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    しんどうゆか

    8月1日にチェリまほに再燃してしまった、しがない文字書き。本垢TLに流れてきた、バズった原作第1話(でんせつのはじまり)から追っていました(途中ブランクあり)。豊田先生のファンをしつつ、自分でもこそこそと文字を書いています。自給自足が楽しい。気に入る作品があれば嬉しいです。

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    しんどうゆか

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    チェリまほ95話を読んで、夏歌ベストみたいなのを聴いてたら、子供の頃に横須賀の海で、くろあだ出会ってないかなって妄想が走り出したので書いてみました。しんどう(作者)の妄想多分なことを留意の上お読みください。黒沢視点のお話です。イメソンは「secret base〜君がくれたもの〜」とか「LIFE」といったザ・夏歌です。海はいいですね(豊田先生の受け売りですみません)。

    #チェリまほ
    #くろあだ
    blackFats

    運命という名の魔法 子供の頃、俺は家族と一緒に、地元・横須賀の海へよく出かけて行った。
     ある年の夏に、その海で出会った、黒髪で色白の、憂いを含んだ表情がやけに印象的な男の子のことを、今でもよく覚えている。

     横須賀の港は軍港として有名だから、観光客もたくさん来ていた。その中で、その子は周りの様子を気にすることもなく、食い入るように、ただ海の方を見つめていた。
     邪魔をしてはいけないと思ったけれど、俺はどうしても、彼と話をしてみたいと思った。それで俺は、意を決して彼に話しかけた。
    「軍艦、好きなの?」
    「えっ……? あ……うん。好きだよ。カッコいいからな。……お前も好きなの?」
     突然話しかけられたことに、戸惑いを隠せないようだったけれど、彼は俺の質問に答えてくれた。おまけに彼は、俺に質問をしてくれた。だから俺は「うん、好きだよ」と返事をした。彼は何処となく照れ臭そうにして「そうなんだ」と返した。
     海や軍艦から、俺に興味を向けてくれたことが嬉しくて、俺は更に質問を投げかけた。
    「ぼく、黒沢優一って言うんだけど。君、名前なんて言うの? あと、何歳?」
    「清だけど。年は8歳」
    「えっ、そうなんだ! ぼくも8歳だよ。ねえ、名字はなんて言うの?」
     すると、彼はほんの少し表情を曇らせた。
    「おれ、もうすぐ名字変わるんだ。新しいの、母さんに聞いても忘れちゃった。だから、教えても意味ないと思う」
    「名字が変わるって……」
    「親が離婚したんだ。あいつと……母さんが」
     あいつ、というのは、父親のことを言っているのかもしれない。突き放すように、ぶっきらぼうに言った彼を見て、俺は猛烈に申し訳ないことをした気持ちになった。
    「ごめん。ぼく、聞いちゃいけないこと聞いて」
     俺が頭を下げて謝ると、彼は途端に慌てだした。
    「えっ、いや、別に。お前は、おれのこと、何も知らないんだし。そんな謝ることないだろ」
    「でも……」
     俺が俯きながら口籠ると、彼は幾分大人びた声で「おれは気にしてないから、気にすんなって」と言った。
    「っつうか、お前ってさ。横須賀に住んでるの」
     落ち込みを引きずりそうになったところに、彼は俺に質問をしてきた。だから、俺もなんとか気持ちを切り替えて、すぐに答えた。
    「あ、うん。そうだよ。家はここから、割とすぐ近く」
    「いいな。いつでも軍艦見れてさ。うらやましい」
    「えっと、清くんはどこに……あっ、ごめん。名前を呼んじゃって」
    「だから謝るなって。おれのこと、好きに呼んでいいし」
    「……うん、ありがとう」
    「おれはさ、この海の向こう側の千葉に住んでるんだ。今日も、あそこからフェリーに乗ってきてさ。だからお前みたいに、すぐには見に来れない」
    「そうなんだ……」
     俺は彼が指さした方向を見た。
     今なら彼の言っていたフェリーは、東京湾フェリーのことだと分かる。神奈川県横須賀市と千葉県富津市の道のりを、約40分で結ぶ連絡船。
     でも、あの頃の俺にとっては、海の向こう側の県が、遥か遠い外国のような気がして、隣にいる彼が急に遠い存在に見えて、悲しくなった。
     すると、彼が「なんでお前が、泣きそうな顔するんだよ」と言った。
     俺は自分が、そんなひどい顔をしていることに、彼に言われるまで全く気が付かなかった。
    「しょうがないじゃん。おれは千葉に住んでて、お前は横須賀に住んでる。ただ、それだけの話だって」
     諦めたように、どこか達観している彼の横顔を見ているうち、俺はどうにか、彼に笑ってほしいと思った。
    「ねえ。清くんがこっちにいられれば、いつでも軍艦を見られるでしょ? ぼく、お母さんにお願いしてみようか?」
     あの時は、彼の事情も深く考えずに言ってしまったけれど、それは俺の素直な、精一杯の気持ちだった。
     すると彼は、俺の顔をまじまじと見つめ、「お前、優しいんだな」と言った。
    「普通、出会ったばかりのやつに、そんな親切出来ないって」
    「えっ……と」
     何と返せばいいか、俺が口籠もっていると、彼は苦笑いをこぼした。
    「それにおれ、軍艦は好きだけどさ。たまに見に来たほうがいいことも、きっとあるよ」
    「そうなのかな」
    「ああ。だって、お前みたいな変わったやつに、突然出会えたりしてな」

