近ごろ、凪砂からくっついてくる頻度が減ったように思う。以前までは特に用も無くくっついてきたものだが、最近は近くで何かしていることはあっても、『くっついてくる』と表現するほどではない。
フラリと現れて、少し迷うそぶりを見せてから近くのソファに腰を下ろすのが続いていた。
(──まさか飽きられた? あるいはマンネリというやつか)
ロールスクリーン越しでもジリジリと焼くような日差しを受けながら、茨は頭を抱える。凪砂とは恋仲にあるため飽きられているかは気にかかるが、そもそもの問題として茨は彼の下僕なのだ。主人の様子がおかしいのであれば、その問題を把握して排除する必要がある。
(しかしここ数日で特筆すべき事項は無かったはず……いや、そういった変化のなさがマンネリを招くと聞いたことが──)
一人で頭を悩ませていても解決策は出るはずもなく、言ってしまえばこれは由々しき事態だ。凪砂は気まぐれな部分も強く、よく突拍子もないことをするが、基本的にメンタルは安定している。その凪砂の様子が変わるとなれば──
「……あ、茨。お疲れ様」
「閣下!」
室内に一人だと思い込んでいた茨の耳に人の声が入ってくて、慌てて顔を上げる。そこには仕事に行っていたはずの凪砂が立っており、気がつかないうちに夕方まで考え込んでしまっていたことを悟る。
デスクの上に散乱している書類を慌てて片付けていると、きょろきょろと室内を見回した凪砂がこちらに歩み寄ってきた。
「……お仕事はまだ終わらないの?」
肩手を添えて身を寄せるように手元を覗き込んできた凪砂の行動に、らしくも無く茨の心臓が動揺を見せる。耳元で不満そうに囁かれて、茨は思わず振り返っていた。
「……どうしたの?」
「いえ、こういった距離感が久しぶりでしたので、驚いてしまいまして」
「……ああ」
凪砂は目を丸くして茨の行動を見ていたが、すぐに合点がいったとばかりに頷いた。
「ごめんね、暑かったから」
「……は?」
凪砂が視線を外したので、茨もつられてそちらを見る。彼の視線の先では、部品が欠品しているといって予定より大幅に遅れて修理から戻ってきたエアコンが冷風を吐き出している。
「……直ったんだね、よかった」
茨を抱え込んだ凪砂が満足そうにこぼした言葉に、茨は自分がとんでもなく恥ずかしいことを考えていたことに気付いて頭を抱えた。
「閣下と密着するためにエアコンをつけているわけではありませんが!」