主人公の等身大人形を作ってしまったレムの話「……これは、さすがに……」
僕は、目の前に立つ156㎝大の人形を前に頭を抱えていた。あぁ、どうしてこんなことをしてしまったんだろう。
先週、擬知体取扱者の資格取得のために奮闘していたユウさんに、一次試験の合格通知が届いた。喜んだのも束の間、封筒に封入されていた二次試験の案内には「試験会場変更のお知らせ」の文字。擬知体取扱者の試験は一次が筆記、ニ次が実技なのだが、設備の都合もあって二次試験の会場は例年各惑星に二か所前後。しかし、今年は地球会場が大規模な工事中らしく、ユウさんは惑星エクスメテまで出向かなくてはいけなくなった。
移動時間も含めると、約二週間の旅になる。そんなに長い間彼女と離れることなんて想定していなかった僕が当たり前のように同行しようとしたら「お願いだから家に居てね」と諭されてしまい、一週間前から一人留守番中なのだ。とはいえ。
「……これは、ない……」
会えないことが辛すぎて、ユウさんの等身大人形を作ってしまった。
目の前にある夕焼けのようなガラスの瞳が、まるで本物のようで余計虚しさが募る。
自分の感情の重さは自覚していたが、いざ形となって表れてしまうとかなり精神ダメージが大きい。材料を調達してから完成まではほとんど無意識であった。自分の技術力がこんなところに利用される日が来るとは思っていなかった。
「と、とりあえず……クローゼットに……」
こんなものを万が一ユウさんに見られれば、ドン引きされた末に振られたっておかしくない。彼女に嫌われるのは耐えられない。
作業部屋と化していたリビングから、僕の服が収納してあるクローゼットに移動させようと人形の腰に手を伸ばした。
「…………う」
抱える寸前で腕が止まる。人形を作り終わった後、ユウさんの服を勝手に拝借するのは気が引けて自分の服を着せたのだが、背徳感が凄い。
しかも僕はいまから、僕の服を着たユウさんを、抱きしめなくてはいけないのだ。人形だけど。