     その後も、彼との会話のラリーが続くのが嬉しくて、つい話し込んでしまった。けれど、彼はこの港に軍艦を見に来たはずだ。邪魔をしては悪いと思い直し、途中から俺は、彼の隣で黙って海を眺め始めた。
     すると突然、彼が「海ってさ、いいよな」と言い出した。
    「え?」
     俺は思わず、驚いた声を出してしまった。だけど構わず、彼は言葉を続けた。
    「見つめてると、なんか落ち着くっていうか、沈みそうになった気持ちも、平らになる気がするから」
     俺は訥々と話す、彼の横顔を、ただただ見つめていた。
    「あと、キラキラ光った水面がすごく綺麗だと思う。大人ってさ、いや、子供も……綺麗なフリして汚かったりするから、あんな風にもっと綺麗だったらいいのに、って、おれ思うんだ」
     彼は海を見つめたまま、言葉では上手く言い表せないような、おおよそ子供らしくない表情をしていた。だけど、何故か俺は、その横顔がとても美しいと思ってしまった。
     場違いだとは思ったけれど、俺はありのままに思ったことを彼に伝えた。
    「ぼく、海を見つめる清くんの横顔、すごくきれいだと思う!」
     すると、彼は俺に顔を向けながら、呆けた顔をした。
    「そんなこと、生まれて初めて言われた」
     そして彼はくすくすと笑い出した。
    「えっ、なんで笑うの」
    「いや、だって。お前って……、やっぱり変わったやつだよな」
     この後は、特に何を話す訳でもなく、二人でただ、海の水面を見つめていた。
     黙ったままでも、不思議と気まずくなくて。むしろ、この時間がずっと続けばいいなと、その時の俺は思っていた。
     だけど、そんな時間は、突如終わりを告げる。
    「あ、清! まだここにいたのね」
    「……母さん。どうしたの」
     どうやら、彼の母親が探しに来たらしい。彼は母親の元に駆け寄って行った。
     俺はやや遠巻きにその様子を伺っていた。
    「ごめんね。もう少し付き合ってあげたいけど、和也がこれ以上は……」
     彼が母親の言葉を聞いて、側にいる小さな男の子に顔を向けた。あれはきっと、彼の弟だろうか。
    「いいよ。おれ、もう十分見たから。……ごめんな、和也。兄ちゃんに付き合わせて。フェリーに乗って、みんなで一緒に、うちに帰ろう。な?」
    「にいちゃん……」
     母親に向かって屈託のない笑顔を見せ、くずっていた弟の頭を撫でながら、優しく語りかけていた彼の姿に、俺と同じ年のはずなのに、ずっとずっと大人びて見えて、何故だか俺は、とても切ない気持ちになった。

