8/31新刊のサンプルの先出し(オクバデ) 行ったこともない場所に、見たこともない景色に、「まえにきたときはどうだった」と話す息子を、両親はよく気味悪がらなかったものだ。いや、気味悪くは思っていただろうが、それを息子の前で見せずに、「前に行った別の公園と勘違いしている」「テレビや絵本や夢で見たのだろう」というスタンスで受け止めて話してくれたことは、とても有難いことだと思う。
昔から、知らないことを知っている子供だった。
昨日の夕食を覚えているように、どこかの野原で石に腰掛けながら食べたパンを覚えている。
テレビで語られた話に、大昔それを話して聞かせてくれた人のことを覚えている。
そんな、生きてきたよりずっと多くのことをなんとなしに抱きしめて生きている子供が、自分だった。
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