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    みこう

    @mikou0213
    主に作業の進捗を投げる用。たまに落書きとか

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    みこう

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    ##凪茨小話

    蛇の目がお迎え ぽつ、ぽつ、と冷たい水滴が頬に当たって、凪砂は地面を一心不乱に見つめていた顔を空に向ける。先ほどまで薄曇りだった空にはさらに厚い雲がかかり、もうじき土砂降りになるだろうなということが簡単に想像できた。
     しかし、そう理解しながらも凪砂にはそこを動けない理由があった。動こうと思えば動けるのだが、ちょうど足元では先ほどまで掘り返していた石の塊がようやくその頭を覗かせたところなのだ。形も名前もわからない物だったが、途中で手を止めてしまうのも据わりが悪い。雨の影響で土が柔らかいうちにある程度まで掘り起こしておきたいと思いスコップを再び地面に突き立てていると、ふと己に当たる水滴が急に遮られた。
    「濡れますよ」
    「……茨」
     凪砂の後ろから傘をさしているのは、己を閣下と呼び慕う茨だった。制服のまま、おまけにズボンの裾に泥が跳ねているのを見ると、雨に気付いて慌てて出てきたことが窺い知れる。普段は丁寧に整えられた髪が一房、眼鏡のレンズにかかってしまっていた。
    「お風邪を召されては大変ですので、寮に戻りませんか」
    「……もう少し」
     彼は呆れと義務の滲んだ声で、凪砂の体を気遣う言葉をかける。日和だったら「体が冷えちゃったら大変だから」と雨が止んでからまた来ようと提案するところを、彼は軽く諌める程度で止めるのが常だった。以前な大仰に嘆いて見せていただろうが、関わりを深めた今ではもうそのような姿は見られない。よく言えば遠慮が無くなったのだろうが、悪く言えば扱いが雑になったということなので、そういった変化が喜ばしいと同時に少しばかり寂しくも感じる。それが贅沢な悩みだと理解しているのは、たとえ扱いが雑になっても茨にとっての一番が自分なのは変わらないことを知っているからだ。スコップを放り出して振り向けば、そこには想像通り普段よりも不機嫌そうに眉を顰めた茨が立っている。
     怒らせちゃったかなと内心で呟き、傘をこちらに向けて傾ける茨の手を取って口付けた。不意打ちに驚いて見開かれた目の中には、快晴が広がっている。
    「……そういうことは土埃を落としてからにしてください」
    「うん、お迎えありがとう」
     どうやら不機嫌の原因は放っておかれたからではなかったようだ。凪砂の手をしっかり握り直しているにも関わらず小言を零すような素直ではない男に手を引かれ、迎えの車に足を向けた。
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