    「ねえ、母さん。おれ、今度名字、何になるんだっけ」
    「……だけど。母さんと同じ名字よ」
    「そっか。……あのさ、ほんの少しだけ、待っててくれる? 和也もすぐ戻るから、待ってろよ」

     彼は俺に向かって走ってきた。こちらに振り向いた瞬間の、ほんの僅かに見せた切なげな顔が、俺と同じ男のはずなのに、やっぱり綺麗だと思ってしまった。
    「ごめん。おれさ、もう行かなきゃいけないんだ」
    「うん……」
    「えっと……少しだけだけど、お前と話せて、楽しかったよ。あとさ、いま母さんに聞いたけど、今度、おれの名字、安達になるんだって。だから、おれの名前は、安達清だ。……まあ、もう会うことはないだろうから、忘れてくれて、いいんだけどな」
     ほんの少し、苦笑いを見せた後、彼はふわっとした笑顔になり「優一くん、ありがとう。じゃあな!」と言った。
     不意に彼に名前を呼ばれ、おまけに、これまでに見たことのない笑顔を見て、俺は思わず固まり、呆けてしまった。そのうちに彼は、母親や弟と一緒に、あっという間にこの場を去ってしまった。
    「あっ……、まって……!」
     俺は彼に、話をしてくれたお礼が言いたかった。千葉県の何処に住んでいるのかも、ちゃんと聞きたかった。そして、彼と友達になりたいと思ったことも。だけど、その場に立ち尽くすことしか、その時の俺には出来なかった。
    「優一!」
     ふと後ろから、聞き慣れた女の子の声がした。振り向くと、そこには俺の姉が立っていた。
    「アンタ、こんなところにいたの」
    「お姉ちゃん」
    「ほら、そろそろ帰るって、お父さんとお母さん言ってたわよ」
    「……」
    「どうしたのよ? まさか優一、帰りたくない訳じゃないわよね」
     姉に向かって俺はううん、と首を振った。
    「友達にね……なれそうな子がいたんだけど、あの海の向こうに行っちゃったんだ」
     俺は、彼が向かった方向を見つめたまま、しばらくその場から動くことが出来なかった。

     その後俺は、彼にまた会うことが出来ないかと思い、親や姉にせがんで、何度かこの港に足を運び続けた。けれど、俺が彼と再び出会うことはなかった。

     小学校を卒業し、中学生、高校生、大学生と進級し年齢を重ね、たくさんの人々と出会ううち、いつしか俺は、彼の名前を忘れてしまっていた。
     けれど、あの日に見た彼の、黒髪で白い肌、綺麗な横顔、年の割に、やけに大人びた印象、そして名前以外の交わした言葉が、俺の中に深く残り続けた。

     それから更に時が流れて、大学を卒業した俺は、株式会社豊川に営業職員として就職した。
     入社して間もなく、俺は地味で要領が悪い同期、営業事務の安達と出会った。外見の印象は特に残らず、強いて言うなら、やけに肌が白い奴だなとは思った。けれど、新入社員の名簿を見た時、何処かで聞き覚えのある名前だなと俺は思った。

     数年後。俺が接待の席で失態を犯し、悪酔いをした日。その帰り道、安達に介抱されて、俺は生まれて初めて、自分から人を、安達のことを好きになった。
     あの夜に見せた、安達のふわっと笑った顔、それが何処かで見覚えのある表情だと思ったんだ。

