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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▷バトルシーン書きたくなったので書きました

    ##夏の話
    ##5001-9999文字

    鯖キャン▽鯖キャン終わったあとのダラダラした話
    ▽ぐだキャスギル





    「――見た目通りのみすぼらしい小屋かと思えば、貴様にしては悪くない部屋ではないか」
    「褒めてるのか貶してるのかはっきりしてください」
    「褒めているのだぞ?」
     第一声からダメ出しのようなことを言われ、ややしかめ面で隣を見上げれば、にやり、と愉しげな笑みを向けられる。これは、からかわれているのだろうか。からかわれているにしろ、そう言うのであればそう思っておこう、と前向きに捉えておいて、立香は室内を見渡す。確かにカルデアのあの改装部屋よりは手狭な気がするが、立香にはあまり気にならなかった程度の差である。
    「どうしても広い部屋がいいなら、ホテルとか……ありましたけど」
     言いながら、しかしあのホテルは安心して泊まれるのか、という疑問が浮かび歯切れが悪くなる。どうしても、と言うのであれば不安は残るがあちらでもいいだろう。目的は、彼と共に夏の余韻を味わうことなのだから、寝る場所はどこでもいい。
    「……いや、よい。貴様はここを拠点にしていたのだろう?」
    「ええ、まあ」
    「であれば、ここでよい」
     すたすたと長い脚で部屋の中心へ向かい、腕を組んで室内をぐるりと見渡す。検分、品定め、そんな言葉がしっくりくるような目線で見、ふ、と微笑う。その笑みの意味は立香には解らなかったが、何か納得したような満足したような雰囲気でもあるのでここでいいのだろう。暗い青色のシャツに白いパンツ姿の彼――ギルガメッシュは、立香から見れば部屋の中にいてもそう違和感はない。ぼすんとベッドへ腰かけて長い脚を組む姿はどこかのセレブのようである。王だからセレブの中のセレブなのだろうが。
    「少し休んだら散歩します? 泳ぎます?」
     立香はギルガメッシュの隣へ腰を下ろし、距離の近くなった顔を覗き込むようにしながら問う。立香に問いかけられたギルガメッシュの深い赤色が立香を見た。
    「貴様の好きなようにせよ。誘ったのはそちらなのだからな」
     にやり、とまたあの笑顔で笑うギルガメッシュの目は、嘲りよりも期待に染められている――ような気がした。立香の希望かもしれないが。
    「じゃあ、暗くなる前に森でも歩きましょうか。ドラゴン……はもういないか。ワンチャンワイバーンがいますが」
    「クラスは」
    「大丈夫です、バーサーカーなので」
     に、と立香も真似をして唇の端を吊り上げてみる。ギルガメッシュには鼻で笑われたが、その顔はやはり愉しげだった。
     
