「そういう自虐的な趣味なの?」って五条先生から庵先生に言ってほしくない? 庵先生に五条先生から言われててほしくない?
私は言ってほしいし言われててほしい。
曲がワンナイトの話だってのは分かってんだけど。「今宵生まれては今宵消え行くままの恋じゃない」ってところに、この2人が完全に今夜初対面ってことはない気もしていて。女性が自暴自棄な恋愛をしているのを、恋人に立候補もできず(しても相手にされないかはぐらかされるか冗談扱いされるかしてるのかもしれん)他人の距離から「あーあ」って手をこまぬいて見てる男性、という図式も成り立つんじゃないかってずっと思っている。そして今夜の彼はついに手を伸ばしてしまったのだ。
「直接な口づけがcock-a-hoop」でもうね、無下限解いてるんだなってね。思っちゃうよね。五条先生テンション上がってんね。「大都会午前25時 帰れない 帰しはしないから」の独占欲感よ。
>もっと裸でタブーを泳ごう
>声にならない声が今 何よりもおしゃべり
五条先生は無下限を解いて、庵先生は強がりを解いて、きっと抱えてる立場とか建前とかそういうものも全部かなぐり捨てて向き合ってくれ……。互いの体温が気持ちいい。求め合う声が心地いい。衝動に操られる体のなんと正直なことか。
五条に溺れたらダメになる、情に絡めとられたらあとは落ちていく、この男以上にとらわれる男はいない、というのを何となく察している庵先生。五条先生じゃない男性との恋愛もしてきたけれど、そんな男の影がチラつくようでは、うまくいくはずもなく。
「仕事と俺と、どっちが大事?」
「その後輩と俺と、どっちが大切?」
うるさい比べられるもんじゃねえんだよ全ての重みを抱え込んで慈しんでやるんだ。そんなこんなで男性に振られて、酒に酔ってんだろうな、この夜の庵先生は。
酔いに任せてか、酔いにつけ込まれてか、なだれ込んだ渋谷・円山町で、未明まで“泳ぐ”羽目になる。体の相性がいい。今までの男性たちの、なんならこちらを振ったばかりの男性の名前すら頭にチラつくことがない。夜の記憶が、圧倒的な存在に塗り替えられていく。
>なぜに体と気持ちを競わす? そういう自虐的な趣味なの?
>無理に演じたりするから「君は強い女(ひと)」だからってふられたりしたでしょう?
突き動かされるままにこちらに落ちてくればいいと、五条先生は待ち構えるとは言わずとも奈落の底から庵先生を眺めてきた。頭で考えて弾き出した理性的な振る舞いを好む庵先生を、揶揄する。誰をも懐に入れず(だってもうその懐には僕がいるのだから!)、呪術師として心身に傷を抱えても泣き言も言わず(身も心も傷ついてなお立ち上がり前を向く仲間たちを知っているのだから)、そんなふうに“強く”あるから。歌姫のこころのやわいところに触れられもしないどころか気づきもしない鈍な奴らに、そんなこと言われちゃうんでしょう。
>爆ぜては元の他人へと
>恋にならない恋が今 夜のしじまに消ゆ
慰めのような、血のにじむ傷をなめてやる下手くそな手当てのようなこの夜は、朝が来て庵先生の目が覚めればなかったことになる。また元の、先輩と後輩、同僚に戻る。奈落の底から見上げていた眩しい生き物を引きずり落として束の間溺れた、まほろば。男が恋を告げることはない。女が目を逸らしている愛の気配に気づかせることもしない。
でもそこからなんか始まってくれ頼む。
これね、描写するならたぶんピロートークだけじゃだめなのよ。夜のさなか、ことを進めながら、服をはぎ取って心を剥きながら、一つになりながら、すがらせながらってのがいいんだと思う。心と体のシンクロナイズ。ほらこんなにもきみのからだはやわらかで、おなじだけ、こころもやわい。外面だけの評価で君を切り捨てた男たちと、僕は違うよ。女の内側に入り込んで、実感とともに存在を刻み込む。
頭の沸いたことを付け加えると、楽曲の所属がいわゆる赤リンゴ🍎青リンゴ🍏のアルバムでさらにそれらを引っ提げたライブがPurple'sなのがいいなと思ってしまうやつ。蒼も赫も茈もいわゆる青・赤・紫とは違うけど、「あお+あか=むらさき」という概念が重なるのがなんか良い。
(2109250538)