薄めに焼かれたしっとりパンケーキと、ほんのりバターがきいたスクランブルエッグ。その上にカリカリに焼いたベーコンが添えられており、あとは付け合わせのサラダにヨーグルトをかけたフルーツ。たまに出てくるそのメニューは、茨が朝食を作るのが面倒な時に並ぶラインナップだ。
フライパンの中に仕切りが設けられ、卵焼きと一緒に炒め物も作れるという触れ込みのそれを、「秘密兵器を導入しました!」ととても得意げに言っていたのは少し前のこと。
卵焼きを作るスペースで作られたパンケーキは細長く、スクランブルエッグはフライパンに直で割り入れた卵をぐちゃぐちゃに混ぜただけなので白身も目立ち、なんならベーコンは少し焦げついている。カリカリと表現したのはご愛嬌というやつだ。
仕上げにカットフルーツにヨーグルトをかければ、茨なりの手抜き料理が完成する。
「……またジュンのイチゴを勝手に使ったね」
「そんな人聞きの悪い。ジュンと自分は協力関係を築いているので大丈夫ですよ」
イチゴにフォークを刺しながら、イチゴのパックを冷蔵庫にしまっていたジュンのことを思い出す。共有の冷蔵庫に物をしまう時は名前を書くルールだが、茨はジュンの物なら使ってしまうことが多々ある。聞けば、ジュンと茨は後日きちんと買って返すという条件でお互いの物なら好きに使って良いということになっているらしい。
ジュンも、日和の急な要望で料理を作らざるを得なくなった時などに茨の買い置きをたまに使っているそうだ。合意の上なら良いかと思い、イチゴを口に放り込む。
「……茨は食べないの?」
「自分は先に食べましたから」
凪砂が食べているのを後片付けしながら見ていた茨に声をかけるが、にこやかに断られてしまう。残念に思う気持ちもあるが、こればかりは仕方がないのだろう。
彼がこう言う時は十中八九、どうしようもなく失敗した料理を自分で食べて証拠隠滅していることを凪砂は知っている。
「……そう。美味しいから一緒に食べたかったのだけど」
スクランブルエッグではなく目玉焼きにする予定だったのかもしれないし、片手間でサラダを作っているうちに焦がしてしまったのかもしれない。その真偽は不明だが、凪砂の食事が美味しいのは何も変わらないので、やはりかける言葉は「ありがとう」なのだろう。
面倒な時はこれだと堂々と豪語する気安さと、それでも一般的には十分に手をかけた朝食を出す一生懸命さと、不恰好になってしまった料理は隠す見栄っ張りなところと。それらはどれも、凪砂にとっては愛おしく感じるものだ。
「でも砂糖と塩を間違ってたね」
「食べ終わってから言わないでください!!」
少しくらいのミスくらい許せてしまうのだから、だいぶ茨にやられてしまっているのだろう。