      ✞✞✞
     
     ――というのが、(恐らく)数時間前。あの時の自分を殴ってでも止めたい。いや、ここはその勘の良さに拍手を送るべきかもしれない。結果次第でどちらか決めよう。
    「通信は」
    「さっきからやってるんですけどダメです。応答なし」
    「チッ……援軍は望めぬか」
     声を抑えた、囁くような会話。通信機を見る立香が応えると、視線は遠くを見たままのギルガメッシュが忌々しげに吐き捨てた。
    「いけます?」
    「誰に訊いている? と言いたいところだが数が多い。あちらが比較的手薄だ。突破するぞ」
    「はい」
     会話は終わり。目をあわせて頷きあうと、ギルガメッシュがゆっくり前傾姿勢で立ち上がるのと同時、立香も立ち上がり、そのまま駈け出した。
    「接敵まで五秒! 四、三……立香、右へ飛べ!」
     頭が何かを考えるより早く、ギルガメッシュの指示通り立香は右方向へ飛ぶ。瞬間、今の今まで立香が通っていた枯れ葉に覆われた地面にざくりと深々淀んだ色の腕が突き刺さった。獲物を捕らえられなかった動く屍が恨めしげに立香を見上げたと思えば、その大きな体躯を光が貫いた。
    「走れ!」
     返事はしない。ただ全速力で駆けるのみ。突き出した枝が腕や頬を引っ掻いていくが、そんなことに構っている場合ではない。立香の前に現れる屍は、背後から飛んでくる光に撃ち抜かれ、どさりどさりと地面に倒れ伏す。それを跨いで通り過ぎ様見下ろすと、指や身体はビクビク蠢いていた。
    「立香!」
     ゾンビに気を取られた一瞬、ギルガメッシュの鋭い叫び声と共に後ろへ強く引かれた。驚きの声も上げる間がないまま、放り投げられるように地面へ落下した立香は、衝撃で呻く。が、すぐに持ち直し身体を起こす。
    「王様!」
     立香の前へ立ち、庇うように片手を伸ばしたギルガメッシュの後ろ姿を見ながら、立香は立ち上がる。急いでギルガメッシュの背後へ背中あわせに立てば、二人を囲むようにゾンビ達が暗闇から姿を現した。すぐに襲ってこないのは、ここまでの戦闘を見ていたからだろうか。二人の様子を窺うようにじりじりと距離を詰めてくる。
    「王様、」
    「皆まで言うな。――絶対に離れるなよ、立香」
     はい、と立香が返事をするより早く、二人の周囲に黄金色の光で書かれた文字が浮かび上がり、回転し始める。
    「我が声を聞け。全砲門、解錠!」
     ざあっと木々が揺れる音がしたかと思うと、足元から広がるように空間が切り替わる。木々の覆い茂った森ではなく、砂煙の捲き上がる大地に。そして、
    「矢を構えよ、我が許す!」
     遠くに見える堅牢な城壁から、光の矢が一斉に発射される。撃ち出された矢は雨のように降り注ぎ、立香達の周囲に着弾した。
    「――――」
     響き渡る轟音は声をかき消し、光弾は目を焼くのではないかと思う程に眩しく、立香は咄嗟に両目を閉じる。地を揺らすような一斉掃射はやまないように思われた。が、それでも終わりはくる。
    「――生きているか、立香」
     宝具の展開を終了させたギルガメッシュが、背後の立香へ問いかける。強く目を瞑ったままだった立香は恐る恐る目を開け、周囲を見渡す。
    「……」
     周囲には何もいない。ざわざわと風に揺られた木々が葉擦れの音を立てている。あれだけいたゾンビ達は一掃され、肉片すら残っていなかった。
    「終わり……ました?」
    「ああ。だが安心するのはまだ早い」
     行くぞ、と促され、立香は青い背中を追いかける。その足音を聞いたギルガメッシュは僅かに振り向いて立香の様子を確認し、周囲を警戒しながら先立って斜面を降りていく。夜はまだ長く、夜明けは遠い。
     
