教育方針の違い 久しぶりに会った養子は動揺していた。血の気が引いた肌は、養子の実父を想起させた。顔かたちが良く似ているのは知ってはいたが、こうやって似ている部分を直に見ると確かに血のつながった親子なのだと実感する。
「どうして……ほんとうに?」
紫色の唇を震わせて、哀れっぽく養子は言った。
震えた声はなんとも頼りない。思っていた反応と違っていて、ラインハルトは少し首をかしげた。
この大橋での再会をラインハルトは結構楽しみにしていた。直接顔を合わせることにも、養子の成長を直に見ることにも。わざわざ張り切っていつもより何割か増しで神威が光として表れていた。
「もしかして緊張しているのか」
くすくすと笑いながら、養子の頬に手のひらをあてた。手のひらから伝わってくる体温は極度に低い。これはどちらかというともっと感情を薪に反発するタイプだと思っていたのだが、本当に様子がおかしい。
「俺たち、あのままで良かったじゃないか。ずっとあの家で、時の流れなんて関係ないまま……ずっとあのままで良かっただろ」
懇願であった。こんなことはやめて帰ろうという訴えであった。
こんなことのために、己よりもほかを選ばれたことが耐えられない。
ついにはこぼれた涙にラインハルトは少しの沈黙を経て、その表情に滲ませていた好戦の色を薄めた。柔らかい声音であやすように聞く。
「無理か?」
養子は言葉もなく、ただただ頷いた。何度も頷いた。
「ではしょうがない、約束だものな。良い良い、この世に私の腕の中以上に安全な場所などないよ。安心しなさい」
そうっと養子を抱き寄せて、ラインハルトは養子の背中をたたいた。
「カールよ」
呼びかけに応じて、いつのまにかそばに黒い影が降り立っていた。
遠くで事の成り行きを見ていた神父と螢が思わず後ずさる。
「決めたぞ、カールよ。此度の演目はこれで幕引きだ。この者、ツァラトゥストラに能わず。卿の代替は勤められまい」
「……これは、異なことを。私はそうは思いません。これを糧に、さらなる超越が可能かと愚考いたしますが」
「悪いが、今回は諦めてくれ。これは卿を通さずに交わした契約だ」
「契約ときた。では私との約束はどうされるのです」
「次があるとも。また作れば良い。そうだろう」
ラインハルトは言った。影は沈黙した。
しかし納得がいっていない様子なのは一目瞭然であった。
これ以上言葉を尽くしたところで、お互いの主張がまじりあうこともなく、妥協点もないのは明白であった。