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    周囲から怪しい関係だと疑われるカブミス

    欲の証明付き合い始めてから想い人の態度が変わることなんてざらにあることだとは思う。これまでとは異なる関係性を歩み始めるのだから、多かれ少なかれの変化はあるだろう。それが一層恋を燃え立てさせるのか、はたまた冷や水をかけるのかは置いといて。けれどもこの方向性は予想していなかったなと、差し出された手を見ながらぼんやりと考えた。

    「どうした」

     どうしたもこうしたもあるものか。カブルーは健康なトールマンの青年だし、ほんの一階分の店の階段を下りるのに手を貸してもらう必要はない。そう言ってこの手を跳ねのけるのは簡単だが、恋人が見せた善意の甘さに免じてカブルーは差し出された手を取った。

     付き合い始めてからミスルンの様子がおかしい。
     まず、何をするにしてもカブルーをエスコートしようとしてくる。抱えていた荷物をカブルーの手から奪い去ってしまうし、店の扉は先に開いて待ってくれる。道を歩くときは気が付くとカブルーは建物側を歩かされている。ふとした瞬間に、彼に甲斐甲斐しく気を遣われていると察してしまうのだ。もちろん彼は今も人並みの欲求がない。自分自身のことに関しては相変わらず無頓着なままだ。それなのにこの気遣いの上手さはどういうことなのだ、と問い詰めようかと思ったが、結局行動に移せないままだった。だって、昔の恋人の影響だ、とか言われたら嫌じゃないか。
     というわけで、今日もカブルーは優雅な仕草のミスルンの手を微妙な表情のまま取るのだった。

    「これをやる」

     食事を終え、そろそろ解散しようかとなったデートの終わり、手のひらの上にぽんと小さな包みが置かれた。普段なら贈り物を本人の前で開けるような無作法はしないが、彼が相手では話は別だ。何せ彼が毎度デートの終わりに寄越してくるのは高そうな装飾品ばかりなので。慎重にその包みを開くと青い宝石が嵌まったイヤリングが台に鎮座していた。ここらでは買えない西方由来であろう高級品であることが見て取れた。

    「こんな高そうなもの受け取れませんよ」
    「お前が受け取らないのなら捨てる」

     付き合い始めてからの彼のもう一つの変化がこれだ。やたらと贈り物をしてこようとしてくる。恋人の贈り物が嬉しくないとは言わないが、今のカブルーでは到底買えなさそうな高級品ばかりなのだから気後れしてしまう。毎度次は持ってこなくてもいいと言っているのだが、知らんぷりして次も持ってくるのだ。城のパーティなどで使ったりするし、有難いといえば有難いのだが。
     そんなこんなで今回も諦めて大人しく贈り物をそっと懐にしまったのだが、その瞬間少し先から冷たい視線を感じた。視線の方向を見るとエルフの一団がこちらを見つめていた。その中には先日南中央大陸からやってきたと城に挨拶へきたエルフもいる。彼らはこちらを見てはひそひそと小声で何やら話していた。その目は若干の嫌悪と侮蔑の色が乗せられている。そして、その視線はカブルーではなくミスルンへと向けられていた。

    「これ、傍から見たら怪しい関係に見えるのでは……?」

     と、やっと気が付いた。
     
     やたらと長命種にエスコートされた挙句、最後には高級品を贈られる短命種という絵面はあまりよろしくない。恋人同士であるのだから他人にどうこう言われる謂れはないが、近ごろメリニで短命種が長命種の庇護欲を煽り、高級品を貢がせようとした事件もあったのだ。資金援助目的の如何わしい関係だと思われたら困る。

    「という訳で、もしあの人が贈り物を買おうとしていたら止めてもらえませんか」

     そう頼み込んだ相手は、如何にも嫌な話を聞いたとでもいうように顔を顰めた。

    「そんなこと私に頼むなよ」
    「今はあの人の従者紛いのことしているんでしょう。ちゃんとあの人の無駄遣いを止めてください」
    「ゲー、やだね。今の隊長に口出しなんて出来ねえよ」

     それにそもそも無駄遣いなんかじゃねえだろ、とゲンナリした口調で返された。

    「西方エルフのお貴族様には恋人は丁寧にエスコートして当たり前、贈り物を贈るのは愛の証、って面倒な文化があんだよ。だから、隊長はその文化に沿って行動してんだろ。有難く受け取っといて要らなきゃ売っぱらえばいいじゃんか」
    「そんなことしませんよ!」

     恋人から贈られるものを断るのも申し訳ない。彼なりの愛の証だという今まで貰った贈り物も大切に保管している。でも、会うたびに高級品を貢がれるのは流石に困る。西方では一際有名な名家出身である彼ならそりゃ有り余るほどの金はあるのだろうが、ごく普通のトールマンのカブルーからしたら山ほどの高級品を贈られても手に余ってしまう。

    「どんな贈り物を渡されてんだよ」
    「この間はイヤリングが贈られましたけど」

     簡単な特徴を説明すると、フレキは如何にもドン引きです、という表情をした。座っていた椅子を後ろに引きカブルーから数歩分の距離を取る。そして怯えたように自身の肩を抱いた。

