「とまあ、このような感じだが。どうかな、ふたりとも。私がいかに彼女のことを素晴らしいと感じているのか、流石にこれで伝わっただろう」
えへんと若干胸を張っている魔術師に、白貌の吸血鬼はなんとも言い難い表情で己が主を仰ぎ見た。
「ハイドリヒ卿……」
そもそも言及したくない気持ちのあまり、つい途方に暮れた声で主の名を呼ぶと、主は軽く目を伏せて、首を横に振った。光をよりあわせて紡いだような金糸が動きにあわせて揺れる。
「言うな、ベイ」
白い手袋に包まれた主の人差し指が、吸血鬼の唇をそっと押さえた。
どっ、と血液すべてが押し出されたかの如く、心臓がつぶれたような気がした。体内をめぐる血液がそのまま皮膚を突き破って全身から放たれかねないここち。
「私と卿の心はひとつだ」
唇の端を撫でた主の指先が、なだめるように吸血鬼の頬骨をなぞりおろして離れていく。
息継ぎをしそこねた。血液の流れの速さに、こめかみがずくずくと脈打っている気がした。
「ならばこそ、ここは恒例の台詞でしめるとしよう」
どれだけ胸の内がさわがしかろうと、主の言葉に導かれるまま、魔術師への悪態をつくことだけは忘れなかったので、良しとする。
「解せぬ」
心の底から不服そうに呟いたあと、魔術師はふと吸血鬼に冷笑を向ける。
「罪な男だろう?」
どこか優越感をにじませたそれに、吸血鬼は惜しみなく悪態と舌打ちを返した。