無題頬の産毛だけに触れるようなまどろっこしい触れ方、臆病さともとれるその指先、一体何が怖いのだと聞けば良かったのかもしれない。
午後五時の、中途半端な時間が嫌いだ。
何かを始めるには少し遅く、夜を意識するにはまだ早い。貴方に言えば「随分と贅沢な話だ」と言われそうだなとありもしないことを思った。
この時間にそんなことを思うなんて、今夜はきっと眠れなくなるなと、前にいつ替えたかさえ覚えていないシーツにため息が落ちた。
シャアの行方が分からなくなってから随分と経った。でもわかる、生きている。
エレカを走らせて、港へときた。
宇宙へ出たいと思ったからだ。
許可証を通し、いつもの流れで艦へ赴きパイロットスーツを着た。
非番なのに、どうかしましたか。と聞かれたので「気になることがあって」と適当に返事をしておいた。
気になることか、と誰にも聞こえない独り言が無機質な部屋の床に落ちた。
あの時に、怖かった宇宙が、今はこんなにも心地よい。
ここにずっといたいとすら思う。
あなたがこの広い宇宙の何処かにいると感じるからだろうか。
ありもしない風が吹いて髪が揺れた。
シャアの匂いがした気がして、ウトウトしていた意識が一気に覚醒した。自動運転を切り、周りを見回したがもう気配はなかった。