さい。体の向きは………」
    撮影スタッフからの細かい指示を聞きながら、ふと風信は慕情が指先で物珍しそうに煙草を弄んでいる事に気付いた。
    風信も慕情も煙草は吸わない。それでも、風信は何度か撮影で喫煙シーンをこなした事がある。
    だが、慕情は見た目のイメージからか、喫煙シーンをオファーされた事は無かった筈だ。

    慕情の細い指先が煙草をくるくると回し、そして…………
    「何で剥くんだ!?」
    煙草の表面に巻かれた紙を剥き始めたので、慌てて取り上げた。
    幼児のような扱いに、慕情の眉が寄せられる。
    「何すんだよ」
    「それはこっちの台詞だ!!」
    まさかここまで知らないとは。慕情は憮然と言う。
    「剥いてから咥えるんじゃないのか?」
    「剥いたら出るだろう!?」
    風信は手の平の上で、慕情が剥きかけた煙草をそっと解体する。本来の煙草とは違うが、火を点けたら煙が出るような、薬品を染み込ませた素材が出てきた。
    「ちゃちな作りだな」
    「煙草ってのはこう言うものだ。…………すみません、もう一本ありますか?」
    何で俺がコイツのフォローをしてやらないといけないんだ?と思いながらも、風信は小道具係のスタッフを振り返る。
    「あ……………はい!」
    笑っているような困惑しているような表情の若いスタッフは、すぐに新しい煙草を渡してくれた。
    風信は受け取ると、慕情の唇にそれを押し当てた。
    コイツに任せていたら、次は火を点けるべき方を咥えかね無いと思ったのだ。
    「いいか、こうして咥えて…………そう、それで手を…………」
    慕情の手を取り、指を曲げさせたり伸ばさせたりして“撮影で綺麗に見える喫煙の仕草”に仕立てていく。
    慕情は特に嫌がる事も無く、大人しく風信のさせるがままに手を預けていた。
    「そう、それで俺が火を点けてお前のに当てるから、お前はこう…………この角度のまま煙草を持ってればそれでいい。目線はあの床のシミでも見てればいいから」
    煙草を咥えたまま、コクコクと慕情が頷く。
    これだけ間抜けでも、見た目だけなら少しアンニュイな美青年の喫煙シーンになる辺り、美形は得だなと思う。
    風信も煙草を指で挟むと、すかさず横からスタッフがライターを差し出した。
    火が風信の煙草の先を炙り、紙がチリチリと燃え始める。
    白い煙が立ち昇った。
    風信は慣れた仕草でそれを咥えると、慕情の煙草にそっと先端を押し付け…………………

    「…………」

    緊張からか、ごく小刻みに慕情が震えている。
    いや、と言うかアレだ。
    (コイツ、息止めてやがる!?)
    咥えている間の呼吸の仕方まで教えてやらないといけなかったのか?息くらい、教えなくても出来るだろう???
    薄く色付いた唇が震え、煙草の先がぶれる。
    息くらいしろ、逆にぶれてる、と風信はアイコンタクトを送ろうとしたが、慕情は馬鹿正直に床のシミを見ていて、風信の事など見ていない。ジリジリと焼けていくフィルター。
    風信は慕情の顎を掴んだ。
    「ンッ!?」
    驚いたように慕情の喉が鳴る。
    風信は慕情の顎に指をかけたまま、煙草の先を慕情が咥える煙草に押し付けた。
    慕情の煙草がチリチリと焼け始め………………



    シャッター音が高速で鳴り、「オッケー!!」と言うカメラマンの声がかかった。
    風信は思わず溜息を漏らしながら、用意されていた簡易型の灰皿に煙草を押し付けた。
    「ほら、お前のも貸せ」
    ついでに、燻った煙草を咥えたまま固まっている慕情の口からも煙草を取り、処分してやる。
    今更息を止めた反動でも来たのか、慕情の白い顔にみるみる赤みがさした。
    「お、おま…………」
    偽物とは言え、火を点けたのだ。苦味や独特の風味は口に残る。
    それが嫌なのか、慕情はごしごしと手の甲で唇を擦り始める。
    一瞬風信を睨んだ気がしたが、慕情に睨まれるのは何時もの事なので特に気にもせず、風信は撮影が終わった事に安堵した。




    それから数ヶ月後。
    雑誌はやたらと大々的に宣伝され、撮影秘話をやたらと長々と語らされたりインタビューが掲載され、発売された。
    世間の反応はとても凄いらしく、『本当にキスしてる』と評判だと何故かしたり顔の裴茗から言われた。
    シュガーキスなんだから確かにキスだろうと、風信は聞き流し次の仕事へと向かうのだった。
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