     安達のことを、俺はもっと知りたくなって、色々とリサーチを始めた。その際、どうしても安達の名前が、俺の中で引っかかっていた。
     豊川に入社した当時から感じていた、安達の名前に対する既視感。遠い昔に聞いたような名前。そう、俺があの軍港で出会った、黒髪色白の男の子の名は――
     その時、俺の中に突然、ずっと忘れていた、あの日彼の言った言葉が、鮮明に蘇ってきた。

    『おれの名字、安達になるんだって。だから、おれの名前は、安達清だ』

     まさか。……いいや。
     そこまで考えて、俺はそんな都合のいい話はあるはずがないと思った。同姓同名、それは十二分にありうる。
     「安達」って名字の人には、これまでに何人も出会ったことがあるし、「清」って名前も、俺より年代が上の人に多いけれど、それでも割と聞く名だとは思う。
     でも確か、安達は軍艦が好きだと言っていた。
     そして、あの夏に出会った彼も……。

     その年の社員旅行。メインは鎌倉だったけど、自由行動の時間に、俺は安達と、横須賀へ軍艦を見に行くことになった。そこで安達の言ったこと、見せた仕草に、俺は思わず息を呑んだ。

    「俺さ、子供の頃から、海を見つめるのが好きなんだ。水面を見ているとさ。どんなに心がざわざわしていても、気持ちが沈まないで平らになりそうだから」

     海を見つめる安達の、憂いを含んだその横顔が、あの幼き日に見た、彼の横顔と重なった。そして、その言葉を耳にした瞬間、俺の中に残っていた昔の記憶とがっちり紐づいた。そう、あの彼も同じようなことを言っていたのだ――

    『海を見つめてると、なんか落ち着くっていうか、沈みそうになった気持ちも、平らになる気がするから』

     この時、俺は確信した。ああ、そうか。やっぱりあの時、この港で俺が出会ったのは、今、目の前にいる安達だったんだって。
     俺はこの奇跡的な巡り逢わせを、運命だと思った。


     それからまた時が流れ、紆余曲折の末、俺と安達は恋人同士になり、将来を誓い合う仲になった。
     お互いの家へ挨拶に行くことになり、事前にカップル履歴書という形で、それぞれの家族の情報を交換し合った。
     その際、安達が千葉県富津市の出身だということ、8歳の時にご両親が離婚し、安達が社会人になるまでの間、母親と弟さん、安達の3人で暮らしていたことを知って、俺はいてもたってもいられなくなった。
     安達は完全に忘れている様子だったけど、俺が8歳の時に、あの港で俺は、安達と出会っていて、千葉に住んでいること、両親が離婚したばかりで、弟がいることも、はっきりと聞いて、見ていたから。この事実を何としても伝えなきゃと思ったんだ。

    「ねえ、安達。ずっと昔にさ、横須賀へ来たことはなかった?」
     俺の質問に、安達は怪訝な表情を見せた。
    「ずっと昔って、いつ頃だよ?」
    「小学生の頃。例えば、8歳の時とか」
     少し思案した後、安達は「ああ」と口を開いた。
    「母さんが離婚した年の夏に、……確かに行ったな」
    「ほんと?」
     俺の問いかけに、安達は「うん」と頷いた。
    「あの頃のこと、俺、ほとんど記憶に残ってないんだけどさ。母さんと和也と俺の3人で、横須賀まで軍艦を見に行ったことと、その日見た海が綺麗だったこと、それだけはよく覚えてるよ」
     安達の言葉を聞いて、俺は胸が熱くなった。けれどやはり、俺と出会ったことを覚えてはいなかったようだ。……当たり前か。なにせ20年以上も前のことだ。事細かに覚えている人のほうが少ないと俺自身も思う。だけど――
     あの年の夏の何処かで、俺と安達は、確かに同じ場所にいた――その事実を安達から聞けただけで十分だった。俺は安達に伝えようとしたことを、静かに自分の中へ仕舞い込もうとした。
     ところが。安達は俺に、思いがけないことを言った。
    「あのさ。ひとつ今、思い出したことがあるんだけど。言ってもいいか?」
    「うん」
     俺は頷き、黙って安達の次の言葉を待った。
    「俺が横須賀へ行った日に、港で軍艦を一緒に見た、やけに顔が綺麗で、変わったことを言う……まるで黒沢みたいな奴がいたんだ。でも、話した内容やそいつの名前は覚えてない。だけど……家に帰ってから、そいつと友達になれば良かったかな、って思ったのは確かだよ。俺、昔も今も、友達少ないからな」
     そう言って安達は、俺に向かって苦笑いした。
     そんな安達とは対照的に、俺は湧き上がってくる嬉しさを抑えきれず、思わず笑みをこぼすと「やっぱり」と口に出した。
    「ん? なんだよ黒沢。突然笑ったりして」
     彼に伝えてもいいだろうか。まるで物語みたいな、真実の話を――
    「ごめん、笑って。安達の言う、その変わった奴のことなんだけどさ。実は――」
    「えっ……?」