       ✞✞✞
     
    「――っあーーー!! 疲れた!!」
     柔らかなベッドが、どさりと倒れ込む立香の身体を優しく受け止める。清潔な布地の感触がたまらず、立香は顔をうずめてぐりぐりと左右に動かす。その足元から溜息が聞こえ、頭を持ち上げれば隣のベッドへ腰かけるギルガメッシュの姿を捉えた。普段ならここで二言三言立香の行動を咎める言葉を投げかけられるはずだが、ギルガメッシュは無言で座っただけだった。ほう、と息を吐く姿にはどことなく疲労の影が見える。あの連戦では無理もない。
    「王様」
     立香はベッドに伏せたまま、隣をぼすぼすと叩いてギルガメッシュを呼ぶ。俯きかけていたギルガメッシュの紅い瞳がふたつ立香を見、瞬く。
    「ほら、早く」
     布を叩いた手を差し伸べると、ギルガメッシュはのろのろと腕を持ち上げ立香の手を取る。やはり疲れているのだろう、抵抗も何もない。素直でいてくれるのは大変喜ばしいのだが、疲れた顔をしていてほしいとは思えない。
    「よいしょ、っと」
    「――――!」
     繋いだ手を引き寄せると、僅かに目を瞠ったギルガメッシュがぐらりと身体を傾がせて立香の方へ倒れ込んでくる。多少のダメージを覚悟して引き寄せたのだが、あわや衝突というところでギルガメッシュがベッドへ手をついたため衝突からは逃れられた。ちり、と耳飾りが小さな金属音を立てる。
     見下ろす紅。見上げる蒼。二色の視線が絡む。そのまま見つめあって何秒か、何分か、そう永い時間ではないはずだが、いつまで見ていても飽きのこない美しさなのでどのくらい眺めていたかは解らない。
    「…………いい加減喋ってくださいよ、笑ったことなら謝ったじゃないですか」
    「…………」
     む、と唇を一文字に結んだギルガメッシュは、立香の言葉にも口を開かない。
     ――ゾンビ溢れる山林から、命からがら麓へ辿り着いた頃にはもう陽が昇ろうとしていた。結局、一晩どころか昼過ぎから翌朝まで彷徨い続けたことになる。山を出てすぐに通信は復活、カルデアからの援護で何とか無事に生還することができた。ゾンビの大量発生の原因はまだ究明中だが、いつものゆらぎだの余韻だのなんだのだろう。その辺の解析はカルデアスタッフ達が今も懸命に行っているはずだ、と思えばコテージでゆったりしているのも気が引けるがそれはそれ。限界ギリギリまで魔力を供給し続けた立香は、本人が思う以上にダメージを負っている。回復もまたマスターの務めだ。
     さて、無事に帰還してあとはゆっくりバカンス、というところまできてなぜギルガメッシュが頑なに口を閉ざしているかというと。
    『――よかったぁ……なんとか帰れましたね、王様』
    『ふん、この程度の相手、三万持ってきたところで我には敵わぬわ』
    『うわ王様声ヤッバ』
    『は?』
     今にして思えば、疲れて口が緩くなっていたのだろうと思うのだけれど立香は地雷を踏んでしまった。一晩中、いや半日、宝具の詠唱や立香への指示などで叫び続けたギルガメッシュの喉はこちらも限界を迎えていて、普段の甘くしっとりとした低音は見る影もなく掠れていた。仕方がない、仕方がないことなのだ。が、立香は言ってしまった。そのあと、コテージに戻るまでギルガメッシュが口を開くことはなかった。
     ――そして今に至る。
    「謝りますから、ね? オレが悪かったです。無神経でした」
    「…………」
     見下ろしてくるギルガメッシュの頬に手のひらでぺたりと触れてみる。触ることを許してくれているのでそこまで怒ってはいないと思うのだが。もう一押しか。
    「ほんとにごめんなさい……もう笑いませんから……」
     何を言えば許されるのか、アレコレ考えつつ慎重に言葉を選ぶ。
    「せっかく二人きりになれたんですから、なにか言ってくださいよぉ……」
     眉尻を下げた顔で言い募る。立香の顔をじっと見つめているギルガメッシュの冷ややかな目が、す、と細められ、これはお説教タイムか!?と心の中で身構えたところで頬に触れる手を掴まれた。
    「王様?」
     手首を掴んだその手に、立香の手は頰から剥がされ、ぺいっと放られてベッドに落下する。もしかしてこちらの想定以上に怒っている!?やっぱりお説教タイム!?などと内心で焦る立香の前で、ギルガメッシュは立香を見つめていた目を伏せ、はあと溜息をついた。
    「…………貴様の言葉、信じるに値するか?」
