風邪設定
◆清春・小太郎が友人関係でシェアハウスしてる
◆尚、お互い恋愛感情が無い
風邪を引いた。
朝、出掛けるときに喉が痛いな、と思ったくらいでそれ以外に不調は感じなかった。
喉の痛みも乾燥から来るものだと高を括っていたが、時間が経つにつれ段々と体の節々が痛くなってきた。
内側にこもった熱が外に発散されない、なのに冷や汗と悪寒が止まらない。
これは風邪を引いたな、と確信したのが夕方。
レッスンから帰る途中、小太郎に「風邪引いた」と簡潔にメッセージを送ると暫く経ってから「病院行け。」と簡潔な返信。
そりゃねーだろ、と肩を落とす。
大丈夫、辛くない?とかあるだろ他に言う事。
怠い体で帰宅すると外に出るのが億劫で病院に行く気にはなれなかった。寝間着代わりのスウェットに着替えてベッドに潜り込み目を瞑る。
ふいに、物音がして目が覚めた。
ドアの開閉音から察するに小太郎が帰ってきたのだろう。部屋の時計を見ると針は7時を指している。
1時間程眠っていたようだ。
重い体を起こしリビングに顔を出すと、小太郎はスーパーに寄ってきたらしくテーブルの上で麻袋から買った物を取り出していた。
現れた清春を見て、パタパタと駆け寄ってくる。
「病院は?」
「行ってへん。」
「熱は?」
「測ってない。」
「じゃあ測れよ!」
促されソファに座る。
小太郎はリビングの棚の上に置かれた薬箱から水銀式の体温計を取り出して清春に差し出した。受け取ったそれを脇に挟んでソファの背もたれに沈む。
「食欲は?」
「あんまりない。」
「お粥くらいなら食べれる?」
「作ってくれんの?」
「レトルト。」
「十分。」
小太郎は水を入れた鍋を火にかけ、机の上に置かれたいくつかの品物の中からレトルトの粥を手に取り茹で時間を確認していた。
わざわざ買いに行ったのか、とふと机に置かれた品物を眺めると、うどんやらみかんの缶詰やらビタミンCの入ったレモン系飲料やら、風邪を引いた時の必需品ばかり並んでいる。
思わず息を吐き出し天井を仰いだ。
「大丈夫?」
そんな清春の様子に小太郎がぎこちなく覗き込んでくる。
「熱、高そうだね・・・、座ってるの辛い?」
冷たい手のひらが清春の額に押し当てられる、その体温が気持ち良くて目を瞑った。
「いや、大丈夫。」
頷くと小太郎は少しほっとした様子で清春から手を離しキッチンへ戻っていった。
湯気を立たせた鍋の中に粥の袋を入れると時計を見上げ
清春、体温計
と声をかけてくる。ごそごそと取り出して確認すると、
「8度7分。」
思いの外、高い数値を叩き出していた。
「え、そんなに!?」
小太郎は清春の隣に座ると、渡された体温計を見て眉を潜め、何度か角度を変えて確認する仕種。
「何回見たって8度7分だって。」
「・・・時間外受付の病院行く?」
「そこまでしなくても大丈夫だと思うけど。」
ここまで高いとインフルエンザの可能性が出てくるが、正直なところ病院に行くのがしんどい。
病院は徒歩圏内にあるが、その距離はあくまで元気な時の話だ。
9度近い高熱でそこまで歩くくらいならベッドで寝ていたい。タクシーという選択肢は、最終手段として取っておく。
「ひとまず薬を飲んで、明日熱が下がってなかったら病院行こう。」
その言葉に頷くと、小太郎はキッチンに戻りレトルトの粥を鍋から取り出して茶碗に盛り付けた。
清春もソファからダイニングテーブルまで移動し机に置かれたお粥を食べ始める。
「至れり尽くせり・・・」
「はい?」
出しっぱなしになっていた缶詰を仕舞いながら小太郎が聞き返してくる。
「返信は素っ気なかったのになぁ、と思って。」
「風邪引いたってだけじゃ程度が分からんし!」
「それもそうか。」
梅味の粥を飲み込みながら文章だけじゃ分からないもんだなぁとつくづく思う。今、目の前にいる小太郎の表情、行動、声や言葉、全てからどれだけ自分を心配してくれたのかひしひしと伝わってきた。
「やばい、風邪最高・・・」
向けられる感情が心地好すぎて、なんなら暫く寝込んでいたいくらいだ。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと治せ。」
呆れた声音と共に水の入ったグラスと薬が目の前に置かれる。
「ありがとな。」
「…お礼なら治ってからお願いね。」
うっわ、と悪態をつくと、
小太郎は、それ言えるくらいなら大丈夫だね。
と頷いた。
end