「前から思ってたんだけどさ、あんたとセンセーってちょっと似てるよな〜」
食後のチーズケーキを頬張る少年を前に、一二三は頬杖を付きながら無邪気にそう言い放った。あまりに脈絡のないに少年も先生も目をぱちくりとさせている。ああもう、
「一二三、いきなり何言ってるんだよ」
「ん? フツーに思ったから言っただけだぜ? 」
「それにしても唐突すぎだ。先生もコイツも吃驚してるだろ」
「あり? ビックリさせちった? 二人ともメンゴメンゴ〜」
相変わらず軽い奴だな……。
ため息と共に肩を竦めた俺は悪くないと思う。
そんな俺達のやり取りを、テーブルの向かいに座った二人は本当に仲が良いねと微笑ましげに見ていた。
先生はともかく、子供にそんな表情をされるって大人としてどうなんだろう……。
そんな俺の空気を察したのかどうかは分からないが、先生は一二三に向き合って話題を変えて、いや、戻していた。
「ところで、一二三くんはこの子と私のどこか似ていると思ったんだい? 」
「自分も、気になります」
「そうだな〜〜」
一二三は顎に手をあて期待の目をした二人を見比べる。何となく俺も手持ち無沙汰で同じことをした。
……はっきり言って似てないんじゃないだろうか。
二人とも綺麗な顔をしているが、そもそも系統が違うし、髪や目の色が同じわけでもない。ちょっとした共通点はあるが、似ている、という程ではない気がする。一二三はどこが似てると思ったんだ?
チラリと隣を流し目で見ると、「ん~〜??」と首を傾げて考えている。発端のお前も悩むのかよ。そう心の中でツッコミを入れたところで一二三はパッと花開いた。
「イキフン!」
「は? 雰囲気? 」
「そっ! 上手く言えないけど、そこがなーんか似てるんだよなぁ」
「なんだかスッキリしない答だな」
曖昧に曖昧を塗り重ねてどうするんだ。見ろ、いつもなら慈悲深い笑みを浮かべる先生もこの人もキョトンとしてるじゃないか。はぁ、とため息をつくと「あ」と蕾が開いたような子供の慎ましい声が響く。何か思い当たることでもあるのか?
「何か、心当たりでもあるのかい? 」
先生も俺と同じことを考えたらしい。いつもの穏やかな声で隣のアイツに問いかけていた。
「ええっと、あるには、ありますけど、確信が持てないといいますか……」
そんなに言いにくいことなんだろうか。言葉を言い淀ませて、もじもじと居心地が悪そうにしている。なんだかそれが幼い時の弟の姿と重なり、いじらしく思えた。
「そんなに気を負わなくてもいいじゃないか? どんな話の内容でも先生も一二三も、もちろん俺も馬鹿にしないし、最後まで話を聞くよ」
「そーそー、独歩ちんの言うとーりだぜ? どーんと話してみなって」
一二三も背中を押してくれるらしい。な? っと一二三がいつものようにウインクをすると「まとまりがないかもしれませんが……」という前置きをしておずおずと話を始めた。
「……まず、僕と神宮寺さんが似てるのは、僕の父と神宮寺さんが似てるからじゃないかなって、思ったんです。なんと言いますか、ええっと……」
一応噛み砕いて説明しようとしているらしいが、上手く言葉が出ないらしい。そんな子供に先生は助け舟を出す。
「つまり、子供は親に似るだけでなく、その親に似てる人物にも似るのではないか、ということかな?」
こくりとあどけなく少年は首を振る。
「神宮寺さんと父は共通点が多いから、似たような思考になって、それが雰囲気になったのかもしれないって考えると、結構、しっくりきたと言いますか……」
「共通点?」
「はい」