We're getting married「結婚する」
確かにアーサーは、突飛なことを言い出す面があった。好奇心や冒険心が強いのだ。冷静で賢いアーサーの、そういう情熱的なところをヒースクリフは気に入っていた。とはいえ、今聞こえた言葉は、いくらなんでも聞き間違いとしか思えなかった。
「アーサー」
ヒースクリフは手袋を外して、アーサーと自分の間にあったひとり分程度の席を詰めた。革張りの古いソファが鈍い音を立てる。アーサーの右手をとり、その手を包む黒い手袋の中へ自身の指先を差し入れると、手袋はゆっくりと外れ、やがて床へ落ちた。あらわになった白い指先とよく整えられた爪に手を重ねる。
パンテーラの白と青のスーツは冷徹と品格を、黒い手袋は沈黙と権威を示していた。そしてもちろん、革製の手袋は指紋を残さないために。いくら法執行機関がろくに機能していない街とはいえ、仕事中にこれを外すことはまずない。
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