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    乙麻呂

    @otomaro777

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    乙麻呂

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    春の風情祭りと言う、素晴らしい企画に乗らせて頂きます✨✨
    テーマ【花】で参加させて頂きました。
    両片思いな二人です。

    素敵な企画をありがとうございました。

    『春の兆し』※付き合ってない風情(両片思い)



    まだ日の昇らない薄暗い朝、人界の南方に何千と存在する『南陽殿』の一つに光が降りた。

    南陽殿の主殿内に降り立ち、風信はぶるりと体を震わせた。
    「クソッ、寒いな」
    まだ、明け方は随分と冷え込む時期なのだなと、そんな事を今更ながら知る。
    ここの所巡察の任務も無く、ずっと上天庭にいたから気付かなかった。
    上天庭のある神界と言うのは、年がら年中光に溢れ、暖かな空気が満ち、そこら中に花が咲き乱れている、季節もクソも無い場所なのだ。

    “アイツ”に言ったら、きっとあの冷淡に見える顔に少し愉悦を混ぜた笑みを浮かべ、「そんな当たり前な事も分からなかったのか?」とでも言うんだろう。


    いや、その前に、まずはこの神像をこき下ろす事から始まるんだろう。
    何だこの神像は?南陽将軍とは、髭が二尺は無いといけないと言う決まりでも出来たのか?それから何だこの弓は。お前はすぐに拳に訴えるから、こんな棍棒みたいな弓を造られるんだぞ?
    傍らに立つ、やけにいかつい“南陽将軍”の神像を目にしただけで、何を言われるか鮮明に想像出来てしまい、風信はまた小さく「クソッ」と呟く。
    季節なんか知るか。いちいち気にしてられるか。神像だって、俺のせいじゃない。髭があった方が威厳が出るとかで、最近の神像にはやたらと髭が生えている。お陰で、お前は800年間の髭を剃らない不精だと思われてるのかと、慕情にバカ笑いされた。

    内心で言い訳しながら大股で歩いていた風信は、南陽殿を出た所でふと足を止めた。
    南陽殿の周囲にはまだ幹と枝しか無い樹が並んでいるが、その中の一際大きな樹の枝に淡い桃色の花がポツリと咲いていた。

    思わず近寄り、まじまじと見る。
    ふわりと芳香がした。
    まだ開花時期には早いと言うのに、意地で真っ先に咲いたような孤独で美しい花に思わず笑いが漏れる。
    まるで、アイツのようだ。


    ◆◇◆◇

    夜。
    玄真殿に顔を出すと、慕情はあからさまに顔を歪めた。
    「来られても迷惑だ」
    挨拶代わりに吐き捨てられ、風信は首の後ろを掻く。
    「長居はしない」
    「帰れ」と言われないと言う事は、「入れ」と言う意味に解釈しても良いらしいと、長年の付き合いでようやく分かるようになってきた。
    玄真殿の執務室はまだ煌々と灯りがともっており、[[rb: 卓子>テーブル ]]には書簡が積み重なっている。
    墨のにおいがまだ濃く、今まで働いていた事が分かった。
    慕情はつまらなそうに肩を竦める。
    「少し、確認したい事があっただけだ」
    やる気が無いように見えて、やるからには妥協も手抜きもしない勤勉な奴なのだ。
    南方の異変を察知するのが慕情で、実際に討伐するのが風信。
    同じ南方武神として少しは協力するようになった最近では、そんな役割分担が出来ていた。
    状況を読み解くとか、違和感を覚えるとか、そう言うのが苦手な風信にとって、慕情は実にありがたい存在だった。
    口と態度は悪いが。
    「そうか」
    「そう言うお前は?」
    執務はもう終えるつもりだったらしく、筆や墨を片付けながら慕情が素っ気なく問いかけてきた。
    「俺?」
    「珍しく、下に降りてただろう」
    「何で知ってるんだ?」
    思わず訊くと、慕情は顔を歪めた。どうやら問われたく無かったらしい。
    まぁ、人の動向が気になる神経質な所は昔からなので、風信はその疑問をすぐに手放した。
    「偶には自殿を見回れって言ったのはお前だろう?」
    10年も神号を変えられていた事に気付かなかった風信を、ボロクソにこきおろして「そんなに自殿を放置出来る神経が分からない」と説教したのは慕情だ。
    忘れたわけでは無いだろうに、また慕情は顔を顰めた。
    そんなに顔を歪めてばかりいるから、本当は綺麗な顔をしていると誰にも伝わらないのだ。
    「お前が俺の忠告を聞くなんて、だから変な鬼が沸くんだ」
    「変な鬼?」
    「もう対処した」
    「そうか」
    慕情が大丈夫だと言うならば、大丈夫なのだろう。風信は軽く頷く。
    そんな風信の顔をじぃと睨み、慕情が腕を組んだまま言う。
    「で?そっちは変化は無かったのか?」
    少し小馬鹿にしたような言い方は、ただ揶揄しているんだと分かる。何で普通に聞けないんだろうか。
    風信は「何も無かった」と言おうとして、ふとささやかな変化を思い出した。ポツリと咲いた、白い花を。
    「…………そう言えば、南陽殿にも春が来ていたな」