    「! も、もちろん!」 
     普通に発声すれば掠れることを気にしたのだろう声は囁くようではあるものの、ようやく口を開いたことで立香の気は逸り食い気味に返す。
    「…………ふ。ならばよい」
     伏せられていた目がまた立香を見、笑みの形に細められるのを見たと同時、するりと音もなく降りてきたギルガメッシュの顔に、「近い」と立香が気づくより早く額に柔らかい何かが触れた。何か、ではなく間違いなく唇だろう。すぐに離れたギルガメッシュは今し方の笑顔のままで、幻か?と少し思って、そんなわけあるかと自分に言い返す。
    「王様、」
    「なに、まだ褒美をくれてやっていないと思ってな」
     ついと視線を逸らしたギルガメッシュは、立香の上から退いて隣へ寝そべる。立香がなにか言うより早く立香の方へ身体の正面を向けたのはさすがである。そのおかげで、ほんの少し朱の差した耳に気づけたのだけど。
    「王様⌇⌇⌇!」
     怒らせてしまったにも関わらず、なんとも可愛らしい〝褒美〟をくれた恋人にいても立ってもいられず立香はがばっと抱きつく。口が滑ったことをもう一度謝れば「もうよい」と掠れた声が返ってきた。
    「……貴様の魔力が戻ればそのうち治るだろうよ。少し休め」
    「はい、実はもう目がショボショボで……」
     瞬きして見せればギルガメッシュがくくと笑った。先程までとは逆で、今は立香が見下ろしている。見上げるふたつの真紅はどこまでも澄んでいる。その目が閉じられたのを合図にするように、立香は顔を伏せてギルガメッシュの唇へ唇で触れる。閉じた唇の境に舌を押し当てると、口が開いてぬるりと肉厚な舌が立香の舌を迎えた。舌をすりあわせたまま、立香はギルガメッシュの身体を向うへ押して仰向けに寝かせる。そうしてから一度舌を抜き、見上げる目と目をあわせながらまた唇へ戻った。舌同士を擦りあい、歯の裏側や上顎を舐める。くすぐったいのだろうか、立香の舌が口内で何かに触れるたびピクッピクッと反応する。
    「ん、んん……」
    「おうさま……」
     鼻にかかったような声は掠れていても甘い。これはいける流れではなかろうか。もう一度「王様」と呼びかけながら、青いシャツの裾から中へ手を這わせ――
    「立香」
     割に強い声で名前を呼ばれて、立香は少しだけビクッとしてギルガメッシュを見た。
    「時と場合を考えよ。万全でない貴様でなんとする」
    「え」
     シャツの裾へ這わせていた手を持ち上げられ、指を絡める。こうすれば立香が振り解いたりしないことをギルガメッシュは知っている。
    「続きならば休んだあとでもよかろう? 我は逃げぬぞ」
    「あ、あー……あう、はい、ソウデスネ……」
     スイッチ入りかけだった立香は熱を持て余して項垂れる。今のはいけそうな流れだったのに。
    「いけると思ったのに……」
    「たわけ。そうやすやすと流される我ではないぞ」
    「ホントですかぁ?」
    「当然であろう?」
     ふふん、と勝ち誇ったような顔をしているギルガメッシュは大層可愛いのだが、可愛いという言葉は飲み込んでおく。
    「じゃあ……続きは昼寝のあとで」
    「我の気分次第だがな」
    「そこはオレが頑張りますから」
     もう一度、かぶさるようにギルガメッシュをぎゅうと抱き締めて、立香は元いた位置へ戻る。向かいあわせに寝転がると、こちらを見つめる飴玉みたいに溶け出しそうな真赤。見つめ返せば吸い込まれてしまいそうだ。
    「ならば疾く回復に努めるが良い。
     バカンスは始まったばかりなのだからな」
    「……! はい!」
     笑っているギルガメッシュに笑い返し、立香はまだ見ていたい気持ちをこらえて目を瞑る。もう何も見えないが、体温が近くにあるのは解る。愛しい体温。手探りでそれを求めたら、こっちだと言わんばかりに手を掬い上げられ、指と指の隙間に細い何かを滑り込ませてきた。細くすらりと長いこの感触はギルガメッシュの指だろう。軽く握ると、握り返される。
     疲労感と多幸感で、立香の意識はゆっくりと落ちていく。
    「…………おやすみ、立香」
     掠れた低音が、囁くように言った言葉は立香に届いているのだろうか。届かなくても別に構いはしないのだが。繋がった手はあたたかい。
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