「――主イエス・キリストのみ名によって。アーメン」
控えめに、しかし滑らかに唱えられた祈りにピタリと歩みを止める。
シャラリと首元のチェーンを鳴らし、声の方向に顔を向けると一人でベンチに腰掛ける子供の姿が目に入った。
熱心な信者である。そう直感した。
何も祈りの姿勢から分かったわけではない。そもそも空却自身、己の信仰する以外の宗教に関しては人並み程度の見識しかないのだから、熱心かどうかなぞ分かるはずがない。
では何を根拠にしたのか。少年が纏う「気」である。
少年は空却が慣れ親しんだ、一部の宗教家が醸し出す凪いだ海のような気を纏っていた。
己より幼く、成長途上にある身体から滲み出る、父や他の僧侶達と似た情調に違和感を覚える。
――面妖な。
そう思った刹那、顔を上げた少年と目があった。少年の双眸は零れんばかりに開かれ、凪いでいた海は僅かばかり波立つ。