外出できないラインハルトを気遣って、この施設には蔵書が充実している書庫がある。
本人が興味を示したものだとか、読んでほしいものだとか、雑多に集められた本が、天井まで届く本棚に所狭しと詰め込まれている。
なにぶん現在のラインハルトは幼い身体なもので、上段に収められた本でも取りやすいようにと踏み台が用意されている。はずなのだが。
書庫の中を見回して、踏み台がない事に気が付いたラインハルトは、背後でにこにこと笑っている友人をじとりと睨んだ。
いやまったく心外だ、そのような目で見られるようなことはしていない。とでも言い出しそうな、実に堂々とした姿だが、白々しい。
ちいさく溜息をついて、本棚を見上げる。
カールの思惑はあまりにも明け透けなものだから、素直に頼るのはなんとなく癪だ。
つま先立ちで手を伸ばしてみるが、指先が目当ての本の背表紙をかすめることはなかった。
無言で跳ねてみるが、やはり届かない。
ぴょんぴょこ跳ねる度に、黄金の髪が風を含んで舞い踊る。
見守っている影のほうはますます上機嫌だ。
「時に獣殿」
「……なにかな、カール」
「あなたほどの人が、集団行動での役割分担の重要性を知らないわけがない。そうでしょう」
つつつ、と影がラインハルトの背後に迫る。子供の耳元に口を寄せるために影が身をかがめれば、少年期特有の華奢さを持つ首に、影の髪が絡みついた。
今度の溜息は深かった。まあもとより、この影は変なところで強情なのだ。
結局折れるのは私だし、変に意地を張ったところで疲れるだけと思えば、やる気もそがれていく。
「そうだな……。カール、あの本をとってくれないか」
「もちろん。あなたの望みを叶えられるのはいつだって私だけでしょう」