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    みこう

    @mikou0213
    主に作業の進捗を投げる用。たまに落書きとか

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    みこう

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    ##凪茨小話

    仕上げは愛情が大さじ1 誰かと一緒に食べる食事の美味しさというものを、凪砂は日和から教わった。それまでの食事に対する印象は、決まった時間に差し出されるそれを口に入れるだけの行為であった。
     巴の家に預けられ日和から手取り足取り教わってようやく、凪砂は食事という行為の意味が生命維持だけではないと知ったのだ。

     そして今、凪砂の食生活は茨によって管理されている。栄養バランスや食事量を考慮した朝昼晩の食事のみならず、間食から夜食まで、基本的には凪砂が希望すれば最適のものが提供される。たまにカロリーオーバーだと苦言を呈されるものの、そもそも茨は多少のカロリーオーバーにも対応できるよう理想よりやや下のカロリーを設定している事を知っているので、その小言を聞いたことはあまりない。カロリーに余裕がある時は就寝前に二人でココアを飲む時間を設けてもらえたりするので、言う通りにするのもそれはそれで魅力的ではあるのだが。
    「閣下、そろそろ夕食ですよ」
     キッチンの方から茨の声が響く。以前は小走りに目の前までやってきて伝えたような事も、今では対面キッチンの向こう側から伝えられるようになった。目線はまな板か、もしくはフライパンに向けられたままな事を少しだけ不満に思うこともあるが、彼が用意しているのは自分の食事だと思えばつれない姿も可愛く見えてくるというもの。
     読んでいた本をキリのいいところでいったん閉じ、机の上に乗せていた本も脇に寄せておく。まだ観察し終えていない細々とした鉱石たちもケースに戻せば、凪砂の仕事は終了である。お茶の一つくらい用意しても良いのだが、彼なりの段取りや動線を邪魔してしまうのも憚られるし、なによりせっせと世話を焼く茨が可愛らしいので、実行に移したことはまだない。
     ソファーに腰掛けたまま待っていると、彼はサラダやスープをテーブルに並べていく。クルトンが多めに乗っているサラダには、凪砂お気に入りのドレッシングが添えられていた。
    「ありがとう、茨」
     凪砂の好みを反映し、しかし飽きのこないようバリエーションも豊富な料理の数々は、業務の合間を縫ってサークルで習ってきたものだ。細かい仕込みを怠らず、むしろ楽しそうに手間暇をかけて策を巡らせるのが好きな茨は、料理のことも存外嫌いではないようだった。
    「油分が多くなっては大変ですので、クルトンはノンフライの物に変えさせていただきました。まあ、ドレッシングもそれに合わせて味を調整してありますので、むしろより洗練されたと言っても過言ではないかと!」
     凪砂には言わないが、得意げに話す茨がわざわざサークルでの講師役である椎名ニキに聞きに行った事を知っている。仮定よりも結果こそが全てであると思っている彼にとっては、そこに発生した労力が結果に見合う物だったか以外は興味が無いようなので、凪砂もそこに言及するような野暮な真似はしない。
    「私のために色々と考えてくれたんだね、ありがとう」
     食事の意味と楽しさを教えてくれたのが日和だとしたら、そこに新たな楽しさを教えてくれたのは茨だろう。自分に為に作られた食事には、例えようもない“愛”が込められている。
     茨が費やした労力と、そこに尽くされた心と、凪砂のためを思って用意された料理に対してお礼を言えば、彼は楽しそうに笑ったのだった。
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