    「こえ~……。そりゃ他のエルフもドン引きするわ」
    「何ですか!?」

     ごほんと咳をしてフレキは人差し指をぴんと立てた。そしてその指で自身の耳を摘まみ、見せびらかすように引っ張った。

    「エルフにとっちゃ耳は大事な器官だ。そりゃ理解してんな?」
    「ええ、もちろん」
    「そんでそんな大切な耳を飾るんだから耳の装飾品は特に重要な意味を持つ。私らみたいな人間は気にせず安物でも着けるけど、女王や貴族となっちゃ身分や財力を示すための一級品を選ぶ。だから、貴族たちがイヤリングやピアスを誰かに贈る場合は婚姻や婚約の証としてだったりするんだよ」

     多分そのイヤリング、目が飛び出るほど高いやつだぞ、と言葉が付け足される。

    「付き合い始めたばかりの恋人に贈るものじゃ断じてないね。隊長の独占欲怖すぎ」
    「……どうにか止められませんかね。このままだと俺の部屋が宝物庫みたいになるんですが」
    「無理無理。馬に蹴られて死にたくねえから私はパス。お前が隊長に直接言ってくれ」

     あっさりと突き放され途方に暮れる。直接言っても貢いでくるから相談したのだが。

    「あ~、もう面倒くさいな!」

     唐突に叫んだフレキが傍で休んでいた妖精を引っ掴んで叩き起こした。そして妖精を口元へと寄せ、大声で叫ぶ。

    「隊長、あんたの彼氏が話があるってよ!ちゃんと二人で話してくれよ!」

     そう言って妖精をカブルーの手元へと投げると、フレキは手のひらをひらひらとさせて部屋から出て行ってしまった。その背中からはもうこれ以上話に巻き込むなという意思をひしひしと感じた。今度何かお礼をしようと思いつつ、咳払いをして妖精で繋がったであろうミスルンへと話しかけた。
     
    「唐突にすいません。ちょっとフレキさんに貴方のことを相談してたんですけど、直接話し合えと言われてしまって」
    『何だ』
    「ええっと、もう何度か言ってますけど、俺にデートのたびに贈り物をする必要はないです。あとお嬢さんじゃないんですからエスコートも別にしなくていいんですよ」
    『嫌だったか?』

     その声色が少々沈んでいたせいで、カブルーは耳の下がった彼の姿を幻視した。罪悪感で心が痛む。

    「嫌ではないですけど、頻度が度を越しているというか……。対等な関係ではなさそうじゃないですか。俺は貴方に大したことはできませんし」
    『……お前は誰にでもすぐに愛嬌を振りまく』
    「はい?」

     唐突な話題の転換に思わず聞き返すと、彼はいつもより少し感情の乗った声で続きを述べた。

    『だから、お前が私の恋人だと示すために贈り物を渡し、エスコートしていた』

     そう言って彼は沈黙した。その沈黙の間にカブルーはミスルンに言われたことを反芻する。じわじわと喜びが胸を満たすと同時に、この件の簡単な解決策が思いついた。彼の不安を解消するためには大量の高級品なんかよりも分かりやすい目印がある。

     数日後。お礼がしたいからと食事に誘われたフレキは席に着いていたカブルーとミスルンの姿を見て、呆れたように肩を竦めた。

    「独占欲が強いのはお互い様かよ」

     カブルーとミスルンの耳元と薬指には、お揃いの輝きを放つ装飾品で飾られていた。耳元は西方由来であろう小ぶりな宝石のついたイヤリング、そして薬指には銀のシンプルな指輪。二人の関係性を分かりやすいほどに示したそれらを見て、食事前だというのにフレキは胸やけしたように大きく息を吐いた。
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    Dk6G6

    DOODLEカブルーがミスルンにマッサージするだけの話
    未来永劫、貴方だけ目と目が合った瞬間、カブルーは自分が幻覚を見ているのではないかと真っ先に思った。だから瞬きを何度かしてみたけれども視界の景色は全く変わらない。一度視線を逸らし、もう一度焦点を合わせてから見ても無駄だった。数メートル先ではいつも通り泰然とした様子のミスルンが立っている。これが城や街中ならカブルーはいつも通りにこやかに声をかけただろう。
     しかし、今の彼の立っている場所が場所だ。視界を少し上に向けると、彼が出てきた店の看板が堂々と掲げられている。マッサージ屋と謳われているそこは、いわゆる夜のお店だった。歓楽街の中心地に健全なマッサージ屋などそうあるものではない。それにマッサージ屋とは書かれていても、その店の外観に張られているポスターや雰囲気を見れば、通常のそれでないことは一目瞭然だろう。そんな店からミスルンが出てきた。幻覚を疑ってもしょうがない。だって、彼に性欲などないはずだ。通常の男の知り合いがこんな店から出てきたのならカブルーは相手の性格によって軽く揶揄ったり、逆に見なかったふりをする。知り合いに性を発散しているところを見られたら、誰であれ多少気まずさは生じるだろう。でも相手はミスルンだ。羞恥心もないし、性欲もない。
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