《Happybirthday for Kou》From Yuya ぼくは柄にもなくそわそわしていた。こんなに落ち着かないのは久しぶりで、何度も何度も時計を見る。日付が変わるまであと二十分ほどだろうか。
「うぅ、不安……これでゴミみたいなのが出たら申し訳ないよう……」
ゲームを起動し、タスクウィンドウとメッセージタブを開いたはいいものの、それっきり操作はしていない。ぼく一人の世界で穏やかな曲が流れ、画面の中ではキャラクターが退屈そうにあくびをしていた。
──ポン♪
[ハシビロ さんがログインしました]
トーンの高い通知音と共に、ウインドウの左上に表示された。
「ひぎゃ!」
まさに、今そわそわしていた原因の彼がログイン通知に現れただけでこのザマだ。椅子から転げ落ちそうになる体を必死に支える。やっぱり肘置き付けておけばよかったな……なんて、思考は完全に明後日の方へ向く。いやいや、ぼくが見ないといけないのは明日なんだよ、と、タスクバーのカレンダーを再度確認する。
──ポン♪
[ハシビロ さんからメッセージが届いています]
「ひぃ!」
もう説明するまでもない、ぼくは今、椅子から落ちた。なんで彼からメッセージが来るんだ。いや、違う。ぼくがイベントのクエストを一緒にやろうって持ちかけたんだ。知らなかったとはいえ、こんなことなら今日に指定しなければよかった。
深く呼吸をし、ぼくは椅子に座り直す。何度も繰り返した、メッセージタブで通知バッジが付いた[ハシビロさん]とのトークルームを開くようマウスを動かす。
『アウルさん、こんばんは。準備が出来たのでいつでも大丈夫です。合流しようと思ったのですが、出来ないマップにいらっしゃるようなので、メッセージだけ、送っておきますね。』
とりあえずぼくは、キーボードを叩いた。
『こんばんは!すみません、ちょっとマイルームに籠ってました!すぐにワールドに戻ります!イベントクエストの村に飛ぶので、そこで待っていてもらえますか!』
『了解』
ワールドマップから先程指定した村を選ぶ。僅かなロードのあと、オブジェクトや同じサーバーでログインしている他のユーザーが表示された。
ぼくは村の中を走り回り、プレイヤーの名前を確認していく。
その中で、飛び跳ねて手を振るアクションをするキャラクターが一人。落ち着いているけれど、機能はSランクの装備。ハシビロさんだ。
『アウル:こんばんは!』
『アウル:お待たせしました!』
トークルームからオープンチャットに切り替える。
『ハシビロ:大丈夫です。行きますか?』
チラッと時計を見ると、日付が変わるまではあと五分くらいだ。どうせなら日付が変わると同時に、と何とも女々しい事を考えている自分がいる。友達なんだからもっと気楽にしてもいいのか……と、思うが、彼は初めてここまで一緒に遊んだ人間なのだ。少しくらい、張り切りたい気持ちも捨てられなかった。
『アウル:あ、ちょっと装備整えます!』
『ハシビロ:了解です』
『アウル:すぐもどります!』
とりあえずクエストを確認し、見合った装備に整える。スキルも、カスタマイズして……いつでも出発できる。
そうこうしていると、日付が変わる一分前だった。ぼくはあわててトークルームを開き、キーボードを叩く。
『ハシビロさん!クエスト前に!突然ですが、お誕生日おめでとうございます!ささやかながら、ガチャのチケットと、装備が出来たのでお祝いに送ります……が、装備はお持ちでしたら、換金なり分解なりお好きにしてください!』
最後のエンターキーを勢い余って二回叩いてしまった。読み直す暇もなく、メッセージはそのまま送信される。呆然と画面を眺めるも、メッセージはすでに送信されている。あぁもう、あとはなるようにしかならない。しばらくの沈黙のあと、トークルームの通知バッジが点灯する。
彼はきっと、丁寧にお礼を言ってくれるだろう。けど──。
うん、この後のクエストをぼくはミスせずにクリア出来る気がしないや。