鶴鯉 匂いは記憶になるという。
五感の中で最も長く記憶に残るのは、他神経を介さない嗅覚。ダイレクトに刺さる分印象も強くなる。
金木犀の香りで澱粉糊を思い出し、園児の頃と結びつけるように、香りというのは人間にとって重要かつ懐古をも齎すものでもある。
それを知っていて自らに取り込むのが、“鶴見篤四郎”という男だ。
人当たりが良く紳士的な性格。頭も回り上にも物怖じしないので猛スピードで出世した。慕われながらも一目置かれている。彼に見合った外見もそれを助長させる。丁寧に撫で付けられた黒髪は年齢を感じさせず清潔で、ふいに何本か束で崩れ落ちても色気を増して好印象しか与えない。ダークトーンのスリーピースは体にフィットしたカスタムメード。街灯のみが息づく街角、裏路地の隠れ家バーと洋楽とウイスキーが似合うと後輩らは語る。
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