     例え夢見がちと言われようが、魔法のような運命の出会いは本当にあると、俺は信じている。
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    しんどうゆか

    DONEどスランプ中のしんどうです。こんばんは。
    昨年12月に判明した首のヘルニアの症状も出てて絶賛ヤバみです。季節の変わり目め……ぐぬぬ。でも生きてます。浮上できてなくてすみません。
    映画や単行本の感想を書きたいのに書けない……そしてドルパロ書きたいと迷走している時に、別のアプローチでアウトプットしようとして出来た作品です。別名・ポエマー黒沢三部作。
    あなた様のお好みに合いましたら幸いです。
    アンコールの音(ね)が聞こえる。⚠️ATTENTION⚠️
    私が入浴中に思い付いた「アンコールの音(ね)が聞こえる。」をキーワードにして書いた小説3作品です。ドルパロ・原作本編・学パロの順になってます。話は繋がっていません。フィーリングなので許してください。






    @アイドルパロ

     俺達を呼ぶ、アンコールの音が聞こえる。
     ここは東京ドーム。5万人という超満員のオーディエンスがひしめき合う、国内屈指のコンサート会場。
     本編のセットリストを歌いきり、一度楽屋に戻った俺達は、モニターでその様子を目の当たりにし、込み上げて来るものがあった。

     有名漫画家のシナリオが原案の「アイドル×BL」ドラマプロジェクトが発足してから約5年(ドラマ放映と同時に、原案者本人によるコミカライズも行われた)。
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    しんどうゆか

    DONEチェリまほ95話を読んで、夏歌ベストみたいなのを聴いてたら、子供の頃に横須賀の海で、くろあだ出会ってないかなって妄想が走り出したので書いてみました。しんどう(作者)の妄想多分なことを留意の上お読みください。黒沢視点のお話です。イメソンは「secret base〜君がくれたもの〜」とか「LIFE」といったザ・夏歌です。海はいいですね(豊田先生の受け売りですみません)。
    運命という名の魔法 子供の頃、俺は家族と一緒に、地元・横須賀の海へよく出かけて行った。
     ある年の夏に、その海で出会った、黒髪で色白の、憂いを含んだ表情がやけに印象的な男の子のことを、今でもよく覚えている。

     横須賀の港は軍港として有名だから、観光客もたくさん来ていた。その中で、その子は周りの様子を気にすることもなく、食い入るように、ただ海の方を見つめていた。
     邪魔をしてはいけないと思ったけれど、俺はどうしても、彼と話をしてみたいと思った。それで俺は、意を決して彼に話しかけた。
    「軍艦、好きなの?」
    「えっ……? あ……うん。好きだよ。カッコいいからな。……お前も好きなの?」
     突然話しかけられたことに、戸惑いを隠せないようだったけれど、彼は俺の質問に答えてくれた。おまけに彼は、俺に質問をしてくれた。だから俺は「うん、好きだよ」と返事をした。彼は何処となく照れ臭そうにして「そうなんだ」と返した。
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