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    導入。長くなりそうな気配しかない

    #テルセキ
    tersePaper
    #主♂セキ

    時間を大切にするテルセキ(主♂セキ)「おれ、その昔ギンガ団と戦ったことがあって。まあ昔って言っても五年ほど前のことなんですけど」
     焼きたてのイモモチはたいそう熱い。本当は箸で二つに割って、最も熱を持つ中心部を夜風にさらしじゅうぶんに冷ましてからいただくほうが好きだ。でもそんなの時間がもったいねぇし、何よりこいつの前でそんな格好悪いところ見せたくなどないから舌先の火傷などおかまいなしに口の中に放り込む。年上の威厳ってやつだよ。こういうのは常日頃の魅せ方が重要。
    「昔っておまえ、ヒスイに来る前のことは何も覚えてねぇって言ってたじゃねえか」
    「そうだったんですけど、時空の裂け目が閉じてからだんだんと頭の中によくわからない記憶が流れ込んでくることがあって」
     時空の裂け目が閉じたのはもう五年も前の話だ。つまりこいつが俺たちの前に彗星の如く現れたのも五年前。時空が裂け、雷と一緒におかしないでたちの少年が降ってきて、空は混沌に満ち、神様はなんとふたりおられて、なんやかんやでこの世界は救われたあの日のことを、俺はつい先日のように思い出すことができる。それほどまでに衝撃的で、感動的で、懐疑的で、俺の信じる教えをその根本から揺るがすような、そんな出来事だった。混沌と災厄と希望と救いをもたらした少年は、あの日から今日に至るまで村周辺の安全を率先して守るなどして、今もなお細々とこの世界を平和へと導き続けている。
    「じゃあ、元の世界に戻る方法も何かわかったのか?」
    「そこまでは……。流れてくる記憶も断片的だし、なんか自分ごとのように思えなくて、まるで映画を見ているような感覚ですね」
     また知らない単語が出てきた。こいつと話しているとたびたびこうしたことが起こる。眉を顰めていると「あ、すみません、映画っていうのは、なんていうのかな、写真を連続で投影して動いてるように見せるような、あーでもそれだとアニメになっちゃうか」などと言い始めたので、その小さな頭(と言っても、もうずいぶん身長も伸びて背伸びをすれば俺と同じくらいの背になる)に手のひらを乗せた。別にいいよ、説明されたって、同じものを見ることは叶わないんだから。
    「ところでセキさんは何かご用事があってコトブキムラに?」
    「おまえとイモモチを食べに」
    「またまたあ。あなたがそんなことに貴重な時間を使うわけないでしょ」
     本当だよ。本当におまえとイモモチを食べるためだけに遠路はるばるここまで来たんだ。おかげで仕事は山積みさ。集団の長ってのはやることがやたらに多いんだ。早急に事務作業の徹底した効率化が必要だな。そうでなきゃようやくこうやっておまえに会えたってのに、早々に退散しないといけない。
    「え、もう帰るんですか? 本当にイモモチ食べにきただけ? そんなに好きだったんですね……まあそりゃ美味いけど」
     この鈍ちんやろうめ。誰がイモモチを食うためだけにこんなとこまで出向くかってんだ。俺の言葉をよく思い出せ。俺はおまえとイモモチを食べにここに来たんだ。大事なのは前半。おまえと、おまえと食べにきたんだ!
    「あ、そうだ。これあげます」
     村の出口に向かって歩き始めた俺の服を摘んで引き留めたテルの口元にはイモモチのカスがついている。色気もへったくれもねえ。二十歳を迎えた男とは到底思えないほどにガキっぽいし、だけどときどきはっとするような表情をすることもあって、いざという時には頼りになって、この世界を救った英雄で、村のみんなから愛されていて、もちろんポケモンからも、それに、俺にだって。
    「……リーフのいし、のかけら?」
    「拾ったんです。でも野生のポケモンに踏み潰されたのか粉々に砕けてて、売れないかな〜って思っていくらか持って帰ってきたんですけど」
    「売れなかったんだな」
    「売れなかったですね」
     色とりどりの不思議な石は特定のポケモンを進化させる力を持つけれど、こうも粉々に砕けていては流石に使い物にならない。カビゴンあたりの座布団になったのか、はたまたポニータたちが蹴って遊んでいたのか。
    「リーフのいし見てたらセキさんの顔が浮かんで」
    「俺っつーかリーフィアだろ。自分が要らないからって適当な理由つけて人に押し付けんじゃねぇ」
    「本当ですって。ほら」
     一旦俺の手に握らせたリーフのいしの欠片を奪い、人差し指と親指でつまんで俺の髪に寄せる。出会った頃に比べてずいぶんと大きく節くれだった指先が、俺の髪を柔らかにかき分けた。冷たい。でも、こいつの指が冷たいんじゃない。俺の体が熱いんだ。おまえのかさついた指が俺の髪をかき分けて首筋の皮膚にふれるだけで、こんなにも熱い。身体の芯がじわりと熱を帯びる。変態か、俺は。
    「セキさんの髪の毛の色にそっくり」
     リーフのいしの欠片に重なった髪は確かに俺の髪色に近い。そりゃそうだ。この髪色は俺の相棒であるリーフィアに寄せたものであるし、リーフィアは言わずもがなこの石のかけらと結びつきが強い。
    「おれも同じかけらを持ってますから、おそろいってことで」
     ポケットから取り出したもう一つの欠片を目の前に掲げていたずらが成功した子供のように笑うおまえは、一体俺の心中をどこまで見透かしているのだろう。幼かった頃のおまえがこうして一人の男として成長する過程で、こんなにもおどろおどろしく、とても人様には言えないような、つまるところ言葉を選ばなくて良いのならば性的とも言える感情を、静かに静かに育ててきた俺のことを、おまえはどこまで。テルはいつまで経っても子供みたいなのに、だけどやっぱり着実に大人へと変貌していて、かわいいのに格好良くて、細っこいのに強く逞しくて、つまり好きなんだ。おまえのことが一等好き。でも気付くな。俺の想いに、絶対に一生永遠に気付くなよ。
    「調子のいいやつ……」
     受け取ったリーフのいしの欠片をこれ見よがしに乱暴な仕草でポケットにしまいこみ村の出口へ。一度も振り向かない俺の背に「セキさーん、次来る時はお土産持ってきてくださいねー」なんて大声で叫ぶようなやつはこの地方ではおまえひとりだけだよ。そう、おまえひとりだけなんだ。たったひとり、おまえだけ。
     村の外で、門番の目も外れた道の先でポケットにねじ込んだ欠片を取り出す。夕焼け空に照らされたそれはあまりにも美しくて、ろくに手入れもしていないこの髪に近しいと言うにはあまりにも烏滸がましく思えた。セキさんの髪の毛の色にそっくり。そう言ったあいつの言葉を脳みその隅っこで再生すると、たったそれだけで身体の中心が熱くなる。重症だ。もう元には戻れない。
     薄緑色の欠片に唇を寄せる。砂埃のにおいとイモモチの残り香。おまえらしいにおいだ。徹頭徹尾おまえらしい。ああ……好きだな。好き。好きだ。おまえのことが、たまらないくらいに好き。絶対に言葉になんかしてやらないけど、絶対に知られてなんかやらないけど。だけどおまえだけは知っていてくれてもいいよな。薄緑色の、この小さな欠片、おまえだけは、おまえだけはさ。
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