    枝だけに見えたが、よく見れば沢山蕾が付いていた。
    真っ先に咲いた一輪の花も、あと数日もすれば沢山の花に囲まれるだろう。
    その頃に、また訪れようか。
    それまで、あの花が咲き続けていれば良いなと柄にも無く思う。
    「……………は?」
    いつになく穏やかな表情になる風信に、慕情は心底唖然とした顔をした。
    「春が来た?」
    「いや、正確には『春が来そう』だったが………」
    自分に似合わない洒落た言い回しをしてしまった事がじわじわと恥ずかしくなり、風信は微かに頬を赤くしながら言う。
    何でそんなにギョッとした顔をするのだろう?
    確かに春と呼ぶにはまだ少しばかり早かったかも知れないが、そんなの些細な事だろう。
    コイツは、季節の表現すらも僅かな間違いが許せないのか?
    慕情はやけに昏い顔をしている。
    「お前に…………春…………」
    「お前の所にだって春くらい来るだろ?少しウチに早く来ただけで」
    玄真殿も南陽殿と同じ南方にあるのだから、開花の時期は似たようなものだ。ただ、南陽殿の方が少しばかり暖かく穏やかな気候なので、開花も早いのかも知れない。
    花の時期なんて、あまり気にして来なかったから知らないが。
    しかし、慕情は風信がとんでもない失礼な事を言ったとばかりに睨んできた。
    「私に来るかなど、お前に分かるのか?」
    「………俺の所に来るなら、お前の所にも来るだろう?」
    しかし、慕情は風信を睨むと、荒んだ笑いを漏らした。
    「ハ、残念ながら、私の所には来ないようだ。お前のせいでな」
    「俺のせい?」
    いや、季節の到来は自然の摂理であり、どんなに優れた神官でも覆せない。
    勿論、風信には花ひとつ咲かせる事は出来ない。
    「俺と、お前の所に春が来ないのと、何の関係があるんだ?」
    コイツがわけ分からないのはいつもの事だが、今日は一段と理解が出来ない。
    首を捻る風信に、慕情は歯を食い縛って吐き捨てた。
    「お前には一生分からないだろうな」

    あまりに不可解な態度に、風信は苛立ちよりも戸惑いが勝った。
    何で慕情と険悪な雰囲気になっているのだろう?
    ただ、春の訪れを慕情にも伝えただけなのに?
    風信が玄真殿に立ち寄ったのは、慕情に会いたくなったからだ。むしろ、慕情には喜んで欲しかった。

    ああそうか、見もしない花の話題など出されても、楽しくも嬉しくも無いのは当然か。なら。

    「お前も見に来るか?その、ああ言う綺麗なのは、お前も嫌いじゃないだろう?」
    あと数日もすれば、きっとあそこら辺一帯が薄紅色に染まっている。
    春の訪れを感じながら酒でも飲むのも悪く無い。
    慕情がつまみか何か作ってくれれば更に最高だ。
    執務室に篭り切りの慕情は、風信よりも春の訪れに疎い事が悔しいに違いない。
    実際に春を感じれば、きっと心も綻ぶに違いない。
    善意とほんの少しの期待を胸にそう口にした瞬間、風信は凍り付いた。
    「ハァ?」
    “機嫌が悪い”どころではない。慕情の纏う空気はもはや殺気だ。
    その口元に笑みが浮かぶ。それがまた恐ろしくて、風信は後ずさりそうになる。
    「ああ、そうか。そりゃ良かったな?お前が絶賛するのだから、さぞかし綺麗なんだろうな?」
    「いや……………そこまでは言って無いが………」
    ひくりと頬を引き攣らせる風信を睨み付け、慕情が吐き捨てた。
    「俺が、何でお前の女に会わないといけないんだ!?」
    「ヒィ!?」
    あまりの剣幕に震え上がった風信だったが、ふと違和感を感じて眉を寄せる。
    「……………………女?」
    「何だ、男だったか?」
    慕情が悪辣に言う。その忌々しげな表情を見つめ、風信は唖然と呟く。
    「何の話だ?」
    「お前が言ったんだろう?[[rb: 恋人が出来た>春が来た ]]と」
    「…………………………」
    風信は口を丸く開いたまま、頭の中で一連のやり取りを思い返した。

    「……………………っぷ」
    思わず風信は吹き出した。すかさず慕情の鋭い視線が突き刺さる。
    「何がおかしい」
    「いや、すまない」
    コホンと咳払いし、風信は落ち着いて訂正した。
    「春と言うのはそのままの意味だ。南陽殿の木が花を付けていて、もう春だなと思っただけだ」
    改めて説明するのも恥ずかしい程の単純さだ。
    大体、風信が恋人を春に例えて語るわけが無いだろう。裴茗じゃあるまいし。
    慕情は暫く風信を睨んでいたが、徐々にその白い顔に赤みが差し始めた。
    と思えば、みるみる顔が羞恥に歪み、真っ赤に染まる。
    「っ、この、巨陽馬鹿!!!紛らわしい言い方をするな!!」
    いや、お前が勝手に曲解したんだろうと思ったが、口にはしなかった。
    これ以上慕情を刺激すべきじゃ無い。
    自分に恋人がいないのに、風信ごときに先を越されたのが悔しくて腹立たしかったのだと思うと不思議と怒りは湧かなかった。
    これが『やきもち』と言うヤツならば、むしろ嬉しいのだが……………

    「…………………ん?慕情」
    ふと、とある事に思い至って風信は口を開いた。少しやさぐれた目で慕情が見返してくる。
    「何だよ」
    「『俺のせいで[[rb: 玄真殿> お前]]に春が来ない』って言うのは、どう言う意味だ?」
    風信と慕情の好きな相手が被っていて、その人と風信が恋人になったのならば分かる。
    けど。それはあり得ないのだ。だって、風信が好きな相手は……………


    慕情は目を見開き、そして自身の失言に気付いて戦慄いた。
    「し……………」
    慕情の目は怒りすぎて潤んでいるように見えた。慕情が風信に蹴りかかる。
    「知るか!!!」
    「うわっ、危ない!何をするんだ!?」
    誤解は解けた筈なのに、なぜまた怒っているんだ?
    慕情は無言でひたすら殴りかかって来る。
    ただ、顔が真っ赤なのであまりムカつきはしない。むしろ、何故か可愛くすら見える。

    風信は慕情の拳や蹴りをひたすら避けながら、ふと思った。
    この興奮が収まったらもう一度きちんと花見に誘ってみようか。



    南陽殿と玄真殿にも春が来るのは、もう少し先の話。
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